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040 - VS赤銅剣。

そうしてその翌日。

諸々の準備を終えた俺達は、最後の余興――個人戦準々決勝への参戦となった。

正直な話、もう棄権しても良いとは思うのだが、


「棄権するなら勝って棄権してください!」

「主殿、敗北は許せぬぞ」


なんて、二人に言われてしまえば。出ないわけにも行かないだろう。

黒騎士装備に換装した俺は、そうして会場の指定ポイントまで移動した。


『っそれではぁ、これよりぃー、準々決勝をはじめたいと思いますっっっ!!!』

――わああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!


あまりの騒音に、思わず鎧の中を闇で覆って防音する。

要は鎧に発生する振動の限界値に制限を掛ければ良いわけだ。


『準々決勝の舞台となるフィールドは、――――ッ、これだーーっっ!!!』


瞬間、周囲一体に低濃度のマナが集まり出す。

次の瞬間、まるで蜃気楼がそのまま顕現したかのように風景が挿げ代わっていた。


『フィールド、砂漠っ!!! キメの細かい砂粒の上は、移動だけでも相当に体力を削られるぞおおおお!!!!』

――わあああああああああああああああああああああああああ!!!


把握把握。

もう周囲もノリで声を上げてるとしか思えない。

……いや、だとするとこの場合、ノリに付いて行けていない俺が空気を読めていない、という事に成るのか?

……ふぅ。世の中って難しい。


『それでは、戦士入場っ!!』


その声を合図に、扉を開く。

正面に広がるのは、成程確かに肌色の砂が一面を覆う砂の小山。

心無し気温まで上昇しているような気がする。防温っと。


『赤コーナーから入場するのはぁ、カノンの騎士でありながらも冒険者ギルドに籍を置き、あと少しでランクSに届くと巷で噂の“赤銅剣”、リンド・シュタイナーだあああああああああっっっ!!!』

――わああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!


ランクS?

……ああ、確かにそんなのがあるとは聞いている。酒場の噂程度の話だが、なんでも片手で魔物を消し飛ばすのだとか。……ジョークだと思うが。

でも、実際にお目にかかったことは無いな。この大会でも、出場者の最高ランクはAみたいだし。一応枠はあるのかな?


『続いて青コーナーから入場するのは、突然の参戦者、突如頭角を現し、若干Cランクにして準準々決勝にてランクAのゴメスを打ち破った謎の黒騎士、イーーーサンだああああああああああああっっっっ!!!!!!!!』

――わああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


名前伸ばし過ぎ。てか、謎の黒騎士って。

なんだか恥ずかしい二つ名でも付けられてしまいそうだ。厨二病?


そんな俺の心情など御構いなしに、会場のボルテージはコレでもかと上がっていく。

只でさえ瘴気に汚染されている空気が、今度は熱狂で変な具合に仕上がっている。

正直めまいが……。


『それではぁ、試合、開始いいいいい!!!!!!!!!!』


ドーーーンッ!!

盛大に鐘が鳴り響く。

同時に高まる歓声と共に、視界の先で銀色の騎士が駆け出すのが見えた。






実は今大会、俺は自身に対し、少しの制約をかけて戦っていた。


一つ。俺の能力に関しては、試合中の運用を禁ずる。

一つ。魔術に関しても、能動的運用は禁ずる。


この二つを持って、今現在の俺は大会を勝ち進んだのだ。

何といっても、闇の能力は反則過ぎる。使って良いのならば、大会優勝といわず、力にも慣れた今の状況なら、カノン首都陥落なんて二〜三日で出来るだろう。

ソレはあんまりだ。つまらなさ過ぎる。それに、コレを使ってしまえば後ろ指指されるのは目に見えているし。以上の理由から使わない。


で、魔術。コレに関しては単純なハンデだ。

今現在、俺の肉体は闇の反動か、基本的にその加護の下にある。

魔術なんて使わなくても、十分に勝算はあるのだ。


瀑布の如く、砂塵を撒き散らして駆け寄る銀色の騎士。その距離が此方に確りと確認できたその途端。

その手に持った銀色の長物を、此方に向けて大きく振りかぶった。


「……っ!?」


咄嗟に剣を合わせて受け流す。

途端背後から衝撃。今のは……投槍か!?

