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EX01 - 勇者の刃先。

「お、王様を倒すのに協力して欲しい!?」

「――はい。恥を忍んでお頼み申します、勇者殿」


その男性が俺の控え室を訪れたのは、準々決勝で、みんなと休憩しているその最中だった。


「なんだ、貴様。反乱でも起こす心算か?」

「――シェファ様。不穏な発言は……」

「わかってるわよ、リーベ。軽いジョーク」


シェファが、その頭の上の獣耳をピコピコと揺らしながら笑う。

ソレをたしなめるリーベさんも……なんだか少し硬い表情のまま、メイド服を払って立ち上がった。多分御茶を入れにいったのだろう。


「冗談にしても、性質は悪いですけれどもね」

「……とりあえず、事情を説明してくださるかしら?」


ノーマが話を斬って、アリアが話を先に進める。

なんなのだろうか、この子達。矢鱈と連携が取れているような気がする。

――というか、相談を持ちかけられた本人である俺は置いてけぼり?


「は、はぁ……」


少し戸惑ったようなその騎士さん。

いや、此方を見られても。とりあえず微笑んで、手で「どうぞ」とばかりに話を促す。


「……それでは」


そういって、漸くその騎士さんは本題へと入る事ができた。






ことの始まりは、カノン王国国王の急変からなのだ、とその騎士は語った。


王の急変。最初こそ目立った問題は見られなかったが、しかしその歪みは徐々に大きくなり、今現在では経済、治安の所々に問題が発生しているのだとか。


そして何よりも、王は残酷になった。

それまでの賢王ぶりが嘘のように、今現在はまるで暴虐の王へと変貌してしまっている。


余りの不自然。不審に思った騎士団の面々がそれを秘密裏に調査したところ、王の居室から不自然な魔力、邪悪な気配が感知されたのだという。


「あれは、王ではありません。あれは王に化けた魔物です!! 今現在、王の幽閉されているであろう場所には、我々の仲間が探索に行っています。我々は、大会の機に乗じてあの偽者を討つ心算なのです!!」

「なるほど……」


少し思うところがあって、騎士さんの言葉に頷いてみせる。

意を得たりとばかりに話を続けようとする騎士さんだが、その前に一つ確認を取ったほうがいいんだろう。


「でも、其処に俺が如何関係してくるんですか?」


問うと騎士さんは少し表情をゆがめ、言い難そうに「ソレなのですが……」と言葉を続けた。


「本来、我々は独自に動く心算でした。そのため、今大会は赤銅の剣まで呼び戻して参加させたというのに……っ!!」

「赤銅の剣って、あのカノン最強の騎士と呼ばれている?」


ノーマが背後から口を挟む。然しその口調は何処か説明的で。多分、俺への解説なのだろう。

ノーマは神殿神官。昔から各国の神殿を行き来していた所為か、此処の面子の中では、旅人である獣人、シェファの次くらいに世界の事情に詳しい。


「ええ。その赤銅の剣です。本来ならば既にSランクに昇格している筈の奴なのですが、今大会に参戦し、その表彰の場で偽者を斬り捨てるため、あえて昇格せずに居たほどの強者だったのですが……」


くっ、と悔しそうにする騎士さん。


「でも、赤銅の剣は、今大会準々決勝で……」

「――ええ。敗れ去りました。ランクCの、黒騎士に……」

「……ランクCがランクSを? 冗談じゃなくて事実だとすれば……悪夢よね、それ」


ランクC。確か、大型の魔物を一人で数匹討伐して認められるクラスだ。

対してSランク。大型の竜種なんかを何度も相手にして、それでも中々認められないクラス。


そんなランクSに届くという怪物を、ランクCが打破した?

思わず息を呑む。

いや、俺はBランクだけどさ。それでもAランクの相手程度で結構精一杯なんだが。


「幸い、黒騎士は赤銅の手傷で棄権しました。これは機なのですが、残念ながら今大会、我々の陣営で優勝できそうな……表彰台に立てそうな人間は、居なさそうなのです」

「……確かに。今大会は、力のある戦士が多く集っているようですしね」


アリアの声に、頷きをかえす騎士。

その声に、みんなの視線が何故か俺の方へ集中して……なんだか照れる。


「はぁ……。で、騎士殿はアキラに何を求めるんだ?」

「……、恥を忍んでお頼み申し上げる。偽者を、討ってくだされ!!」

「――分りました。引き受けましょう」


「って、ちょ、お前!?」「あ、アキラ様!?」


シェファとリーベが慌てたような声を上げて。


「……アキラさん、私が言うのもなんなのですが、もう少し考えてからお返事しては……」

「いや、此方にしても王様には一言文句を言うつもりだったし、ソレが偽者だって言うのなら話は早い。ばっさり斬っちゃおう」


この国に来て、前々から思っていたのだ。

この国は確かに発展している。けれども、それに反して治安対策がかなり手抜きなのだ。

確かに商売も繁盛していて、町には活気が溢れて見える。だというのに、この町は治安が今一悪い。

荒くれ者が街中でも平気で暴れだす、と言う光景も何度か見た。

それも、話を聞けば王様の変異からだという。


「……まぁ、アキラらしいと言うか……」

「それでこそアキラ様、といった感じですよね」

「……」


シェファが呆れたように言って、ノーマが苦笑しながら同意して、最後にリーベが無言で頷いた。


……まぁ、頼まれなくとも、表彰式のときに王様に一言申す心算だったのが、偽者だというのなら手加減無用でいける。むしろ吉報なんじゃないだろうか。


「というわけで、この大会、絶対に勝つ!」

「ああ、さすがアキラ様。輝かれてますわ!!!」


なんだかアリアが恍惚としていたけれども。なんだか此方に身を摺り寄せてきたけれども!! 更に言うと、周囲の視線が何だか痛くなってきたけどっ!!

――ま、とりあえず。


今大会を絶対に勝ち抜くと、そんな決意を固めたのだった。



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