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044 - 魔(知)。

そうして、それと出くわした。


「まさか……勇者以外の勢力に介入されるとは思わなかったよ」

「………」


目の前に立つのは、年の頃20代ほどの、かなりの美青年だった。

青い髪に、赤い瞳。

街中ですれ違えば、思わず振り返るような。

――ぞっとするような美貌。


「……魔族」

「その通り。ボクの名は、魔王軍四将軍が一人、知将ミヒャエル!!」


言って自らの前髪をかき上げてみせるその青年。その所々からナルシストな気配があふれ出している。

……なんだろうか。眼鏡が似合いそうなやつだ。インテリ坊やとか、そんな感じ。


しかし、なるほど。

確かにこういうインテリぶってるような人種なら、ああいう根暗っぽくて陰湿かつ下種な計画も思いつくだろうさ。

……って、なんだかインテリの顔色が悪くなってる?


「イーサン、全部口から漏れてます」

「……あ」


長らく黙り続けていた所為だろうか。思わず声に出してしまっていたらしい。

顔を真っ青にしたミヒャエル……面倒だ。インテリ魔族は、プルプル震えながら歯軋りして。


「き、貴様ァ、黙っていれば人の事を根暗だ陰湿だ下種だと、好き勝手言いおってぇ!!!」


物凄く激怒してらっしゃる。

まぁ、あの手の人間は、一度自分の策が破られれば、後は総崩れだ。

インテリ系……特に、ああいうぶってる感じの人間は、打たれ弱いからなぁ。


「じゃから主殿。口から漏れておると言うに」

「あ……まぁ、いいんじゃね?」

「ウギイイイイイイイイ!!!!????」


あーあ。インテリ魔族、相当興奮してしまってるみたいだ。

ちょっとからかった……じゃない。この程度の事であんなに興奮するとは。ヒステリックな上司タイプの人間。部下は苦労するんだろうなぁ。

――え、何。もしかして、部下ってKオーク?

