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Smoky Breath  作者: 音羽 裕(Yutaka Otowa)
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2nd progress「新天地へ」

 この物語には「共通語」と「ローカル語」の二つの言語が混在しています。ここで少し「共通語」についての補足をしたいと思います。

 世界が21世紀に突入した西暦2001年、世界が本格的な国際化の時代に入った事をきっかけに、主に北米、ヨーロッパ諸国の主導のもとで、主にゲルマン言語及びラテン言語を軸とした世界共通語を作ろうとする動きが強まりました。2010年頃にはほぼ大まかな枠組みが完成し、2013年「世界共通語」は公用語として国連に認定されました。

 これを受けて日本でも「共通語教育」が義務教育で行われる事が決まり、これまでの英語教育に代わって「共通語教育」が重要視されるようになりました。しかし日本では汎用言語としての「共通語」はあまり定着せず、それから20年以上経った後も日本人は公的な場所、及び外国人との会話では共通語を使うものの、私生活上では「ローカルな言語」である日本語(祐一、幸四郎の場合は名古屋弁)を用いている、と言うわけです。


 理解して頂けたでしょうか? それでは、続きをどうぞ。


2nd progress「新天地へ」


 ザァァン……ザバッ! ザァァン……


 なんだかやけに気持ちいい。

 澄み切った波の音が、砕けながら段々とこちらへ近づいてくるような気がした。

 視界は一面、青一色で埋め尽くされて……記憶だとか、いつか見た景色だとか、色んな物や出来事がゴチャゴチャに入り乱れてる。俺はドラッグなんてやったことないから分かんないけど、これがいわゆる幻覚って奴だろうか。

 どこまでが幻で、どこからが現実なのか。その境目さえ理解できなかったけど……それでも、波が寄せては返し、砕けていく涼しい音色だけは、ハッキリと耳の中に流れ込んでる。

 なんだかまるで、黒く濡れた砂浜にペタッと座り込んで、ぼんやりと快晴の空をただ眺めているような。耳元だけが頼りだけど、なんだかそんな感覚に陥る。腰まで水に濡れて、延々続く海と混じり合ってる感触。

 子供の頃、内海だとか師崎だとか、近場の海辺にはよく遊びに行った覚えがある。浜辺にバケツそのまんまの形をした丘を盛ったり、片方だけでっかいハサミを振って逃げるシオマネキを追っかけたり。無心のままで過ごしていたその時間を、今うっすらと思い出す。

 懐かしいな……できればずっと、このままでいられたらなぁ。

 切々と、淡々と、俺はただ、そう思った。


「ふぅ……ざっと80マイルは飛んだんじゃないかな?」


 なんて、半ばトリップ気味になってた矢先だ。さらりとしたその声が、ふと俺の心を元の場所に帰した。


 ハッと気が付くと俺は、右手で掴んだジュネの手をこれでもかってくらい強く握りしめたまま、浜辺のど真ん中に立ち尽くしていた。

 砂浜に打ち上げ、染みてはあっという間に消えてく海水が俺の目に映る。さっきから響いてた波の音は、夢の中でも幻聴でもなくって、紛れもない本物だったんだ。

 隣では俺と同じく困惑した表情を浮かべたコーが、まるで枯れ木の幹みたいにボーっと突っ立ってる。


「俺……生きてんのか?」

 なんだか気分は、果物屋に置いてあるミキサーの中身みたいに、グシャグシャにかき回されてる感じだ。

 俺はそのまま、辺りの景色をグルッと見回してみる。泡だった海の上空から真っ直ぐに射すのは、黄色がかった柔らかな日光。そろそろ、日も緩んでくる頃みたいだ。

 波間の向こうに続くのは、だだっ広い砂浜と海。そこから数十メートルぐらい西に向いた辺りには、見たところ何キロも続いてそうな松林が見える……っていうか、ここは一体どこなんだ?


 なんて、うっすら考えながらその景色を傍観していると、浜から吹く風に乗った潮の薫りが、俺の鼻を何度もくすぐった。

 そっか……俺、やっぱ生きてんだ。ここまできてやっと、俺は「生きてるんだ!」ってことを実感した。


「うーん……それより、どこだよ? ここ」

「さぁ?」

 前髪を思いっきり掻き上げながら、コーはブツブツとジュネに問いかけた。けど、そんなコーにすらジュネはあっけらかんと答える……つーか、なんて無責任な。

「私はただ遠くまで飛ぼう、そう思っただけだから……ハァッ。さすがに50マイル超えると、かなり身体にこたえるねぇ」

 両腕をクジャクの羽みたいに目一杯に広げながら、ジュネはカラッとした口調で答えた。けど、彼女はなぜだかすごい辛そうな表情を浮かべてる。目をパチパチさせながら何度も息を吐いてるし、どうやら言葉通りその疲労は相当みたいだ。

