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万能剣士は月夜に現れる  作者: 桐村 三歩
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郊外の森にて

 木々のざわめきが悪霊を思い起こさせた。

 ごうごうと不気味な音が耳をつく。

 夕陽が弱々しくオレンジ色の光を届けていたが、それがかえって闇を引き立たせる結果となっていた。

 逢魔が時とはよく言ったものだと思う。

 実際、この時間帯になると魔獣の勢いが活発になるのだった。


 ここはポワイエ郊外にある森の中。

 住民を守る城壁からおよそ十五キロ離れた場所だ。

 おれは注意深く大木の影に身を潜めた。

 呼吸を小さくし、気配を消す。

 一方で気魂を充実させて身体強化を図るのは忘れない。

 発生させた気魂は身体の外枠で蓋をし、ターゲットがそれを勘付かないように気をつけた。


 工房と鍛冶場での仕事はおれの生活時間の大部分を奪っていた。

 正直言って、このまま働き続ければいつ倒れてもおかしくなかった。

 給料もある程度は貰っていたが、それを使うだけの時間的・体力的な余裕が乏しかった。

 仕事場の床で寝る生活は惨めだ。

 明け方になると勝手に涙が滲んでくる。


 そんな状況の身体と心に鞭打って、おれは魔獣狩りに出かけていた。

『鍛錬せよ』

 おれに剣技を教えてくれたベルグランド公爵の声が夢に出てきたからだ。

 泣き言を言ってはいけない。

 思考を放棄してはならない。

 道は自らで切り拓かねばならない。

 ぐっと唇を噛み、震える背中を押さえつけた。


「・・・きた」


 思わず呟く。

 視線の先には二メートルに届こうかという巨体が蠢いていた。

 姿形は人間に似ているが、筋肉のつき方や骨格の迫力は遥かに強靭な力を感じさせる。

 何よりも全身から噴き出すその気配は、禍々しく暴力的だった。


 それはオークキングという。

 魔獣の中では比較的有名なオークの上位種だ。

 群れを束ねて行動することが多いが、冒険者ギルドで広まっていた話によれば、ここ数日単独行動のオークキングがいるとのことだった。

 理由はわからない。空腹に耐えかねて自ら狩りをしているなど、様々な憶測を呼んでいた。


 噂の元はこいつに違いない。

 直感的にそう判断すると、おれは臨戦体制に入った。

 立ち止まったオークキングからバキバキと何かを砕く音がする。

 目を凝らすと、オークキングは何かを食っていた。

 原型をとどめていないそれは、おそらく数十分前までは四つ足の動物という存在だったろうことを想起させた。


 胃の中から酸っぱいものが逆流したが、それを飲み込んで抑えた。

 慎重に息をゆっくりと吸い込む。


「いくか」


 小さくつぶやき、地面を蹴った。

 ヒリヒリと頬が風の刺激を受けた。

 アドレナリンがどっと吹き出してくるのがわかる。


 おれは重心を低くし、右手で腰にある佩刀のツカを握った。

 漆黒の鞘に収まったその武器を「刀」と呼ぶ。

 東方の国で使われる伝統の武器だ。

 幾層にも鋼を重ねて鍛えた刀身は柔らかく、そして強靭であった。

 養父母の元を逃げ出した時、おれは実の両親の形見であったこれを持ち出したのだった。


 弾丸をイメージしながらオークキングに駆け寄った。

 間合いに入ると、右足を前に出して踏ん張った。

 体制を低くし、刀を抜き身で下から薙ぎ払う。

 おれに剣を教えてくれたベルグランド公爵によれば「居合」という東方の国の技だそうだ。

 『ガァぁぁぁぁぁ!!!!!」

 背中を左脇から右肩まで斜めに切られたオークキングが叫び声を上げて振り返った。

 傷は深いが、致命の一撃にはならなかった。

 もちろん、これだけで決着がつくとは思っていない。

 次の技に移ろうとしたところ、オークキングの右腕がしなった。


「うぉ!!!」


 間一髪。

 バックステップして避けたが、オークキングの手には巨大な斧が握られていた。

 死角に入っていたので見えなかった。

 危うく頭を持っていかれるところだった。


「ふっ」


 短く息を吐き、刀を前に構える。

 オークキングはふぅふぅと荒い息をついていた。

 くせぇ息を吐くなよな、と心の中で悪態をついてみた。

 あらためて気魂を充実させる。

 もう視認されている以上、隠れなくとも良い。

 ビクッとオークキングが身構えた。随分と用心深い魔物だと感心する。


 双方が動きを止めているが、ジリジリと緊張感が高まっていた。

「むん」

 土地面を蹴って間合いを詰めた。

 その戦いの場を支配せよ。先手を打つことはそのためだけでも価値がある。

 ベルグランド公爵の教えだ。


 一瞬でオークキングの至近距離まで近づき、刀を振るった。

 二合、三合。

 ガチンという金属音が鳴り響いた。深まった闇に火花が散った。

 だが、深傷を負っているオークキングは痛みが気になるのか、やや集中力を欠いていた。

 おれが刀を振るうたび、体制が泳いだ。

 そこに隙が生じた。

「グアァァァ!!!!」

 鳴り響く叫び声。おれの刀がその右腕を肘から切り落とした。

 ガランと音を立てて斧が地面に転がる。

 勝負あった。

 おれが勝利を確信した次の瞬間、オークキングの首と胴が離れた。

 最後はジャンプして刀を振り下ろし、この命のやりとりを終わらせたのだった。


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