表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いカレンと生贄少女の旅  作者: 星月ヨル
第二章「選定試験編」
21/353

第9話「関係ない」

 街が静まり返った頃。

時計の針は11時を回っている。昼間の喧噪は消え、辺りは驚くほど静かだった。しかし星月の明かりを街の建造物が反射して、キラキラと美しく輝いている。幻想的な雰囲気だ。

そんな中、ナナ達は昨日泊まった宿屋に戻ってきていた。ただし昨日とは違い、今日はシオンも一緒だ。


 「いや、一緒に泊まるのは良いんだけどよ……」


 シオンは宿を見上げる。

人気のない薄暗い路地。錆び付いた外壁。朽ちかけた看板。


 「なんだこの宿……」


 「「え?」」


 「ハモるな」


 同時に首を傾げるナナとカレン。シオンはそんな二人を横目に、再び目の前の宿屋を見上げていた。


一言で言えば、ボロい。


まず場所が悪いのだろう。黄金郷と言うだけあって、国中キラキラと輝いているアズライト共和国。そんな光り輝く街でさえ、建物の配置等によって影となる部位は存在する。この路地裏はまさにその一角なようで、恐らく昼間だろうと日陰となる事が予想できる。

それだけならまだしも、この宿屋は建物自体が朽ちかけていた。


 「廃墟じゃねえか」


 「いやいや、ちゃんと営業してるから。お兄さんこんちわー」


 カレンは声を張り上げると、宿(?)の中に入っていった。ナナも大人しくそれについていき、入り口にはシオンだけが取り残された。


 「ほんとに宿屋なんだろうな……」


 シオンは疑いの目で、目の前の建物を見上げる。霊でも潜んでいそうな建物だったが、ここで待っていてもしょうがない。

渋々ドアを開け、宿の中に入っていく。


 「お兄さん、一人追加でお願い。これ銅貨ね」


 「まいどー」


 「いや廃墟じゃねえか」


 恐らく受付と思われるお兄さんと、カレンが交渉していた。ナナはカレンの後ろにくっついている。

その様子を横目に、シオンは部屋を見回していた。

まず、汚い。

屋内の環境はまさに廃墟のソレだった。床や椅子、窓など、ありとあらゆる物に埃が積もっている。灯りとなるものもランプしか存在せず、まるで廃墟に肝試しでもしにきたかのようだ。


 「よし、じゃあ2階行くよー」


 「はーい」


 「大丈夫なんだろうな……」


 慣れた様子で2階に上がっていくカレンとナナ。シオンは不服ながらも、ノソノソとそれについていく。





 「いや廃墟のがマシじゃねえか」


 シオンは引きつった顔で室内を見回す。

今までと同じく、オンボロなのは変わらない。

それに追加して、ヤツがいるのだ。


 「いやいや、思ったより綺麗でしょ?」


 「思ったより汚えよ。蜘蛛の巣張ってんだけど」


 そう、虫だ。いや蜘蛛は虫ではないが、虫に連なる面子がそこら中に蔓延っている。

あちこちに張られた蜘蛛の巣。部屋の隅を通る、アリらしき昆虫の列。ランプのそばにはハエがたかっている。


 「まあ、これくらいは魔術でなんとかすればいいから。それに結構安いんだよ、ここ」


 「……いくらだ?」


 シオンが怪しげな目線で尋ねる。

カレンはそっぽを向いて、シオンと目を合わせないように答えた。


 「……3人で銅貨8枚」


 「マジかよ……焼きモロコシ一本より安いじゃねえか。不安なんだけど」


 シオンはあまりの安さに驚愕する。通常宿泊というのは、一人でも銀貨を使うほどの料金が発生する。その数十分の一ともなれば、確かにお安いのかもしれないが、流石に安すぎて心配だ。


 「お前ら金ねえの?」


 「いやお金はいっぱいあるけどね。訳あって、記録が残るような場所に泊まりたくないんだ」


 「いや、だからって……あ? 記録?」


 シオンが何かに感づいたように、カレンの顔を見つめる。カレンは苦笑いをしながら語りだした。


 「ああ、これも言っておくべきだね。君ならきっと大丈夫だ」


 「……昨日のことだ」


 不思議な事を語るカレンを前に、シオンは思い当たったことを呟く。その瞳は虚空を見つめていた。


 「ここいらにも噂が広まった。魔導帝国から人質が逃げ出したっつう噂。情報統制でほとんど分からなかったけどよ」


 「そうだね。そして、その逃げ出した人質は、二人組だったって事まで噂されていた」


 「……そういや今日、ナナが偽名使ってたな」


 カレンの言葉に、シオンは更に表情を険しくする。

そして一息つくと、その表情のままカレンに尋ねた。


 「……お前らが、そうなのか?」


 「ふふ、そうだと言ったらどうするかな。通報でもしちゃう?」


 カレンは暗に「私達が逃亡者だ」と言っていた。

シオンは少し考える。


恐らく生贄というのはナナだろう。見たところ、カレンが生贄だとはシオンには思えなかった。何より年を取りすぎている。

自分はナナをどう思うか。

ナナをどうするか。


 「……んな事しねえよ。好きに逃げりゃいい」


 「ハハ、良かった。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「……冗談キツイぜ」


 カレンの言葉に、シオンは自虐的なな笑みを浮かべる。カレンが冗談を言っていない事が分かるからだ。

その時、階段を駆け上る音が聞こえた。目が笑っていないカレンだったが、途端にいつもの柔らかな表情に戻る。


 「師匠師匠! 見てください、おやつ貰っちゃいました!」


 「お、でかした。見せて見せて〜」


 ドアを開けて飛び出してきたナナ。紙袋を抱えてはしゃいでおり、カレンはそれにつられてフラフラとナナに近づいていく。

シオンはその様子を眺めていた。

(カレン……もし本名なら、コイツは……いや)

そこまで考えて、シオンは頭を振った。

考えすぎても良いことはない。


 「わ、美味しそうじゃん」


 「はい! さっきのお兄さんがくれたんです!」


 シオンは改めて、楽しそうに話している二人を眺める。

そもそもこれは、自分が考える事ではない。


もし、カレンが     だとしても。

今の自分には、関係がない。


そう思い直し、シオンは二人に近づいていく。


 「何貰ったんだ?」


 「これ、トカゲの砂糖漬け!」


 「……は?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