 それにしても、ホントにここは一体どこだろう? 少なくとも、さっきまでいたはずだった名古屋の中心部からは、ずいぶん離れちまったみたいだ。

 「遠くまで飛ぶ」だの「50マイル」だの言ってる限り、少なくともここは名古屋からずいぶん遠く離れた場所なんだろう。50マイルって具体的にどれくらいなのか、俺は分かんないからなんだけど。

 でも、まだ引っかかることは残ってる。

 俺が今、50マイル離れたとこにいるのが事実だと仮定してもだ。ジュネが俺達を、そんな遠く離れた場所まですっ飛ばしたってのか? でも……そんなのどうしたって信じられない。いくらなんでも、そんなのメチャクチャだ。


「……ん? なあ、祐さん。あの人に聞いてみん?」

 なんて、どうにも腑に落ちない思いを抱えてたたずんでたその時。

 ふとコーが、浜辺沿いの道を行く漁師風のオッサンを見つけた。

 くすんだ紺色の上下に黒の長靴。銀行からの貰いもんっぽいボロタオルを首にぶら下げ、更には大きな網をまとめて担いでる。一目見て、すぐに土地の人だって分かった。

 かくなる上は、地元人に聞くしかない。俺達は何を迷うことなく、そのオッサンに向かって大きく手を振った。

「すいませーん! どこですか? ここ」

「ハッハッハッ、なんだい? 変なこと聞くなぁ」

 色黒で、ラグビー選手みたいなごっつい体格のそのオッサンは、その体に似合う骨太な声で笑い声を上げた。

「ここがどこかって? そこに書いてねえかい?」

 オッサンはそう言うと、海岸に寄り沿って続く道路を隔てた、そのさらに向こう側を指さす。俺達はその指の動きを追って、指し示された方向にじっと目線を合わせた。


「ウミガメの産卵地、御前崎海岸 環境保護にご協力下さい」


「おまえざきぃ?」


西暦2037年7月12日 20:58

静岡県 御前崎市


「すいません。こんなによくしてもらって」

「なになに、気にせんでええよ」


 どういう訳か知らないけど、俺達は御前崎にいる。

 俺はまだ名古屋の中心、栄からここまでぶっ飛んできたなんて、とてもじゃないけど実感が湧かない。けど、でも俺達が今、御前崎にいるってことは紛れもない事実だ。どうケチつけたようとしたって、事実は事実なんだからどうにも疑いようがない。


 そしてどういう訳か、俺達は今日水揚げされたばっかりの新鮮な魚にかじり付いてる。さっき海岸で声をかけた「田崎さん」とかいうオッサンが、厚意で俺達を一晩泊めてくれる事になったからだ。

 「人間万事~」ってカビの生えた古い言葉があるけど、何故だかそれをふっと思い出した。巡り合わせってのは恐ろしい反面、面白いもんだって改めて思う。

 なんて考えたって、今の状況がどうにかなる訳じゃないな。それよりもまずは腹を満たさないと。「腹が減っては~」あっ、これもカビ生えてるか。

 俺とコーは、とにかく先に立つ空腹に任せたまま、刺身にありついた。


「どうしたんだい? あのお嬢さん、飯も食わずに寝ちまったけど……」

「ああ、どうやらだいぶ疲れとるみたいやで、寝かしといたって下さい」

 ジュネは田崎のオッサンの家に着くなり、力がガクンと抜けてしまったみたいにグッスリと眠り込んでしまった。

 考えてみりゃ、名古屋から御前崎まで距離はざっと130kmはある。それだけの距離を一息で飛び越えてきたんだから、何かその反動が出たのかもしれない。

 さっきまではさんざんジュネのこと疑ったり、小馬鹿にしたりとかしてたけど……ともかく、今日ジュネに出会わなきゃ、俺はこんなところで悠長になんかしてられなかっただろう。

 なんだかよく分からないけど、とりあえず俺は死なずに済んだ。金髪猫目の我らが救世主に、まずは感謝しとこうかな。


「名古屋から逃げてきたんだって? そりゃまあ、大変だったろうに」

 空いた食器を次々と盆に乗っけながら、ふっと田崎さんの奥さんが訊ねてきた。すっごい心配そうに、俺とコーの顔を交互に覗き込みながら。

「えっ、ええ……」

 俺はイエスともノーともつかない中途半端な答えを、奥さんへと投げ返した。

 ホントのところは大変だったっていうか、とにかく何がなんだか分かんない内に時が過ぎちまったんだけどなぁ。けど、栄の駅でもみくちゃにされたりといろいろあったし、何かと大変だったってことにしとこう。

