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い号作戦④

100機を越える陸海軍の爆撃機編隊は、強固に組んでいた編隊を解くと、中隊、小隊規模に別れると各々が目標へ向け降下を開始した。

この突然の動きに、迎撃を指揮していた歴戦の防空管制官達は戸惑いを感じていた。

今までの英空軍の爆撃隊なら、編隊を維持したまま高空からの絨毯爆撃を行っていたが、今回飛来した敵編隊はそれを行わなかった。

しかも編隊を解くと、次々に低空飛行へ移ったため、レーダーの輻射外になり有効な迎撃指示が出せなくなりつつあった。

「連中は一体何を狙っているんだ・・・・?」


「・・・・何か探っているのか?」

そんな疑問を感じていた、その時外から発動機が奏でる轟音が響き出した。

「・・・・まさか、連中このレーダーの位置を把握しているのか!?」

管制官の一人がそう叫んだ。

「バカな・・・ここは擬装を施して簡単に見つからないようにしているだぞ!」

しかしそんな管制官たちを嘲笑うかのように低空飛行を行っていた一式陸攻の編隊は、このレーダー施設へ爆撃を開始した。

対地用の二五〇kg爆弾をばら撒かれると、次々に着弾し擬装を吹き飛ばし、そして遂にレーダー施設に直撃するとこれを吹き飛ばしたのであった。

この時レーダー施設を爆撃したのは、帝国海軍第十一航空艦隊に所属する第二十六航空戦隊の一式陸攻の編隊であった。

「敵レーダー施設への直撃弾を確認!跡形もなく吹き飛びました!」

尾部機銃手からの報告に、一式陸攻の機内では歓声が上がっていた。

そこへ尾部から同じように戦果を確認していた人物が操縦席に戻って来た。

機内にいる日本人とは、似ても似つかない欧米人の顔付きをした彼は、英空軍から志願して一式陸攻に乗り込んだ空軍士官であった。

「機長、私も確認させてもらったが良い仕事をしてくれた。君たちの腕前を信用していない訳ではなかったが、君たちのお陰で我が王立空軍は今後の空爆も楽になるだろう」

彼はそう言うと嬉しそうな表情を見せた。

「しかし機長、このタイプ1の爆撃機は中型機なのに随分頑丈な機体だね。ドイツ空軍機からかなり撃たれたのに問題なく飛べるなんて。我が軍にも欲しいものだね」

一式陸攻は、九六式中攻の後継機として設計されたが、その際海軍は九六式と同等な搭載量と九六式よりも速い速度、そして航続距離の延長を求めた。

これを受け主任設計者の本庄季郎は搭載量をそのままに、九六式で問題になっていた機体の脆弱性を改善するため、自社で開発・製造していた「火星」発動機二二型の搭載を決めた。

この「火星」発動機は、出力が一九六〇馬力あり、また二段二速過給器を装備する事により高高度でも安定した飛行を可能にした。

また九六式で得た戦訓から、一式陸攻では機体全体の装甲化が図られた。

これは海軍からの要求で、自軍の零戦と同じように二〇mm機関砲を搭載していた場合、これに耐えうる機体が望ましいというものであった。

その結果、本庄は葉巻型の機体構造を諦め、英米の爆撃機でよく見られる長方形の断面を持つ機体となった。

そして構造部材にタハード鋼を使用することにし、特に機体後部の装甲を16mmにし、その他を12mm、そして防漏ゴムを付加することが決まった。

更に航続距離を延ばすために、燃料タンクを何処に積むかで設計陣で半ば喧嘩が起こったが、設計士の一人が燃料タンク自体を組んで機体構造に組み込むことを提案し、それがそのまま採用された。

その結果一式陸攻は、双発中型機ながら四発機並の航続距離と防御性を持つ機体となった。

戦争中を通して、幾度も改良を重ね続けた一式陸攻は最終型である三四型で、発動機を二〇〇〇馬力を発揮する「火星」三〇型に換装し、搭載量を増やした機体になり、戦争が終わる時まで後継機の二式陸上爆撃機「銀河」や二式大型攻撃機「連山」と共に欧州の空を飛び続けた。

余談だが、現場からの報告を受けた英空軍省で一時的にこの一式陸攻を日本から輸入し、ドイツ本土空襲に投入し、操縦を担当したパイロットからも堕ちにくい機体として好まれた。

