アレクサンドリア防空戦①
中近東方面で帝国海軍航空隊が、ソ連侵攻部隊を撃滅していた頃、エジプトのアレキサンドリアにある英空軍飛行場には、多くの航空機が翼を休めていた。
この時アレキサンドリアに展開していたのは、帝国海軍第十一航空艦隊と帝国陸軍第一渡洋航空兵団で、総数一千機近くの航空機であった。
更に帝国陸軍第一〇三特設師団と高射砲第二師団から、高射砲大隊二個、機関砲中隊四個、帝国海軍からは佐世保鎮守府第七特別陸戦隊が同地の防衛戦力として派遣されていた。
英国側もこれだけの戦力が展開するのは予想外だったため、急遽アレキサンドリアの飛行場の拡張作業を行った。
この帝国陸海軍の航空隊の展開を偵察によって知ったドイツ軍は、シチリア島に展開していたドイツ空軍第二航空艦隊へアレキサンドリアへの攻撃強化を命じた。
これを受けアルベルト・ケッセルリンク空軍大将は、シチリア島に展開していた第二航空艦隊だけでなく、ノルウェーで船団攻撃に従事していた第10航空軍も呼び寄せると、更にヒトラーに直談判し、ハインケル社の新型重爆まで呼び寄せたのであった。
そして1941年2月夜、シチリア島から飛び立った独空軍爆撃機編隊約120機がアレキサンドリアに展開している日英航空隊を襲った。
「レーダーサイトから報告、敵味方識別不明の飛行体多数が接近中との事」
日本が英国から間借りしている飛行場の一角にある防空指揮所では、英軍の長距離レーダーが捉えた目標に対する邀撃命令が出されていた。
「今出せる飛行隊はどの部隊だ?飛燕が1個飛行隊、屠龍が2個飛行隊だな?分かった、すぐに発進させろ。それ以外の機体は全て掩体壕に格納させろ」
「兎に角飛行隊が上がれば、こちらで誘導管制を行う。うちは海軍さん程英語が理解出来る人員がいないんだ、こっちで誘導してやらんと、下手に英国の指揮下に入れると遊兵になってしまう」
指揮所では、接近中の識別不明機へ対処するための指示が出されていた。
「高射砲大隊の連中も全員叩き起こせ!夜間の邀撃では、取りこぼしが絶対に出てくるから、最後の頼みは高射砲の連中だぞ」
空襲を知らせる警報音が鳴り響く中、滑走路から飛燕、屠龍が、そして英空軍のハリケーン、スピットファイアがフルスロットルで駆け上がっていった。
地中海上空
「隊長、アレクサンドリアにはトミーだけでなく日本の奴らもいるそうですが、実際どうなんでしょうね」
「さぁな、ケッセルリンク大将は注意しろとは言ってたが、英空軍より劣ると考えといたら良いんじゃないか?下手すると伊空軍と変わらんか、それよりも劣るかもな」
独空軍重爆編隊に属する、He177の中ではそういう会話がされていた。
He177は、ハインケル社がドーバー海峡を挟んで行われた航空戦での戦訓を取り入れ、設計された機体であった。
空冷式四発エンジンを装備し、機体その物の防弾・防滴性能を格段に飛躍させ、防御機銃も13mmがハリネズミの如く装備してあった。
英空軍となら幾度も戦ったことのある独空軍のパイロット達も、日本軍機との戦闘は初であった。
ケッセルリンクは、出撃するパイロット達に日本軍機にも気をつけるよう伝達していたが、人種偏見からパイロット達はあまり気にしていなかった。
しかし其れが誤りであったことを、彼等は自らの命を持って知る事となった。
「先頭編隊より入電。我敵戦闘機の迎撃を受けつつあり」
「敵機は、ハリケーンか?それともスピットファイアか?」
編隊指揮官は、通信士にそう聞いた。
「何れも見た事のない戦闘機と言っています」
「そうか・・・」
「どうした!?喚いてるだけでは分からんぞ!」
突然通信士がそう叫んだ。
「どうした?」
「先頭編隊で撃墜される機体が相次いでいます!」
「何!?」
この時先頭を飛んでいたHe111の編隊は、最初に接触した屠龍を装備する飛行隊からの攻撃を受けていた。
「4番機が被弾!・・・・・・あぁ、ダメだ!爆散した!」
「チクショウ!何なんだ奴らは!?英空軍よりも火力が違いすぎる!」
「正面から双発機が突っ込んでくる!」
「機銃撃ちまくれ!近づけるな!」
「ダメです!当たりません!」
次の瞬間、正面から来ていた双発機の機首が光を発したのを見たのを最後に、このHe111は撃墜された。