「しっかし、よう逃げられたもんだな。ホレ、見てみい」

 ブツブツ言いながらオッサンはふと、さっきからずっとつけっぱなしのテレビに目をやり、そして眉間にしわを寄せた。

 俺達もまた、その画面に目をやる。なんだかもういい加減、見飽きた映像なんだけど。


「えー、こちら、名古屋市に隣接する長久手市から中継でお伝えしております。

 えー、ただいま名古屋市は各交通機関、一般道ともに完全に封鎖されています。既に夜も更けてきたこともあって、残念ながらこちらからは市内の状況は全くうかがう事はできません。現在、防護服を身につけました自衛隊の特殊部隊及び救急隊が生存者の救助に当たっていると思われますが、どの程度救助が進んでいるのか、また生存者がどれくらいいるのかということも全く分からない状況です。以上、長久手よりお伝えしました」


 テレビはさっきからずーっとこの調子。真っ暗闇の中を赤いランプがぐるぐる回ってるだけで、あとは「何も分からない」の一点張りだ。

 名古屋に残してきた友達の顔が、さっきからずっと俺の頭から離れない。コウタ、香苗、ヒデさん、将ちゃん、マリカ、優美……今、俺がこうしている間にも、あいつらは死の灰に埋もれてるのかもしれない。

 止まりそうもない苛立ちを覚えながら、俺はゆっくりと箸を置いた。

 俺には何もできやしない。こんな時になったって、俺は人を救い出す力なんて持ち合わせちゃいなかった。ただ、ジュネの力を借りてここまで逃げ延びただけだ。無力だなぁ。

 なんだか……何もしないでのうのうと助かった自分が、卑怯に思えてきたな。なんだか、すごくもどかしい。

「まだ……なんか、夢見とるみたいやな。ハハッ……」

 虚ろな目でじっとテレビを見つめながら、唐突にぽつりとコーがつぶやいた。言葉尻に漏らした笑い声にも、いつもの軽やかさなんて欠片もない。

 たぶんコーも、俺と同じようなことを思ってるんだろう。こいつとはつき合いが長いだけに、考えている事は7割方ぐらい感じ取れる。

 まあ、俺にとって一番の親友が一緒に助かっただけに、少しは幸運だったかな。もし俺が一人だけでのうのうと助かったんなら……たぶん今頃、狂ってただろう。


「もし、もしもな。これが悪い夢やったら……早よ覚めてほしいよな」


 ギラギラ輝く赤ランプと、アナウンサーのオッサンが入れ替わりながら交互に映ってるだけのテレビから目を反らすと、コーはカクーンと肩を落とし、力の抜けきった声でつぶやいた。


 涼しい夜なのに、なんだかやけに喉が渇く。俺は苦し紛れに、冷えた麦茶をカラカラの喉へと一気に流し込んだ。


西暦2037年7月13日

御前崎港


 古びた漁船が東からの光を浴びながら、うねる波の上を突っ切るように駆け抜けていく。ここらみたいな漁師町では、ごくごく有り触れた光景だ。それを乾いた浜辺から眺めながら俺は、もう何も信じられなくなった自分の心の置き場を探していた。


 脳裏には、今朝ブラウン管越しに見た瓦礫の街がずっと焼き付いてる。いくら頭から突き放そうとしたって、いつまで経っても離れやしない。

 つい昨日まで、自分の生き方に何の疑いもなく6年の時を過ごしてきた街。それがほんの一回の瞬きで……なんか、これ以上はもう語る気も起きやしないな。


 現実。げんじつ。現実なんだ。これが……現実なんだよな。


 俺はジーンズのポケットからタバコを1本取り出して、思い切り煙を吸い込んだ。タールの苦みとツンと鼻を突く香りが開放感を連れて、胸の奥から指先へと伝わっていく。


 何も考えたくない。今、この瞬間だけは安らいでいたい。心を切々とした時の流れから切り離したまんま、俺は淡々とそう思った。


「いつまで、こうしとるつもりなん?」

 無言のまんま、ちょうど3本目を吸い始めた頃。風でグシャグシャに乱れた長い髪を整えようともせず、隣でボーッと水平線を眺めていたコーが、国道1号線の路肩で死んでる野良猫みたいな瞳で俺に問い掛けてきた。

 髪が乱れりゃすぐセットし直すわ、こまめに化粧もするわ、普段は典型的ナルシストのコーが、今日はボサボサ髪で無精ヒゲも伸ばしたまま。こいつも相当重症だな。

「さあ……な」

 なんだか中途半端な答えを、俺は無意識のうちにコーへと突き返していた。まあ、まともに答えようなんていう気力なんて、今はどこからも湧いてきそうにないな。

「なあ……帰らん? 津島へ」

 海をじっと見つめたまま、続いてコーはあまりに突拍子もない言葉を口にした。

 津島へ帰る……だぁ?


