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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少女が希望(ぜつぼう)をつかむその日まで

作者: 凪 りれ

 カーテンの隙間から太陽のひかりが差し込む。きれいに整理されている部屋から少女はいつも通り起きてきた。

「…学校行かなきゃ」

少女の名前は「りれ」。大学3年生で元気な少女である。少女は保育士になるため、日々講義や実習に奮闘している。しかし少女は常に微笑み、明るく、誰とでも分け隔てなく接していて、奮闘というより学校を心の底から楽しんでいるように見える。どうしてそんなに微笑むことができるのか…。少女は私に話してくれた。少女が経験した『希望』を。

 少女は2000年10月7日に生まれた。この世が楽しみで予定よりも1週間も早く出てきてしまった。しかし少女はすぐに出で来なければよかったと後悔した。少女は長女だが、3つ上に長男がいた。その長男は手がかかる子だった。病弱で活発的、母親は長男の子育てで精一杯、少女はずっとおんぶされているだけだった。ミルクも、オムツも、何もかもが長男の後。長男が寝てからが少女の子育ての時間となる。そんな生活を体験した少女は、次第に泣かなくなった。おしゃぶりもミルクもオムツも何も言わなくなった。

 少女が生まれて数年が過ぎ、小学生になっていた。少女は仮病をたくさん使った。幼少期の愛着形成が上手くいかず、「私を見てほしい、私の心配をしてほしい、」と毎日のように考え、行動に移していた。

 少女が中学生になった。中学二年の頃、先輩の恋愛相談に乗るために、全ての休み時間を使い話し、手紙を使って話せない内容を伝え合った。そして、先輩が卒業する…半年間たくさん意思疎通をし、少女は初めて「人の相談」ということを体験した。その結果、クラスでいじめにあった。休み時間すら相談に乗っていた少女を「ともだち」と呼んでくれる人は誰一人いなかった。無視、物がなくなる、水をかけられる、部活でのミスをバカにされる、暴力、陰口等…。思春期の少女を絶望させるのに充分ないじめだった。そんな時担任の先生は「人の噂も75日、いつか消える」と言った。二回目に相談したときは、クラスの女子を一人呼び出して「りれと、ともだちになってくれない?」と言った。三回目は「りれにはりれの領域がある…」と何故か領域の話をされた。結局、卒業までいじめがなくなることはなかった。少女は最後、涙を流した。周りは「卒業するから…」などとしゃべっていたがそれは誤解だ。少女はいじめから解放される嬉しさに涙が止まらなかった。そんな涙は20歳になる時には無意味と化すことはまだ知らない。

 少女は高校生になった。少女はSNSを通じて、「悩み相談」を始めた。恋愛や友人相談から始まり、病みやすい子の支えになったり、虐待やいじめに悩んでいる子の話を聞いたり、学校に連絡したりしていた。学校はすぐに動いてくれたが、担任の先生からは怒られてしまった。当然だ。数百キロ先の人のことを私が心配して学校に連絡してもらったからだ。そんな日々を3年間続けた。私から助言をもらった人はもう何人かも覚えていない。今思えばなんて無責任なことをしたのだろう…と自分のしてきたことのほとんどを後悔している。

 その後悔の一つ、恋愛。何故か悩みがひと段落するとみんな私に告白してくる。容姿も見せていない、声のみの関係なのになぜかほとんどの人が告白してくるのだ。私は、理論的には違うが「吊り橋効果」というようになった。このつり橋効果のせいで私の恋愛感情は麻痺した。つい先日まで「死ぬ」や、「苦しい」、「寂しい」と言っていた人からの告白を断ったらどうなるだろうか。答えは容易に想像できる。幼い私にもそれくらいのことは理解していた。だから付き合った。そしてつり橋効果が一ヶ月から三ヶ月で切れる。そして相手から「別れよう」と言われる。これを三年間繰り返した。三年、繰り返す頃には私にとって恋愛感情…いや私の存在自体が人の悩みを解決する為だけの人という考えに変わっていた。そして恋愛感情というものが理解できなくなっていた。それは今も影響は少ないが続いている。

 

