ペルシャ防衛戦②
2023年も宜しくお願いします
ソ連によるペルシャ北部への侵攻の情報を受け、クウェート郊外の飛行場に展開していた一航艦の中近東派遣航空隊は、イラクのモスルへ移駐し、整備兵たちによる燃料、弾薬の補給が行われていた。
またペルシャ国境に近いアルビールにも、前線飛行場が設けられ、帰路で燃料補給と整備が受けられるようにしてあった。
モスルにある飛行場では、一航艦から連絡将校とし航空参謀の源田実中佐が、航空隊総指揮官である淵田美津雄中佐へ連絡を取っていた。
「出撃だ」
「相手は、目標は、敵には航空援護があるのか」
淵田は矢継ぎ早に質問を浴びせた。
源田は知る限りの情報を伝え、卓上に広げた航空図で出撃目標を示した。
「地形から見て、ウルミエ湖を越えた先に、すぐにタブリーズだ。敵の先鋒部隊である戦車師団は、明日にはタブリーズ近郊まで達する。そこで貴様の率いる第一次攻撃隊は、この先鋒部隊を叩く。第二次攻撃隊は、アゼルバイジャンを越えて、ペルシャ領内へ入った赤軍主力部隊を叩く」
「すると、タブリーズ前面の敵軍を叩くのが、最優先だろう。だが、敵軍の主力も早期に叩いておかないと、後になれば面倒になるな」
攻撃隊指揮官としての能力では、明らかに淵田中佐の方が上である。
「よし、発進するぞ」
真ん中の航法員席で、淵田は伝声管で操縦員に伝えた。
今回は雷撃隊はいないので、艦攻隊は全機が水平爆撃隊となる。艦攻隊の離陸が終わると、次は「瑞山」艦爆隊が軽々と離陸していく。
なお「天山」艦攻と「瑞山」艦爆では、巡航速度でも時速にして、約五〇キロ以上の差があるので、艦攻隊が先行しても、すぐに艦爆隊は追いつける。
そして、最後に離陸したのが艦戦隊であった。これも、巡航速度では格差があるので、制空隊と直衛隊に分けて発進する。まず、先行する制空隊は、途中で艦爆、艦攻の編隊を追い越して、最初に目標へ接近した。
三二機の制空戦闘機隊は、「赤城」戦闘機分隊長板谷茂少佐に率いられている。タブリーズへ先行して、この空域に現れた敵機を排除するのが役目だ。
ソ連を含む欧州の戦闘機は、軒並み航続距離が短い。洋上での長距離飛行が必要な日米に比べて、陸地を目標に飛行する欧州の戦闘機は航続距離を必要としなかったからである。
しかし航続距離が短いとは言え、ソ連領内からタブリーズまでは、赤軍空軍の戦闘機の範囲に入っている。
この事から、源田と淵田は制空戦闘機隊を二〇分早く離陸させ、タブリーズ上空での制空権確保を試みたのであった。
メモ
天山
全幅:15.35m
全長:11.80m
発動機:火星二五型(1980hp)
最高速度:495km
武装
12.7mm旋回機銃 1挺
爆装:最大1t
瑞山
全幅:13.50m
全長:10.50m
発動機:金星六五型(1600hp)
最高速度:523km
武装
一式20mm機関砲 2門
12.7mm旋回機銃 1挺
爆装:最大500kg