逆に迎撃側のドイツ空軍からは、頑丈で落とし難い一式陸攻をペスト(黒死病)と呼んで恐れたのであった。

他の部隊でも、同じようにレーダー施設や高射砲陣地への爆撃を行い、これらを破壊していた。



一方その頃、ドイツ空軍の飛行場を目指し飛行する編隊があった。

英空軍のブリストル ボーファイターの編隊であった。

この編隊は、全機がRP-3ロケットを装備していた。

彼等の目的は、日本軍編隊に群がり、飛行場から遠ざかっているドイツ空軍戦闘機がいない間に、搭載しているロケットで飛行場を攻撃することであった。

「隊長、本当に日本のゼロていう戦闘機は長い距離を飛行できるんですか?」

編隊指揮官機に搭乗し、後部機銃手を務める豪州出身の少尉は、操縦桿を握る上官に聞いていた。

「チャック、信じられんかもしれんが日本軍機はどれも俺たちのハリケーンやスピットよりも長く飛べるんだ。俺たちの乗ってるボー並の航続距離を持ってるそうだぞ」

編隊指揮官であるチャールズ・オリヴァー少佐はそう言った。

「しかし日本人の作った飛行機がそんなに性能が良いんですかね?」

後席に座る部下の言葉に、オリヴァーは溜息をつきたくなった。

人種差別的偏見は、新大陸人だけかと思ったら豪州出身の人間もかとオリヴァーは思った。

「いいかチャック?日本軍機の性能は既に王立空軍が認めている。英本土にも展開した日本軍機が空襲にやってきたドイツ空軍の戦闘機や爆撃機を撃墜しているし、ハリケーンやスピットで模擬戦をやった結果、散々な結果だったんだ。これは紛れもない事実だ」

オリヴァーは頭の悪い生徒に言い聞かせる様に言った。

これに対し、後席のチャック・ルーカス少尉は半信半疑な感じで

「はぁ」

と一言呟いただけであった。

そんなオリヴァーの視界に、遂にドイツ空軍の飛行場が見えてきた。

「編隊指揮官機から全機へ、間もなく目標の飛行場だ。全機ロケットの安全装置を解除、攻撃を終えたら速やかに退避しろ!何時までも居座っていたら寝ぐらに火をつけられたジャーマンが追いかけて来るぞ!」

オリヴァーはそう言うと、機体を加速させながら緩降下を開始した。

照準器の中に、飛行場の滑走路が入ると躊躇することなく射撃釦を押すと、翼下に搭載されたロケットが白煙を引きながら発射され、地面に突き刺さると次々に爆発していった。

それを見たオリヴァーは機体を旋回させると退避に移った、その時後席からチャックの逼迫した声が響いた。

「後方からドイツ軍機!こっちへ来ます!」


「クソッ、もう戻って来たのか!チャック撃墜できなくて構わん、奴らを牽制しろ!指揮官機から全機へ撃墜されたくなかったら全速力で逃げろ!」

オリヴァーは怒鳴るように無線機で僚機に伝えると、スロットルを最大まで開くと脇目も振らず撤退に移った。

実際この時、飛行場を攻撃し終え上昇を開始した第三小隊がドイツ軍機に捕捉され、全機撃墜された。

「チャック敵機はまだついてきているのか!?」


「まだついてきています!間もなく敵機が機銃の射程に入ります!」

後席で七.七mm機銃を撃ちながらチャックはそう叫んだ。

その時追撃していたドイツ軍機の上方から、デザート色に塗装された機体が降ってくると、あっという間にボーファイターとドイツ軍機の間に割って入り、ドイツ軍機に戦闘を仕掛けていった。

「隊長、日本軍機です!日本のゼロです!彼等本当にこんな所まで飛んできてたんですか!?」


「チャックそんなことは後だ!今は日本軍に任せてアレキサンドリアまで逃げるぞ!」

この突然の日本軍機の乱入に、ドイツ軍機もボーファイターの追撃どころではなくなった。

これ以上の追撃は不可能だと判断したドイツ空軍の指揮官は全機に引き揚げを命じると、自らも飛行場へと戻って行った。

これを確認した日本軍機の編隊も機首を翻すとボーファイターの編隊に続き、アレキサンドリアへ帰還したのであった。

この日行われた日英航空隊による空襲により、ドイツ空軍は飛行場の被害は軽微だったものの、レーダー施設や高射砲陣地の被害が酷く、急ぎ本国から新たなレーダーや高射砲の補給を受ける必要が発生した。

更にこの日枢軸国側にとっては、悪い報せが入った。

それは中近東で、ソ連侵攻軍を撃滅した母艦航空隊を有する空母機動部隊とその護衛である超弩級戦艦四隻を含む艦隊がスエズ運河を通過し、ポート・サイドに入港したものであった。


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