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043 - VSどんでん返し。

言い争うような声。その果ての怒鳴り声に繋がって、見えたのは銀色の刃。

表彰の席で議論かと思った俺は、しかしその直後に見えた銀色に、慌てて地面を蹴り飛ばした。


ギャイイイイイイイイイイイッ!!!!!!!


咄嗟に引き抜いた黒い剣を銀色の刃に叩きつける。

剣と剣のぶつかり合いは、そんな甲高い異音を周囲に撒き散らした。


「――くっ!!」

「…………っ!!」


さ、流石に重い――っ!!

振り下ろされた白金の刃は、俺のすぐ背後にいる人物を斬り捨てるべく、渾身の一撃として放たれたものだ。

――背後の貴賓席から悲鳴が漏れる。

ソレも当然だろう。此処は王族やそれに等しい人種が集う場所。戦場となった下のグランドならばいざ知らず、自分達の身近でこんな事が起こるなんて、誰が思おうか。


白金の騎士が放ったその一撃を、思い切り押し返す。

型をもって放たれた一撃。この世界に来てから一番の衝撃だった。


正直腕が痺れそうだ。しかし、此処で止まるわけには行かない。

一撃目が止められたのなら、次は横薙ぎの2撃目が来る。


しかし、コレを受け止めるわけにはいかない。

これを受け止めると、次に全体重を乗せた体当たりが襲い掛かってくる()だ。

見慣れた(・・・・)その剣技、その行動を予想して、剣を受け止めるのではなく、思い切り力を籠めて押し出した。


―――ギアアアアアッ!!!!


鉄と鉄が擦れあい、悲鳴のような音が周囲に響いて。

想定していた衝撃を受止め、そのまま一気に弾き飛ばす。

不意に体制を崩された白金の騎士は数歩たたらを踏んで。大きく開いた防御。がら空きとなったその胴体に前蹴りを叩き込んだ。


「ぐ――っ!!」


よし。切り結び(ショートレンジ)では分が悪いが、近接格闘戦(クロスレンジ)ならばこちらに分がある。

……といっても、多少のものでしかない。あいつの剣術は喧嘩剣術。足技だって使うのだから、早々は油断できない。

第一、なんだか技にキレが無い。いつものアイツ(・・・)なら、押し返される事無く、精々相殺程度に抑える筈なのだけれども。第一、初激だって、アイツが本気なら、アイツの剣は俺の速度に追随する筈だし……?


と、そんな事を考えているうちに、白金の騎士(そいつ)の隣に立った男が忌々しげに此方を睨みつけてきた。視たところ、この国の騎士のようだが。


「――っ、すいません」

「……くっ、何故邪魔をするっ!!」

「貴方達こそ、何故自らの王に刃を向けるのです」


不意に、其処に声が割り込んだ。

俺の背後……貴賓席に身を置く、……ふん。良いタイミングじゃないか、ベリア。


「これ以上王の暴虐を許すわけには行かない! 貴殿とて先の会話は見ていたであろう!! それに、第一その王は……!!」

「偽者、とでも言いたいんですか?」

「!? ――いや、そうだっ!! 頼む、勇者殿」

「――っ、分りましたっ!!」


言って、その騎士の背後に佇んでいた白金の勇者……つまり、晃が、カチャリと剣を鳴らした。ベリアの静止も聞かないとは。この騎士、よっぽど覚悟を決めているらしい。しかし――


――全く。この、馬鹿は――っ!!


味方する陣営はよく選べ、よく考えて行動しろとあれほど言っているのにっ!!

どうせまた、良い人そうだからと言って与えられた情報ばかりで判断したのだろう。

世界には中心なんて無いんだ。真実なんて、人の数だけ幾らでも有るというのにっ!!!


最初の一撃を弾き飛ばし、次いで放たれた二撃をも弾いて。

驚く晃の顔。しかし、この結果は当然なのだ。

なにせ俺は、昔から晃の剣を見ている。その太刀筋、癖、刀運びなんかも。

容易に想像できるのだ。次に撃つ場所、攻める箇所が。


「……っ、くそっ!!」


そして、大振りな一撃。

――全く。熱くなるとすぐに隙を見せる。なおせ、といっているのだけれども。

その隙を突いて、横蹴りで晃を吹き飛ばす。

膝で一度溜めをつくった蹴りだ。衝撃は貫通せず、身体全体を押し飛ばす。


「かは――っ!?」

「ゆ、勇者殿っ!! おのれ黒騎士めぇっ!!」


言った騎士の背後から、更にぞろぞろと騎士達があふれ出してくる。


現在の貴賓席の状態を説明すると、つまり今現在、貴賓席は下に見えるグラウンドとの直通通路が掛けられている。

グラウンドから、優勝者、準優勝者、準々優勝者の三者が通るための、レッドカーペットの掛けられた取り外し式の階段が。


其処から大挙しようと言う騎士達。……能力制限有りでは、流石に無理がある。

そろそろ彼の――出番!!