背後から響いた衝撃に驚嘆しつつ、慌てて姿勢を立て直す。が、相手側はその一瞬の隙を狙っていたのだろう。

引き抜いた赤銅の軌跡が、瞬時に此方を切り裂くべく飛来していた。


「とったっ!!」

「とらせん!!」


剣を振り抜く事を諦め、剣を握る腕を一気に持ち上げる。

持ち上がった剣に赤銅の剣がぶつかり、不完全な体勢の俺は、その衝撃に耐えられずに勢い良く砂地へと吹き飛ばされた。成程、コレが赤銅色の魔剣か。


「………ちぃ!!」


騎士が舌打ちする。次いで、地面に埋まった筈の此方へ向かって駆け出して……って、読まれたか。


咄嗟に地面から飛び出し、砂を蹴って目潰し。

効果があるとは思えないが、一応の牽制には成ったらしい。互いに距離を取り合って、そのまま今度は向かい合うように剣を構えた。


「自ら跳んで勢いを殺したか」

「それでも十分加速していたし、まさか読まれるとは思わなかったが」


剣が此方にふりぬかれた瞬間、剣の軌道に沿って大きく飛び退く。

そんな漫画みたいな技を、実際にやってのけるのはかなり大変だった。

そも、此処は足場が緩い砂地だ。飛び退くのにも相当体力を消耗した。


しかも、だ。

間髪入れず追撃された所為で、身体に無茶な動きをさせてしまった。

それ程大きなダメージではないが、魔術を使わない、という制限がある以上、俺は肉体的違和感を残したままこのA級に挑まなければならないのだ。


「ち、……やれば良いんだろうやれば!!」


パラメーター的に視ると、この騎士は身体能力では俺に並ぶのではないだろうか。

その上、殊騎士スキルに関わる槍だとか剣だとかに関しては、模倣品である俺のそれを遥かに上回っているように見える。


そもそも俺の戦闘技術はショートレンジ担当じゃない。

反射神経とか直感、あとは見様見真似の剣術で戦っているのだし。


「……参る」


左から回り込んできた剣を受け流し、その隙に反撃を……っ!?

咄嗟に剣を退いて、右側からの銀色の一撃を防御する。

こ、こいつ……!!


「二刀流使い!?」

「今大会で使うのは初めてだな。さて、貴殿はこれを如何対処するか」

「圧し通る!!」


幸い、二振り目は既製品の剣のようだ。アレならば、他に手段は幾つかある。

地面を踏みつける。

出来うる限りの加速をつけ、引き手と推し手をつけて、最速と思える一撃を。


「ぬっ」


片手の剣で受け止めようとしていたその騎士は、しかし咄嗟にその一撃を両手の剣を交差させる事で受け止めた。


「……く」

「交叉剣!!」


その交叉し、剣を受け止めた二振りの剣が、今度はハサミのようにその口を閉じ始めた。

咄嗟に剣を弾き、ハサミを地面に突き立てる。

その隙に胸部を狙って突きを放つが、弾き上げられた剣が下段から俺の剣を弾いた。


「ち」

「ぬぅ、やるなっ!」


なんて面倒な。

この騎士、技量も相当なものだが、直感というか、センスが半端無い。

攻撃を読む、というよりは直感的に何処から攻撃が来るかわかっている、という風な感じだ。

正直、こんな相手と喧嘩したくない。

せめて足場が確りしていれば……いや、こんな足場だからこそ俺でも対等に戦えているのか。


左右からの囲い込むような連激。やっぱり二本と一本じゃ……。

不味い。これじゃ勝てない。

汎用型対最高速度型で、一直線コースだけで勝負するレースゲームみたいな感じだ。


……無理。絶対勝てない!!

ドリフト加速とかそんなで誤魔化せるレベルじゃねぇ!!


「……っ、こういう場合、一番多いのは搦め手だよな」


鎧の内側で呟いて精神統一。

正直、こういう面倒くさいのは俺の趣味じゃないんだけれども……。


バッ!!

地面を蹴って砂をかける。その隙に俺は一気に距離をとる。

相手側のほうは、砂から目を庇うために左手で眼前を覆い、逆に右手で前を払う。一瞬の隙も確りカバーする。なんと細かい。


……剣では分が悪いか。


「仕方ないか」


このままでは勝利は難しい。

本当は勝敗なんて俺は如何でも良いのだけれども。


視線を少しずらす。

遥か遠くに見える、貴人の集う特別席。

其処からこちらを見る、二人の少女の姿。声こそ上げては居ないが、最初ッからずっと念がとんできているのだ。


応援されている以上、ヘタをこくわけにも行くまい。


「次は外さんっ!!」

「仕掛けるっ!!」


全力で相手の懐へと飛び込む。

騎士の左からの一撃。でもこれはフェイントで、コレをかわせば次に右からの一撃がふってくる。

――ソレを承知。半身になって外側へ。


「ふんっ!!」


当然の如く、騎士はそこに右手の剣を振りぬいてくる。

水平に振られた剣だ。コレを回避するには体勢が不安定。となれば、コレをしのぐには剣で受け止めるしかない。

けれども。相手もソレをわかっているはず。剣で受け止めた途端、左手の剣で俺を狙い討つだろう。


だから、剣は使わない。


「――なっ!?」

「……っつぅ、キくなぁ……」


右脚に響く衝撃。膝を曲げてバネにして、振動を拡散させたのだけれども。それでもこれ程とは……。やっぱり只者じゃないな、この騎士。


「剣を足で止めただとっ!?」

「剣ってのは、付根の切れ味は鈍いものでねっ!!」


まぁ、それでもある程度の強度がある靴でなければ、怖くてこんな真似は出来ないが。

弱い跳躍。

足で止めた剣を基点に、騎士の頭に向けて思い切り左の回し蹴りを叩き込んだ。


「ぐおあっ!?」


後退る騎士。コレは最後のチャンスだ。というか、コレを逃す馬鹿ではない!!