 愛知の西の方にある津島市には、俺とコーの実家がある。名古屋周辺で線路はあらかた消し飛んでるだろうけど、長野、岐阜方面へ遠回りすればどうにかたどり着けなくもない。

 って言っても俺達はお互い、中学時代に散々悪いことを堪能した挙げ句、自分勝手に親元を飛び出したっきりだ。今さら親のスネをかじれる訳なんてない事は、俺自身が一番分かってるけどさ。

「ハハッ。お前なぁ……今更どの面下げて、実家に帰るつもりや?」

「んなこといったって……この際、背に腹はかえられんやろ? じゃあさ、祐さん。俺達だけの力で、どうやってこれから生きていくん?」

 俺はコーの言葉を小耳に挟みながら、ジーンズのポケットに入ってた自分の財布を取り出し、中身をちらっと覗いてみた。

 えーっと……万札3枚に千円札4枚、後はチャリ銭が少々か。このままじゃ……毎日野宿したって1ヶ月もたねえな。

 どうしよう。マジで。

「とりあえずな、祐さん。まずは豊橋まで行ってみん? ひょっとしたら、救援物資の支給があるかもしれんし」

 とにかく一番確実なのはコーが言う通り、ここから愛知県内に入って豊橋市まで行き、救援を待つことぐらいか。まあ、救援物資さえ手に入ればとりあえず食いもんには困らないだろうけど、それもいつまで続くか分かんないな。俺の唯一の住まい、空手道場はたぶん跡形もないだろうし、先の事は未だ霧の中だ。

「まあ……なあ。とりあえずは、そうするしかないだろうな」

 なんて、言葉をあやふやに濁しながら答えてはみたけど。

 また……変なプレッシャーというか息苦しさが、身体をジワジワとむしばむように襲いかかってくる。俺はタバコをポケットからもう1本取り出して、手早く火を付けた。

 なんか、インスタントな安心感への依存だな。けど、今の俺にそれをはねのける力なんてない。

「……はぁ」


 …………。


「ワッ!」


「うわぁぁぁっ!」


「なんだよ? ジュネ」

「ハハハッ、驚いた?」

 あっぶねぇ……もうちょっとでタバコを膝の上に落とすとこだった。

 後ろから背中押して「ワッ!」って……こんな下らない事やる奴なんて、誰だか簡単に見当がつく。

 風邪薬の粉末を口の中に放り込んだ時みたいな、そんな渋い表情で俺達が振り向くと、そこには満面の笑顔を浮かべたジュネが、まさに「してやったり」と言った表情で突っ立っていた。

 いつの間に後ろにいたのか……まあ、気づかなかった俺達も問題なんだけど。けどなぁ……俺達が今、これだけカリカリしてるってのに「驚いた?」の一言かよ。

「驚いた? じゃねえだろ」

 俺は得意げに笑うジュネに、精一杯の冷ややかな視線を投げかけた。ずいぶん気の強い女だってことは薄々分かってたけど、これほどデリカシーのない女だとはさすがに思ってなかったな。正直、ビビッた。

 細身のナイフで突き刺すような俺達の視線を受けて、さすがのジュネもちょっとたじろいだ。その顔から、徐々に笑みが消える。

「ゴメン。ほら、あんまり落ち込んでるからさ。こうすれば、ちょっとぐらいは元気出してくれると思ったんだけど」

 なんて、ジュネはようやく謝ったけど……まあ、それはよしとしてだ。

 元気も何も、あんな「ワッ!」って間抜けで場違いな大声くらいで元気が湧いてくるなら、なんの苦労もない。今、俺達がグダグダ悩んでる意味もない。ましてや、ゆうべ人ん家に着くなり、呑気にガーガー寝てた奴なんかに少なくとも同情されたくない。

 まあ、さすがのジュネも、これでちょこっとぐらい悪気は感じたみたいだった。目尻を下げて、さっきからずっと黙りこくってる。

 隣のコーは明らかにイライラを募らせながら、遠くを行く漁船を虚ろな目で眺めてる。口には出さないけど多分、コーはコーなりに色々と複雑な気持ちを抱え込んでるんだろうなぁ。

 俺は砂の中に吸い殻を突っ込んで火を消し、そしてまた新しいタバコに火を付けた。


「なあ、ジュネ。変なこと聞くけどさ……あんた、ホントは何者なんだ?」

 それから10分ぐらい、波の音だけが延々と響く時間が過ぎた。

 会話も何もない、味気ない時間が淡々と過ぎていくのがなんか嫌になった俺は、ポツリとジュネに問いを投げかけた。

「ハハハッ。まさか、私が化け物だとでも言いたいわけ?」

 俺達の背後にずっと無言で座ってたジュネは、まるで俺の言葉を待ってたかのように、細い眉をひそめながらそう答えた。そして、俺とコーの間に割って入るように座る。

 つーか、なんだよ。さっき反省したかと思ったら、もう笑顔が戻ってやがる。なんか……もうムカつく気も失せちまったな。良くも悪くも、この女は相当の大物みたいだ。

「だったらなんで……俺達は今、こんなとこにいるんだ? これって多分、あんたの仕業なんだろ? 命が助かったのは、とりあえずありがたいけど……けど俺にはまだ、何がなんだか訳が分かんねえよ」

