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009 - 馬車ぶらり旅。

「ランクD!? そんなの信用できるのかよっ!!」


馬車が出発したその直後。

いきなり上がった大声に、思わず俺は鎧の中で顔をしかめて。


「手前、本当に使えるんだろうなっ!!」


そういって詰め寄ってくるのは、自己紹介でハシットと名乗っていた武道家だ。

筋肉ムキムキの、喧嘩馬鹿……的な風体。


「……………………………………」


それを、完全黙殺する。

挑発……という意味合いが無いわけではないが、ただ単に返答するのが面倒くさかった、というのもある。


「ちょ、ちょっとハシットさん、落ち着いてくださいよ!!」


そのハシットをなだめるのが、剣士のディスタ。

簡素な鎧に身を包んだ、童顔の少年だ。


この少年、何かと気を使う性格らしく、さっきから怒鳴りっぱなしのハシットをなんとかなだめようと、ずっとこんな調子だった。


「あのなぁ、手前怪しすぎるんだよっ!! ちょっとは言い訳してみやがれっ!!」

「…………………………」


彼が言っているのはこういうことか。

つまり、何故Dランク風情が、こんな高価な武装を装備しているのか、と。

ソレを彼は探りたいらしく、さっきから色々な挑発を投げかけてきていた。

……まぁ、初対面の相手だ。気になんてならない。


兜の中で欠伸する。

こんなの、直に顔を見られてたら殴り合いになったかも。うへぁ。


「……………………」


そんな中、我関せずと一人干し葡萄(のようなもの)を食べている黒ローブの人。

マルベラとかいう魔術師の人だそうだ。


「だから、嘘でも良いから喋れっつってるんだ!!」

「ハシットさん落ち着いて!!」


なんとも騒がしい。

この面々が、今回のパーティーだった。







馬車が出立してから大体二時間程。

その間に、二回ほど魔物の襲撃があった。

一時間に一回のペースというわけだ。


「でも、イーサンさん、魔術使えるんですねぇ」

「………」


頷く。

魔物の襲撃は、一度目は陸、二度目は空からだった。

空飛ぶ怪鳥を相手にするには、当然ながら腰の剣では相手なんて出来ない。

そこで、メイドさんに習った簡易魔術を使ってみたところ、それで何とか相手が出来たのだ。

部分的に凍らせてやれば、後は勝手に墜落死してくれる。

鳥類なんて骨スカスカで、案外脆いものなのだ。


「でも、魔術なんて何処で習ったんです? やっぱり何処かの魔術師に弟子入りしたんですか?」

「……知人に」

「へぇ、ボクなんかはお金あんまりないんで、魔術習ったりは出来なかったんですよ」


どうも、魔術を習うのには金が掛かるらしい。

俺なんかはメイドさんに直接習ったから金なんて全く掛からなかったのだが。

……魔術師に弟子入り、ねぇ。


「……教えようか?」

「良いんですか?」

「問題ない」


言って、ディスタの腕を取る。

魔力を通す、というのは道筋を作るという事だ……と思う。

普通の人間にはその道筋を作る、という作業が認識できないのだそうだ。


「……ちょっと痛い」


ディスタの腕から、ゆっくりと細く魔力を通す。


「感覚……分る?」

「……っ、何か、流れてきているような……」

「今度は外へ……」


ゆっくりと魔力を引き戻す。

この感覚こそが、魔力を引き出す、という行為なのだ。


「これで、火をイメージしてみろ」

「火、ですか? …………」


瞬間、ポッ、と音を立ててディスタの指先に小さな火がともる。

マッチ程度の小さな火ではあるが、これも立派な魔法だ。


「わっ、出来た!?」

「――おめでとう」


言って、掴んでいたディスタの腕を放す。


「後はソレの反復練習。魔力なんて、根性で増える」

「へぇ!! ありがとう御座いますイーサンさん!!」

「……なんという暴論」


見れば、干し葡萄を食っていた魔術師のマルベラがそんな事を呟いていて。

まぁ、魔術の修練は精神修行。瞑想とかが一般的らしい。

根性、なんていうのは、魔術師にしてみれば暴論なのだろう。


「……まぁ、それほどの魔力(さいのう)は感じなかったし、精々火種に使える程度だろうが。……荷物を減らす事はできるわな」

「簡単に火種が手に入れられるんですから、かなり便利ですよ!! ……でも、大きな魔術っていうのも、ちょっと使ってみたかったなぁ……」


あはは、と笑うディスタ。

なんというか、牧歌的な空気を放つ青年だと思った。



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