……魔物魔族社会って、結構面倒くさそうなのな。

いや、他種族の社会構造なんていうのは如何でもよくて。


「ベリア。護衛は任せるよ」

「はい、任せてください。今回は弓もあるんで万全ですよ!」

「リネア。お前は戻って俺のサポート」

「おう、漸く妾の出番かえ。任せたもれ、わが主殿よ」

「相手は根暗だが腐っても魔族。速攻で潰す!!」

「うむ!」「はい!」

「きっ、き、き、きいいいいいいいいいい―――貴様等ああああぁ、何処まで人をコケにすれば気が済むんだあああああああ!!!!!」


二人に声を掛けていると、どうも無視されていたのが気に喰わなかったらしく、インテリ魔族がキレた。


「人間風情がああああああああああ!!!!!!」

「――反」

「ぶべらばぁぁぁぁぁぁ!!!!???」


インテリ魔族が放とうとした闇色の魔術。

なんとなく重力球っぽかったので、その方向性……内側へ向かおうとする力を反対へ……つまり、斥力へと変動させた。


手元で突如魔術の性質が変動した事に対応し切れなかったのだろう。

魔族は、その力に押し飛ばされ、一気に廊下の端の壁へと吹き飛んでいった。

それ自体は魔力攻撃を部分反射させる低位の魔術だが、使い方次第では色々出来たりする。……まぁ、応用編を使うなら、多少の演算能力が求められるのだけれども。


「ベリア」

「はい。それじゃみなさん、今のうちに逃げますよ!」


ベリアの声に、戦闘とは縁の薄い貴族さんたちがその場を足早に離れていった。

……よし。


「――っ、ぐ、貴様、魔術だとっ!?」

「それが如何かしたか?」

「貴様っ!! 大会では魔術なぞ使わなかったではないかっ!!」


なるほど。この魔族、大会もちゃんと観戦していたのか。

――いや、そうか。大会なんて、よくよく考えれば、各国の戦力調査にはもってこいなのだ。

この魔族が大会を利用した……ははぁ、大会に力を入れたのはそんな側面もあったわけか。


「使えない、なんて誰が言った? ……そもそも、こんな大会如きで、自分の手の内を全て晒す馬鹿なんて、そうは居ないと思うが?」

「く、くうぅぅぅぅうう!!!」


思い切り嘲ってやる。

実際は報奨金や名声目当てに、大半の選手は死に物狂いで勝利を得ようと努力している事だろうが……。

まぁ、この場合は真実なんて如何でもいい。要は、如何にしてコイツの神経を逆撫でするか、という点にある。


――くくくくく。この悔しそうな顔。正直堪りません。


何せ、からかい相手(アキラ)と別れて早二月近く経って居る。

その間一緒に居た仲間は、愛で育む対象でこそあれ、からかったりして遊ぶ対象では……いやまぁ、多少はからかったが。


「く、くく、くくくっ。―――もういい。ボクの手を読むなんて、どんな人間かと思ってみてみたけれども……もういいや。お前、死んじゃえ」

「ふん、何を……」


瞬間、俺の周囲に浮かび上がる数十の魔方陣。

其々が、並の人間ならば致死量の威力を持った魔術だ。

――即座に意識をリネアに繋ぎ、周囲の空間の固定化を任せる。要するに周辺一帯をフィールド……攻撃不可能オブジェクトへと変化させる限定的な結界のようなものだ。


「これは……!?」

「くくくひゃひゃははははははははは!!! 死ねええええええええええええ!!!!!!」


ちょっとからかい過ぎたらしい。

目がヤバい感じに血走ったそのインテリ魔族。逝っちゃってる感じの叫びと共に、結構な桁の魔力・魔術が一気に押し寄せて。


「ぐ、うわあああああああああああ!!!!!!!」

「アヒィィィィィィャャャャアアアアアア!!!! 下等なサル風情が、魔族様を散々コケにしやがって!! 身の程を知れよウジ虫風情………が? ――え、なんで??」

「うん? 何が何で?」


狂ったようなテンションで叫び、しかし急に言葉尻を窄めるインテリ魔族に、一体如何したのかとばかりに、平然と首を傾げてみせる。

わざと悲鳴なんて上げてみたりしたものだから、尚更そのギャップに驚愕しているのだろう。

……ああ、悪趣味なのは理解してるが……楽しいなぁ。


「――なんで?」

「何が?」

「いまの、お、俺の千術陣、直撃した、直撃した筈だっ!!」

「まぁ、直撃したんじゃないか?」

「じゃ、じゃぁ何で無傷なんだああああああああああ!!!!!!!」


くっくっくく!!

いや、この世界に来てからというもの、不良イビリも晃いじりも出来ていなかった所為か、少しストレスがたまっていたらしい。

ここぞとばかりにインテリ魔族を苛めているのだが……愉しいなぁ。


(主殿。少し邪悪になっておるぞ)

おっと、それは不味いよな。冷静に冷静に。


リネアに注意されて、改めて冷静になる。

………、………………。

よし。落ち着いた。


「畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

「だから、無駄だと言うのに」


インテリ魔族は、自棄糞になったのか、そんな叫びを上げて魔術を乱発する。

自暴自棄だという割りに、その魔術の一つ一つは強大な威力を持った、それ一つで何人もの人間を殺せる程度の威力を持った魔術だ。

……が。


目の前。闇にぶつかって魔術は吹き散らされる。

……そう。そもそも、闇を行使した状態の俺に対しては、魔術というもの……いや、魔力を媒介とした手段それ自体が無効化される。

例外といえば……俺が認めたもの、くらいか。

俺の闇の最も基本的な行使法。俺がつけた名前は“闇の衣”。

これを破りたいなら、それこそ光の玉でも持ってこいというのだ。


「さて。それじゃ早速だけど、そろそろ幕を引こうか」


言って、右手に闇を溜める。

この闇は純粋な魔力に等しく、だというのに魔力とは一線を隔す闇という能力である。

湧き出した闇は、俺の意志に従い凝縮し、其処に見えている(・・・・・)というのに、光すら飲み込む闇へと急成長していった。


「ひ、ひぃっ!?」

「晃なら情で助けたかもしれないが……生憎俺は、敵に……特にお前みたいな危険な“男”には容赦しない事にしてる」


(女子であれば容赦するのかや?)

まぁ、美少女なら。


脳裏に呆れたような思念が伝わってくる。

いや、でもな。可愛いは正義とまではいかなくとも、ある種の力は持っている。

考慮する余地はあると思うのだ。少なくとも、自意識過剰のインテリ馬鹿魔族よりは。


「というわけだ。相手が悪かったな」

「ひ、ひやああああああ!!!!!」


強大な魔力が現れる。

その魔力が、これまた強大な術式によって無限の熱量へ――。


指を一振り。書き換えられる前に、闇で術式ごと、インテリ魔族を真っ二つに。


「……あ、え?」


そのまま幾本もの闇で、インテリ魔族を跡形も無く切り刻んで。

最後に残ったその一欠片を、闇で燃やして、インテリ魔族の存在を痕跡も残さずに消滅させた。


「…………」


全く持って。

俺も甘いと思うのだが、やはりいくら魔族とはいえ、言葉を解する存在を滅ぼすのは後味が悪い。

自分が生きていく為に、どうしても敵対する存在。それが、魔族。

――そう、納得するしかないのか。

殺ってから悩む事では無いだろうに。


「甘い、かな?」

「……否。その悩みは、主殿が人である証。恥じる事は無かろう」

「そう言ってくれると有り難いよ、リネア」


リネアの優しさに感謝する。

リネア自身も、俺の魔力を使って、この城の廊下が魔術で破損しないように強化し続けていてくれた。


相当疲れたろうに、それでも尚此方を気遣ってくれる。

その優しさが、また身に沁みるのだ。


「……、よし!」


改めて一つ気合を入れ直す。俺が落ち込んでいては、リネアやベリアに余計な心配をかけてしまいかねない。そんな情けの無い事は回避したい。

まぁ、コレでこの国の危険は排除できたと思う。

そのまま踵を返し、先行するベリア達の後を追うのだった。




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