 なぜ私がこんな言葉を並べるか。それには理由がある。私は、高校二年生の二月、ネットである男の子と知り合った。その子は、家では虐待や暴言を受け、家事のすべてをその男の子はやっていた。学校ではいじめにあっていた。そんな男の子は常に笑っていた。辛い話をしているときも、どんな辛い質問をしても笑っていた。私は、「この子は早く助けないとやばい」と直感で思った。その日から私はその男の子と毎日のように通話し、その日にあったことをとにかく聞いた。聞いて、聞いて、一週間が経った頃、その子は初めて私との通話で泣いた。その日は寝ずにずっとその子の話を聞いた。その日からその子はだんだん泣けるようになっていった。私はとても嬉しかった。このままいけばこの子が本当に笑える日が来るかもしれない…と希望を持っていた。それが油断を呼び、一生の後悔と罪につながると知らずに…。


 月日は流れ、出会ってから一ヶ月が過ぎようとしていた。もうその子は本音で笑っていた。いじめも学校が協力してくれて消滅し、家庭内も児童相談所が動いてくれて改善していると毎日が楽しいと話してくれた。こんなに無邪気な子なのだと初めて見せたその子の姿に涙した。私との通話も泣いたり笑ったり、充実しているように見えた。私は見ている気になっていただけで何も見えていなかった。

 ある日の朝、その子から電話がかかってきた。無言でかけてくるのは初めてだったので「寂しいのかな?甘えん坊だなぁ」と楽観的に考えていた。電話に出た私は「どうしたぁ?」といつも通りに言葉を発した。その子からの返答は「私これから死ぬの」だった。私は頭が真っ白に、それなのに頭がフル回転、いわゆるパニック状態だった。

「どうして…?」

「あれ全部嘘なんだよね(笑)前とほとんど何も変わってない」

「なんで嘘つい…」

「りれが悲しむし、死ぬって言ったら止めるでしょ?でもごめんね。勇気が出なくて電話かけちゃった。」

「・・・」

「怒ってるよね。ごめんなさい…。でも私も限界なの。もう生きたくないんだ。」

「・・・」

「私ね、君に出会えてよかった。この一ヶ月間、人生で一番幸せだった。本当にありがとう。」

「・・・」

「ねぇ、何か言ってよ。何のために私はあなたに電話かけたの!」

「…ごめんな。君を救えなくて。ごめんなさい。」

「ううん、いいの。自分を責めないで?私が決めたんだから。りれは悪くない」

「ごめんな。こんな状況で言うことじゃないけどさ、最後に何か願いはあるか?」

「…なにそれ。遺言?そうね…私のことを一生忘れないで」

「…わかった。一生忘れない。必ず約束する。」

「ん。ありがとう。りれは何か願い無いの?最後なんだから言ってみ?」

「じゃあ…二つ、いいか?」

「うん。もちろん。なに?」

「一つ目、死ぬまで通話をつなげていてくれ。最後まで君のそばにいたい」

「わかった。二つ目は?」

「…私の名前と心に、私なりの表現方法で君を存在させたい。」

「…?それってどうゆうこと?」

「ずっと一緒ってことだ!」

「なんだそんなこと!?当たり前じゃん!わかった。」

しばらく二人は話した。これが最後の会話になるから余計に止まらない。

「…そろそろいかないと、死ねなくなる。」

「うん。わかった。最後に言わせてくれ」

「なに?」

「幸せな時間をありがとう」

「私こそ、ありがとう。さようなら。」

「ああ。さようなら。」

その言葉が最後の言葉だった。

次に聞こえてきた音は「グシャ」という音と、何かにものすごい強くぶつかる音」だった。私はその音が、彼女の身体と、スマホの落ちる音だとすぐに分かった。周りのガヤガヤする声、救急車の音、そして通話が切れてしまった。


その日からその子から通話はおろか、連絡すら来ない。でも、その子はずっと私の名前と心に在り続ける。その子の名前は「れい」。私のネットネームの「りれ」の中に入っているからね。

…え?心はどうゆうことかだって?

「私の心に永遠に在り続ける。れいを殺した人として一生罪を償う、人殺しとして。私の人生をかけて償う。」

今もたまにあの時の音が思い出される。その度に償わなきゃと改めて思う。れいは今頃天国で幸せに生きているのかな。ふとした時にあなたのことを思っています。

 これが私の一生の後悔と罪。死ぬまで償う約束した、彼女はこれからも一生この希望という名の絶望を手離すことはできない。


                 少女が希望(ぜつぼう)をつかむその日まで END


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