「――経済財政大臣、ギッシュ・フォートレスの名において命ずる。騎士よ、止まれ!!」


その声に、全ての騎士達の動きが止まり。次いでその目が、驚愕に彩られた。


「なっ――大臣が、二人!?」


そりゃ驚くだろう。

バルコニー出入り口に立つ大臣と、王の右斜め後ろに立つ大臣。

……くくく、王の後ろに立つ大臣のほう。つまり偽者。口元が引きつってる。


「なっ!?」

「大臣が二人!?」「どういうことだっ!!」「偽者か!?」


ざわめく騎士達。ソレはそうだろう。

自分達を先導(・・)していた人間が、何故か二人。――そりゃ、混乱するよな。

調べて(というか衛兵の噂話から)分った話だが、やっぱりと言うか予想通りというか、件の騎士達を煽動していたのは、この国の事を想っているギッシュ・フォートレス大臣だ……という事に成っていたらしい。……それにしてもこの国、兵士達の情報駄々漏れである。


「―――に、偽者だっ!! 私の姿を騙る偽者だっ!! 騎士達よ、即座に討ち取れっ!!」

「さて、どちらが偽者でしょうか」

「なにっ!?」


慌てて声を上げる台上の大臣……面倒なので大臣(偽)とする……に、ベリアが声を入れる。

正体を隠しているという制限がある以上、ヤマトを知っている晃の前ではソレは声を出す事ができない。

ので、立場的にも喋れて、より見栄えのするベリアが喋ってくれているのだが……これは、アタリだったか。

ベリアのよく通る声は、その周囲の人間を完全に威圧していて。


「エネスクの王女様よ、それはどういう意味かっ!!」

「―――誰が偽者か。そんな事、語り合うより、事実を見れば済む話でしょう。イーサン」


動揺する大臣(偽)を完全に無視し、ベリアは此方に視線を飛ばしてきた。

声は返さず黙って頷き、左の手のひらを天に向けた。

――さぁ、仕掛け解体の時間だ。


手のひらの先、小さな闇から、大量の虹の雫が撒き散らされた。

その水は空中で拡散し、雨のように周囲に降り注いで。


「なっ、何だっ!?」

「これは……虹の雫!?」


何人かはこれの正体に気付いたようだった。

虹の雫はその希少性と入手性の困難ゆえに、一単位(10g)辺りに結構な値段が付く。

つまりこれは、金をばら撒くような行為にも似ているのだ。

そりゃ、知っている人間から見れば正気には思えないだろう。


「う、……これは……ギッシュ!?」

「陛下。正気を取り戻されましたか」


虹の雫を浴びたカノン王の身体から、薄らとした靄が立ち上り、そのまま虹の雫にうたれて掻き消えた。

その瞳に光を取り戻したカノン王を、大臣が慌てて助け起こして。


周囲の騎士からも瘴気が抜けていく。これこそが虹の雫の持つ浄化の力だ。

常時ならば、他の騎士達もこんな短絡的な行動はとらなかっただろう。

しかし、この隠蔽された瘴気。これによって、人々の闘争本能が刺激され、普段より攻撃的な判断を取ってしまっていたのだろう。

つまりは、KOOL(・・・・)状態。


それも、此処までだ。

瘴気は虹の雫によって完全に払われた。

騎士だけではない。このグラウンドに集った全ての人間から、瘴気は払われた。

これで人間間での瘴気の受け渡しも起こらない。

――全ての人間が集う表彰式。これこそ、まさに虹の雫を使う最良のタイミングだった。


「………」


しかし、問題は未だ終わらない。

むしろ、解答編は今始まったばかり。

人々の瘴気が祓われると同時に、人以外も、その正体を明らかにしだした。


「ぐ、ウグオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」


大臣、そして騎士団の中や、観客席の彼処から、そんな唸り声が響きだした。

唸り声を上げた人間は、然し次の瞬間にその皮を破り捨て、その本性である怪物の姿をさらけ出していく。


「な――っ!?」

「これは……魔物!?」


驚く騎士や晃。

つまりはこういう事だろう。王が乱心し、放っておいても滅ぶであろうカノン。

