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ペルシャ防衛戦③

日本海軍の航空隊が飛び立った頃、第五四戦車師団を主力とする赤軍先鋒部隊は、国境を越えて以降、進路上に立ち塞がる敵が無きに等しい状況下を前進していた。間もなくタブリーズの街を視野に収められる場所まで進出できる予定だった。

タブリーズ方面から戻る偵察機が、去り際に投下した報告筒には、走り書きで『障害となる敵軍はなし』と記されていた。

ここ数年の間にソ連政府は、米国国務省の仲介により、米国企業から様々な軍需物資や機材を購入していた。

その中でも目立つのは各種無線通信機器である。

既に各軍管区の野戦軍にも配備を開始していたが、ザ・カフカス方面はまだ未配備であった。これは後に、第五四戦車師団に大きな不幸を齎した。

赤軍参謀本部が承認した作戦計画によれば、第五四戦車師団がタブリーズ市内へ突入する前に、赤軍空軍が空襲を実施する手筈であった。これは市街地が混乱している間に、戦車師団所属の自動車化狙撃連隊が市内に突入して、主要地区を制圧する計画であった。

そして予定より一時間遅れで、未舗装の道路を進む師団の頭上を、双発機と単発機の編隊が通過して行った。

航空機の群れが、友軍機だと分かると、トラックや戦車に乗る兵士たちから歓声が上がった。

尤もこの編隊が視界から消えた後、タブリーズ上空では板谷茂少佐率いる制空隊と遭遇し、蹴散らされている。

しかし第五四戦車師団の通信隊には、航空無線機材が未配備であったため、爆撃連隊や戦闘機連隊が激しい空戦に巻き込まれたことを知る術が無かった。




時を遡り、海軍航空隊の第一次攻撃隊よりも先に発進していた制空隊はタブリーズ上空で戦闘機編隊に護衛された双発機の編隊を発見していた。

機体の特徴から一個編隊は支那戦線で見慣れたSB-2軽爆撃機であった。しかし、もう一個編隊は見慣れない機体であった。

この見慣れない機体は、後に墜落機の残骸を調査した英軍から、イリューシュン設計局のDB-3長距離爆撃機と判明している。

勿論SB-2であろうが、DB-3であろうが、零戦の二〇ミリ機関砲弾を至近距離から喰らえば、無事でいられる筈がなかった。

この時戦闘機分隊を率いる板谷少佐は、普段と異なる動きをして、分隊を先導していた。戦闘機乗りの性として、戦爆混成の編隊を発見した際には、無意識のうちに敵戦闘機へ攻撃を優先し、襲いかかることだ。

そこで板谷少佐自らが先頭に立って、敵戦闘機編隊を無視すると、そのまま敵爆撃機編隊に向かって攻撃を行っている。

板谷少佐は無線機で呼びかける前に飛び出すと、敵爆撃機編隊に向かって突っ込んで行った。板谷機が動くと、まず複数の僚機が続く。僚機は指揮官機を守るのが役目だからだ。

こうして板谷少佐が主導権を握ることで、制空隊は混乱する敵戦闘機隊を見捨てて、爆撃機編隊へと殺到した。

SBもそうだが、DBもまだ防弾や防滴燃料槽が普及する前に設計された機体である。急接近してきた零戦の群れから、二〇ミリ機銃の一撃を浴びせ掛けられただけで、多くの機体が火を噴き、一部の機体は黒煙を噴きながら、低空へ降下していく。

編隊空戦で一撃を加えた制空隊は、敵Yak戦闘機編隊へ立ち向かって行った。

このYak戦闘機編隊は、この制空隊を英空軍機と勘違いしていた。これは帝国陸海軍機が翼章として、胴体や主翼に描いている日の丸は、空戦では意外にも英空軍機の翼章である三色蛇の目(ラウンデル)と誤認されやすかった。

そのため、ソ連空軍戦闘機隊は相手を英空軍の空冷発動機搭載戦闘機だと、誤認し空戦を行っていた。

Yak1の初期型は、他のソ連製戦闘機と同様に、操縦席の背後が完全に死角となるレザーバック型風防であった。

このため、背後に付かれると撃たれるまで気が付かないといった事が多発した。

こうして三〇機以上いたYak戦闘機は、既に数が半減し、残った機体も全開出力の最大速度で振り切るしかなかった。

そして空戦で生き残った十数機のYak戦闘機は、最大加速で北方へ逃げ去っていった。

「こちら指揮官機、編隊各機集合せよ。敵機の深追いはするな。各小隊長と分隊士ら、僚機の有無を確認しろ。他の機体は、周辺空域の見張りを怠るな」

僅かな間隔で、共通周波数を使って小隊長と分隊士から損害が報告され、若干の被弾機が出たものの、損失機なしといった物であった。

それから間もなく、西南の空から攻撃隊の主力が現れた。

「こちら板谷、空の掃除はすんだ。後は地上の大掃除を頼むぞ」


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