「うーん。確かに、あんた達にはまだ実感わかないかもね」

 そう言うとジュネは大きく息を吸い込み、目を閉じて大きく背伸びをした。

 なんの気負いもないジュネにとっちゃ、この柔らかい浜風と磯の匂いがすごく心地よかったのかもしれない。昨日からずっと、心も身体も押し潰されそうな思いに冒されてる俺には、そんなことまで感じてる余裕はないけど。

「ねえ、タバコ1本もらえる?」

「なんだ、あんたタバコ吸うのか?」

「悪い?」

 俺はポケットから、もう残り少ないタバコの1本を取り出し、ジュネに手渡した。早速ジュネはそれに火を付けると、いかにも心地よさそうに煙をふかす。どうみても、ずいぶん吸い慣れてるって感じだ。

「……そうだ。俺も聞きたいんだけどさ、ジュネ」

 ふいに、隣でボーっと座り込んだまんまだったコーが、やけにクールな声でジュネに問い掛けた。

「だいぶ気持ちの整理はついたんだけど……まだ決定的に分かんねえことが一つあるんだ。一体、俺達はどうやって、こんな遠い場所まで辿り着いたんだ?」

 そう、それだ。確かに俺も、それを真っ先に聞きたかったとこだ。

 故郷をほんの一瞬で失ったショックもまだ残ってるけど、それをいつまでもズルズル引きずってる暇はない。自分の身の回りのことぐらい、とっととハッキリさせないとな。

 なんで俺達は今、生きてんのか。なぜ、名古屋のど真ん中からこんな海辺まで一瞬でたどり着けたのか……って疑問。俺はそれを今すぐにでも知りたい。そんな気持ちがだんだん強くなってきた。

 興味津々のまなざしを左右から向ける俺達に、ジュネは煙を小さく吐き出しながら微笑んだ。

「話せばちょっとだけ、長くなるかもしれないけど」


「はぁ? 魔術?」

 俺とコーは、極限まで裏返った声で同時に叫んだ。


 なんていうか……まあ。

 ジュネの話の大まかな筋はこうだ。俺達はその「魔術」とかいう、得体の知れない力のおかげで命拾いしたらしい。

 異常なほどの熱気が渦巻いてた栄のど真ん中。投げやりになってた俺とコーが、ジュネの腕をギュッと握ったその瞬間だ。そこから先は青色の景色しかよく覚えちゃいないけど……どうやらジュネの話によれば、ちょうどその時に彼女が「空間転移」の魔術を発動させてたらしくて、腕を掴んでた俺達も一緒に空間を飛び越えてここまでやってこれたらしい。なんだか、ゲームの世界みたいな話だなぁ。

 それにしても、またもや何から何まで理解不能になっちまった。堂々と言葉を放ったジュネの返答が、ここまで突拍子もないものだなんて思ってもみなかったからだ。

 その……なんだかよく分かんない、魔法の力で俺達は助かったってのか? こりゃ、理解しろってのが無理ってもんだろ。


「そう、魔術。魔術なんだってば」

 なんて、俺達が疑いの念を噛みつぶしてるってのに、涼しい顔でジュネはさらりとそう言ってのける。

「魔術……そのおかげで俺達は、ここまで逃げてこれたってのか?」

「要するに、あの、テレポートって奴か? 一瞬で遠くの場所までワープするっていう。ハハッ……なんか、冗談にしたってもうちょっと説得力あるぜ」

 何度も髪をいじりながら、腹を抱えてコーが笑う。明らかに、疑いを持った声でだ。話す相手に疑いを持ってるとき、コーはいつも声色が変わる。

「確かに、いきなりそんなこと言われたって、誰だって納得はいかないだろうね」

 マイペースに煙を吐きながら、ジュネは悠々とした表情で続ける。あまりに唐突で突拍子もない言葉に、俺は納得していようがなかろうが、ただうなずくしかない。

 ジュネの話は聞く限りあからさまにウソっぽいけど、彼女の仕草だけ見ると、なんだか妙に真実味があるのがやけに不気味だ。ひょっとしたらホント……いや、まさかな。そんなわけないだろ。