足場は悪い。正直最悪としかいえない。けれども。


「おおおおっ!!!!」


大地へ足を踏み込む。バンッ、と跳ね上がる砂礫を突破し、その腹に向かって背中からの体当たりをぶちかます。


「ぐおあっ!?」

「まだまだっ!!」


軽く数メートル程吹き飛んだ騎士。そうして、漸くその場所にたどり着いた。

地面に突き立つそれ。……ちょっと俺の希望する形状とは違うが。無いよりはマシだろう。


体勢を崩した騎士の腹に、横薙ぎに槍を振るう。

馬上騎士の突撃槍に似たそれが横薙ぎに耐えうるかは少し心配ではあったが、しかしどうやらその心配は杞憂だったようだ。


「――はっ!!」


そのまま更に地面を踏み込んで正面から突撃をかける。

この距離ならあるいは……!!


「堕ちろぉ!!」

「やらせんっ!!」


騎士が剣を構えなおす。交叉させた二刀の剣は、その槍の軌道を少しだけ上へと逸らして。

不味いと判断して即座に槍を捨てる。

次いで槍は叩き斬られ、その勢いのまま枠外へと飛び出していった。


「……ち、面倒な。貴殿のソレは直感か」

「その通り。私が孤立し、しかし高みへ押し上げた唯一の技能!」


勘が良い奴なんていうのは、何処の世にだって存在する。

人間が持つ危機回避能力が少し優れているだけ、と人は言うが。

例えば、そんな人間が戦場に出た場合。生き残る事が勝利に繋がる戦場ならば、そんな人間はまさに強敵となるのではないか。

この男は、少しの直感と、長い戦場で経験を積んで直感をより強固なものとした、ガチの叩き上げ型の人間なのだろう。


言いながら斬りかかって来る騎士の剣を往なし、砂の高低を利用してなんとか距離を稼ぐ。

現状では近接戦闘は相手側のほうが有利だ。

あと少しで場外だったのだが……。

くそ、もう少し力があれば。


そんな事を考えたときだった。

一瞬視界がブレた。それに続くように響く頭痛。

不意に訪れたその激痛に思わず意識が遠退きかけて、しかしソレを何とかこらえて。


瞬きをしたのは一瞬。けれどもソレを区切りに、世界はその様子を変えていた。


「………!?」


最初、その違和感がなんなのか気付かなかった。

けれども、すぐに気付く。遅いのだ、物凄く。時間の流れが。


騎士の剣は、その軌跡を確りと視認することが出来るし、だというのに自分の感覚は時間で麻痺したりはしていない。

なんだこれは。アドレナリンの大量分泌? 人間の防衛本能の賜物?

わからない。けれども、今やるべきことはわかっている。


頭痛をこらえながら考える。

性能的な最高速度は此方が圧倒的に劣っている。ならば、無駄を極限まで省いて速度に追いつくしかない。

頭で想像した構想図にのせて、身体を最低限の動作で動かす。

時間が遅れている以上、矢張り自分の身体の動きも鈍い。しかし、その動きは自分が想像したよりは十二分に早い。


拡散しそうになる意識を固めて、なんとかノイズだらけの意識を保つ。

振り下ろされる銀色の軌跡。その根元に向かって、全力で突きを放つ。


「――!?」


鈍い驚愕の気配。

感じる感覚に違和感を感じつつ、しかし目的を達成した事を感じて。

ビキッ、と音を立てて剣の刀身が折れて跳んでいった。魔剣は無理でも、市販の剣ぐらいならこの黒い剣で十分壊せる。


そうして追撃してくる赤銅色の剣に、寝かせた刃を合わせて迎撃。

そのまま剣を弾き、身体を内側へともぐりこませる。

驚愕の気配が間近から伝わってくる。この距離なら剣は振るえまい。


けれども此方は違う。剣は振るえずとも拳はふるえる。

コンパクトに、けれども全体の力を集約するイメージで、一気に肘を突き上げた。

インパクトの焦点は騎士の腹。


素の状態でも不良を一発で再起不能にしたこの一撃だ。

闇を得て身体能力も上がっている現状、威力は全体的に底上げされていたらしい。

騎士の腹、鉄の板がべこりとひしゃげ、その勢いのまま少しだけ上空へと舞い上がった。


そしてそれは、多分俺に許された最後のチャンス。

滞空し、落下してくる相手に向かって渾身の回し蹴りを放つ。

脚部に積んだ鎧が重い。けれども、その重量すらをも威力に乗せて。


ゴッ、という鈍い音がして、足の当たった騎士鎧の腹部が更にへこんだのが見えた。

そのまま、全力で放たれた足蹴りは、その騎士の身体を一気に場外へと飛ばしていった。

ずしゃっ、という墜落音と共に、漸く認識が通常のものへと移行して。

気付けば、周囲は大歓声に包まれていた。


「空中コンボ……成功、したかな」


ため息をつきながら膝をつく。

集中力を振り絞って、身体の能力を振り絞ったのだ。流石に限界が近かった。

頭痛も少し治まってはいるが、今にも意識は遠のきそうで。


周囲に響くイーサンの名前を、何処か遠くのように聞きながら、もう一つ、大きくため息を吐いたのだった。



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