しかし、あえて大臣の位置に入り込む事で、崩れるこの国を逆に掌握、そのまま他国と争わせ、人間同士の戦争へ。

そうして、弱った人類を魔族が一気に……。

姑息だが、かなり合理的で、もし成功していれば世界の荒廃一直線へのルートだ。


そして、それをより効率的に進めるため、民衆及び騎士たちの内側から、彼等を煽動する役割の魔物を置いておいたのだろう。

――想定はしていたが、結構数が多いな。


「く、ぐふふふふふふふ……よくも、我等の計略を邪魔してくれおって……」

「……オーク、ってやつかな。うーん、これはまた醜悪な」


そうして、大臣(偽)の皮を破った魔物が姿を見せた。

……というか、分り易っ。

豚というか、猪というか。

そんな感じの動物を、二足歩行にして緑色に染めた感じの怪物。

よく架空の物語で、邪悪な存在の尖兵として扱われる奴だ。


「俺様をそこいらの十把一絡げのオークと一緒にしてくれるな。俺様は、魔王様からじきじきに魔力を下賜された、キングオークだっ!!」

「……そうか、それで王様はあんな事を……」


要するに、中ボスその1といったところか。面倒なのでKオークで。

―――しかし、正直これの相手をするのはなぁ。

態々自分で黒幕まで明かしてくれちゃって。上策を与えられていた様子だが、ソレを破った以上、残されたこれは愚鈍な魔物。正直、相手をする気も起きない。

晃は晃でなんだかぼそぼそ呟いている。――ははぁ、察するに、王を斬りつける前に何か言葉を交わしていたんだろう。んで、操られて[ピー]な事を言った王に騎士がキレて、んで会戦、と。



「然し此処まで追い詰められるとはっ!! かく為る上は、カノン王の首だけでも――っ!」


瞬間、爆音を立ててKオークの姿勢が揺らぐ。

視れば、ホークアイを構えたベリアが、その鏃をKオークに向けていて。

ボンッ、という破裂音。咄嗟にホークアイを召喚したにしては、まずまずの威力を持ってKオークの頭部に爆発を叩きつけていた。


悲鳴を上げて飛び退くKオーク。

その間にカノン王は、大臣の手によってその場から連れ出されていった。


「ヌグウウウウウアアアアアアアアアア!!! 人間風情が俺様の邪魔おオオオオオ!!! あ、アバレろ雑兵ども、ミナゴろセ!! 塵せ!!」


なんて、Kオークが叫んでいる間に、ベリアは貴賓席の人間の大半を場内へと避難させて。

……うわぁ、やっぱり賢い上に気が効く。良い子だ、ベリア。何処かの馬鹿とは比べ物にならないな。


……さて。

民衆の中にも、人間に化けて騒乱を先導する目的で紛れ込んでいた魔物がいたようだ。


「騎士殿」

「あ、ああ?」

「観客席にも化けた魔物が出ている。そちらの処理をお任せしたい」

「わ、わかった……」


奇襲が失敗したと思ったら、自分達のクライアントが実は偽者で、しかも魔物だったりと。

かなり混乱していたのであろう騎士さんは、俺の言葉に素直に頷き、そのまま騎士達に号令をかけた。


「勇者殿。あれの処理は貴殿にお任せする」

「――え、俺?」

「貴殿の腕前であれば、あの程度は容易かろう。……それとも、助力が必要か?」

「ま、まさか。いいさ、俺達であれを倒してやる!!」


そして俺の言葉に簡単に乗せられる馬鹿(アキラ)。声で気付かれるかと思ったが、幸い晃は俺には気付かなかったようだ。まぁ、鎧の所為で声も少し変わっているし、第一(ヴァカ)だし。


晃は人並みには見栄っ張りだ。だからこうして簡単に扱える。

――まぁ、それでも人徳はある。引き返したはずの貴賓席グループから、何人かの人間が引き返してくる。

くくっ。アリア王女をはじめとした、勇者ハーレム。ハーレムの癖に戦闘能力も高そうなのだから笑える。


「では任せた。私は貴人等の護衛にまわる故」


言って、一気にバルコニーを離脱した。Kオークを相手取った戦闘アクション……というか、面倒な事は晃に丸投げよう。うん。


そうして俺は、走ってその場を後にした。



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