「まっ、詳しい事は後で話してあげるけど。それより、コーシロー、ユーイチ。あんた達はこれから一体、どうするつもりなの?」

「とりあえず近くの街でも行って、救援を待つしかないか。なあ、ジュネはどうする?」

「そうね、私はすぐにでもフランスに戻ればいいんだけど……ねえ」

 悪びれた様子も全くなさそうに、ジュネは大きく背伸びをして、不意に俺とコーの顔を交互に見つめた。

 なんだ……なんだってんだよ。


「……そうだ。行くあてがないんだったらさ。あんたたちも一緒に来ない?」


西暦2037年7月14日

西欧州エアライン 成田発パリ便


 夕闇とジェット気流の間を、俺達は今、期待と不安を握りしめながら突き抜けている。パリへと向かう旅客機の中、あと半日もすれば現地へ着くはずだ。

 回りの人々は皆、そわそわした様子で辺りを見回したり、食い入るようにニュースを見ていたり……やっぱりミサイル投下の影響か、第二波が来る前にそそくさと日本から出ていこうとする人はたくさんいるみたいだ。

 まあ、俺達もまた然り……なんだけど。でも俺達は別に、なんのあてもなく母国を旅立つ訳じゃない。とりあえずジュネの言うところには、

「二人の生活の保証は『マスター』がちゃんとしてくれるそうだから、心配しなくていいからね」

だそうだ。

 ついこの間バッタリ出会った女をあてにして海外に出る今の俺を、正気じゃないと言う人もいるだろう。けど、俺はジュネの言葉を信じ切ってるから……なんて、実は全然違ったり。俺自身、今の行動を冷静に顧みてみると、今の自分は絶対に正気を失ってると思う。

 もし俺が正気だったなら、ジュネの話なんて鼻で笑って、とっとと豊橋に救援物資を探しに行ってただろう。けど、無事に救援物資にありつけたとしても、そっから先、どうやって生きていくか……今じゃなく、もっと先の事をふと考えてみたなら、選択肢はたった一つに絞られた。

 救援物資を手に入れたところで、しばらくすりゃ今度は住む場所に困ることになる。しばらくはテントか仮設住宅に身を置くことになるだろうけど、それも永久に続くわけじゃない。資産も身寄りもなんもない俺とコーが……少なくともコーはふらっと実家へ帰っちまうかもしれねえけど、俺は今さら親のスネかじろうなんて全然思ってないから、セントラルパークの隅で段ボールとビニールシートの家に住む以外、生きてく手段がなくなっちまう。

 底なしの湖に落っこちてもがいてるような現状を考えれば、藁だろうがゴムチューブだろうが、この手に掴まなきゃ生きていけない。とにかく今は、ジュネの言う事を真っ向から信じる以外、他に道はないってわけだ。

 まあ、俺達の旅費は「マスター」とやらが出してくれたし、その上、生活の支援もしてくれるとあれば何も問題なし。とりあえずそのマスターとやらも、よほどのいい人か、それとも相当のバカ野郎だって事は大方予想がつく。

 まあ、これでとりあえず明日の身の保証はできたけれど、それにはちょっとばかり条件があるらしい……当たり前か。


「へえー、ビジネスクラスなんて初めてだぜ。いいな、これ。足下がゆったりしててさ」

 まるでガキみたいにはしゃぎながら、コーはずっと辺りを見回している。

 意味もなく足をブラブラさせたりなんかして、恥ずかしい野郎だな。周りで静かにニュースを聞いてるサラリーマンが、まるで動物園の猿を眺めるみたいにコーへと視線を合わせてるくらいだ。

「……で、俺達はとりあえずその『ル・シエル』とかいう団体に世話になりゃいいんだな?」

 どうも俺は高いところは落ち着かない性分みたいだ。どこから湧いてくるんだか分からないフラストレーションと取っ組み合いながら、俺は前の席でノンキにくつろいでいるジュネに声をかけた。

「そういうこと。さっき言った条件さえ、ちゃんと呑んでくれればね」


 ジュネから出された条件とはこうだ。


1. まず、ジュネが所属してるらしい「ル・シエル」とか言う組織のサポートをすること。

 2. これから1ヶ月間、ジュネいわく「魔術」を扱うための訓練を受けること。


 と、この二つ。

 なんだか話だけ聞いてると現実味のかけらもない様な気もするけど……実際のところ、俺はその「魔術」とかいう代物に命を救われたってことだし、今、俺の命がある事を考えればとりあえずは疑いようがない。最初は魔術って聞いただけで妙な偏見を持っちまってたけど、冷静になってジュネの話をもう一度聞いてみりゃ、もうある程度は納得しちまった。

 魔術は存在する。そして、俺は魔術のおかげで命拾いした。それだけは紛れもない事実だ。

 それに俺自身、その魔術って「面白そうだな」っていう、ある意味怖い物見たさみたいな気持ちもあって……危ねえかな、俺。

 まっ、おそらくコーも口には出さないけど、同じ事を思ってるだろう……たぶん。


「魔術……か。てことは、これも魔術なのか? ジュネ」

 そう言いながら俺は、またいつものように指先で火を灯してみせた。

「もちろん。本来なら誰でも魔術は使いこなせるはずなんだけど、科学万能の現代では誰もが、その持てる能力を見過ごしてる。でも、なんの知識もなしでそれだけできれば、素質十分ってとこじゃない?」

