玉の行方
換金所で特殊景品を三万四千円に替えると、来た時よりも軽やかな足取りで家路についた。
いつも食欲をそそるにおいをもくもくと煙らせる軽トラックの焼き鳥屋で、ねぎまとつくねとなんこつを二本ずつ注文した。
月が綺麗に見えるのは、恋をしているからではない。勝ったからだ。
「ただいま」
昭和に建てられたアパートに着く。
「おかえり久志。勝ったの?」
仕事に行く支度をしている亜衣加が言った。
亜衣加の仕事はガールズバーの店員。詳しくは知らないけれど、池袋で働いているらしい。もしかしたら俺に嘘をついて風俗で働いている可能性はある。どっちでもいいけれど。
ばっちり化粧をした亜衣加が靴を選んでいる。
「わかった?」
「うん。声色が違うし、焼き鳥を買ってくるときはいつもそう」
言われてみればそうだったかもしれない。
「そっか。今日は戦姫がたくさん絶唱してくれた」
「シンフォギアか」
亜衣加もたまに打つから知っている。お互いアニメは観ていないけれど、とにかく歌って戦うことは知っている。
「あ、そうそう。アパートの契約更新の書類届いたから、書いて出しておいて。あと更新料ね」
不動産屋から届いた未開封の封筒を俺に渡しながら亜衣加が言った。
「ああ、わかった」
「それじゃあ仕事行ってくる」
「いってらっしゃい」
俺の言葉を聞いてか聞かずか、焼き鳥も口にせず、亜衣加は仕事に向かった。
乱暴に閉められた玄関ドアを見つめる。
俺は亜衣加が好きだ。亜衣加も俺を好きだ、と思っていた。
二年前に子供ができたとき、俺は嬉しかったが亜衣加はそうではなかった。
たしかに誤算だった。計画的ではなかった。
しかしそうなったらそうなったで、覚悟を決めていた。
でも亜衣加は結婚をするつもりは全くなく、話し合いの結果、堕ろすことにした。
亜衣加は「私の身体を傷つけた」と俺を罵倒し、責任を取れと言った。
つまりそれはお金を出せということ。
アパートの契約更新は俺の家ではない。亜衣加の家のだ。
俺は亜衣加を金でつなぎとめている。
間違った交際だとはわかっている。
しかし俺に非がある。そしてなにより好意がある。
こんなものが愛だとは思っていないが、愛以外考えられない。
矛盾した気持ちが常に胸にある。
一呼吸すると、部屋着に着替えるため服を脱いだ。
ラックにジーパンをかけると、いつの間にかロールアップに紛れ込んでいたパチンコ玉が飛び出して、ゆらゆらと冷蔵庫の下に転がっていった。