「ふーん、そんなもんかな」

 そんなもんか……あまり実感は湧かないけど。

「それより、もう寝た方がいいんじゃない? 言っとくけどパリに着いたら即、乗り継ぎばっかりなんだから、時差ボケしてる余裕なんかないと思うけど?」

「なんだか、落ち着かないんだ。とても眠れそうに……」


 ゴゴゴゴゴゴッ……グゥゥゥ


 へっ。

 隣ではコーが、地鳴りみたいないびきをかきながらぐっすり寝てやがる。これから俺達、どうなるか分かんねえってのに、気楽なもんだ。

 早々と安眠してるコーの顔を横目で見ながら、俺は少しだけシートを倒して横になってみた。こうすれば、ちょっとは気が楽になるかもしれないから。

「おやすみ、ユーイチ」

「ああ」

 そんな俺の内心を知らないのか、ジュネはなんの遠慮もなく眠りについてしまった。俺はそっと座席の横に手を伸ばし、手元の灯りをプツッと切った。


 頭の中は、尽きない思いで埋め尽くされていた。

 まだ見たこともない地、フランスへ俺は向かう。新天地。フロンティア。そう言い表せば、その言葉は淡い憧れの念を含む。新天地へ……そこへたどり着けば、自分なりの新しい生き方だって、見いだせるかもしれない。なんでも物事って、いい方にだけ考えれば希望はいくらだって湧いてくる。

 でも、それだけじゃないんだ。そんな風に割り切って考えられるほど、俺は都合のいい人間じゃない。

 不安だとか、焦りだとか……そういった物も絶えず浮かんではまた、すぐに消えていった。といっても、絶望感に打ちひしがれてるって程でもなくて……なんか、希望と不安っていう対極の感情が入り交じって、どっちが自分の本心なんだか分からなくなってるみたいだ。


 なんか、心の中がグチャグチャになっちまった。俺自身も、何がどうなってんだかよく分からない。

 温める時にかき混ぜすぎて、潰れた具でゴタゴタになっちまったカレーの鍋みたいな、……そんな入り乱れた気分を引きずったまま、俺は静かに夢の中へと足を踏み入れた。


西暦2037年7月15日

フランス パリ市郊外


「着いたよ。ほらっ、ユーイチ、起きる起きる!」

「おい? 祐さん? おいっ!」


 パシンッ!


 ワゴンの後部座席で横になってた俺の顔を、何かが気持ちよくはたいていった。

 広くて薄っぺらい感触。なんか……紙切れの束みたいだ。

「うっ……うーん」

 まだジンジンしてる頬を押さえながら、俺は水槽のカメみたいにゆっくり頭を上げた。

 ふと見上げてみると、目の前には丸めた観光案内を片手に握ったコーがいる。口の端だけを開き、クスクスと笑いながら。

 ハハッ……やられたな。

「何すんだよ?」

「クククッ。いやぁ、あんまり気持ちよさそうに寝とるでな。それより、早よ出て来やぁ」

 笑いをこらえながらそう言うと、コーは冷たく背を向けて車を降りちまった。

 ったく「優しく起こしてくれ」なんて言わねえけど、起こすんならもうちょっと別の方法があるだろうが。

「分かっとるって」

 目をゴシゴシ擦りながら、俺は数日分の服が詰まった僅かな手荷物だけを持ってワゴンを降りた。

 正直言って、飛行機の中ではそんなにぐっすり眠れた訳じゃない。いくら寝ても取れない心身の疲労は、雨でずぶ濡れになったジャケットみたいに、俺の身体にのし掛かってくる。見えない敵と戦いながら、俺はまず辺りを見回した。


「ここか? 本当に」

「フフッ。なに今更、疑ってんの?」

 重たい足取りでワゴンを降りた俺の目の前に広がっていたのは、青々とした葉が生い茂るぶどう畑だった。

 その向こうにある丘の間から延びる道の両側には、古びた家屋や納屋がパラパラと立ち並んでる。夏の日射しが映える、一見すれば爽やかでのどかな農村……なんだけど。

 そんな中に、まるで景色に似つかわしくない、見たところ20階建てぐらいの灰色のビルが二つ三つ、固まっていた。目の前に続く道を真っ直ぐ行った丘の上に、まるで寄り添うようにしてそれは建ってる。

「なーんか、不釣り合いだな」

 頭をふとよぎった言葉が、つい口から飛び出した。

 なんていうか……こういうのって、日本じゃあんまり見ない景色だからだ。国道を突っ切ってドライブしてみれば一発で分かるけど……日本では、ひとたび山の中に入っちまえばとことん田舎だし、街が近づいてくればその景色が一気に高層ビルのジャングルへと変わる。

 田舎の空気と、都会の空気。日本ではその違いがハッキリ分かれてて、すごく分かりやすい。田舎と都会の違いって、そういう空気の違いだと今まで思いこんでた。けど……こんなド田舎にビルが寄り添ってるだなんて、少なくとも俺は今までお目にかかった事がなかった。田舎と都会の空気が、ここでは入り交じってる。だから、違和感を感じたんだ。

 俺の言葉に反応し、隣では「いかにも」といった表情でコーがうなずいてる。やっぱり、コーもそう思ってたか。

「……そうかな?」

 なんだか納得いかなさそうに、ジュネは首を傾げた。こんな田舎じみた丘の上に真新しいビルが誇らしげに建ってるってだけで、俺達は妙だと思っちまうんだけど。どうもジュネは、俺が放った言葉の真意をいまいち飲み込めてないみたいだ。

「まっ、どうでもいいだろ、そんな事。それよりさ……ハァ、早くその『マスター』とやらの所に案内してくれよ」

 そんな事よりも俺は、周期的に迫ってくる激しい眠気に何度も襲われていた。眠い、とにかく眠い。どうでもいいから、早く用事を済ませて眠りたい。俺の胸中はただそれだけだった。

「はいはい、分かってるって」

 クスクス笑いながら、ジュネは灰色のビルへ向かう通路へ意気揚々と消えていく。このまま置いてかれちゃたまらない。急いで俺達も、その後を追った。


西暦2037年7月15日

「ル・シエル」本部棟4F 執務室


 コン、コンッ


「……どうぞ」


「失礼しまーす」

 なんの遠慮も躊躇もなく、ジュネは大股でツカツカと執務室へと入っていった。

 つやつやした木と金色のノブが光る扉を見るからに、お偉いさんの部屋だってことは簡単に分かる。へつらいも何もない彼女の姿に呆れながら、俺とコーはまるでライオンの檻に足を踏み入れるみたいに、恐る恐る執務室へ入った。


「おお、待っておったぞ」

 早速響いたのは、しゃがれたオッサンっぽい声。俺はふっと、その声の主を捜して瞳を動かした。

 紫色のカーテンが掛かった日当たりの悪い部屋の中には、古びた書物が雑然と並べてある。その真ん中に、緑がかった布のような服を身に纏い、数珠と言うかなんと言うか……訳の分からないアクセサリーをジャラジャラつけた爺さんが立っていた。

「ほう、その二人か? 君の言っていた『訓練生』というのは?」

「ええ、そうです」

 ジュネがそういうのと同時に、老人は書物の山を飛び越えながら俺達の側までやって来た。足取りも軽く、ひょいひょいひょいって。身軽な爺さんだな。

「うーむ……ほうほう」

 爺さんは飽きもせずじーっと、俺とコーの顔を交互に見ていた。じろじろ、じろじろと、何を見てんだか分かんないけど。

 とりあえず、ただ一つ思うこと。なんだか気味悪りい。


「なるほどな」

 そう一言だけ言うと爺さんは、またさっきみたいにひょいひょいと書物を飛び越えて、部屋の真ん中にある自分の席まで戻っていった。

 なるほどって……一体何が分かったんだか。意味不明。

「ひょっとしてあなたが、その……マスターなんですか?」

 疑いの念をかみ殺しながらも俺は恐る恐る、その爺さんに問いかけてみた。爺さんはくるりと椅子を回すと、目を点にしたまんまの俺の顔にまた視線を向ける。

「いかにも。それより青年達、名はなんと言う?」

 いやに落ち着いた表情を崩すことなく、マスターは俺達の顔を見ながら問い掛けてきた。

 なーんか、妙なペースを持ってる人だな。喋り方といい、テンションといい。うっかりしてると、俺もすぐにこのペースに毒されちまいそうな、そんな気がする。

「えっと……俺は、ユーイチ……と申します。で、こいつが俺の連れの……」

 慣れない敬語って、メチャクチャ難しい。けど俺は、とりあえず失礼のないように、当たり障りない自己紹介をしといた。

「ども、コーシローって言います。めんどくさいならコーでいいっすよ。とにかく、これからお世話になります。よろしく!」

 あーあ、やっぱしこいつはダメか。バイト先の先輩に挨拶すんじゃないんだからさ。

 まあ、当のマスターは気分を害してないみたいだし、これでよかったみたいだ。マスターが寛容な人間でよかったなぁ……もっとお堅い人なら、正しい挨拶の仕方から延々と説教されてるところだ。

「ユーイチ君に、コーシロー君じゃな。覚えておこう」

 ごまかし気味に戸惑いながら自己紹介する俺達を見て、マスターは軽い笑みを浮かべた。そして……


「ようこそ、フランス陸軍・特殊機動隊、通称『ル・シエル』へ」

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