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039 - ネタバレな作戦会議。

「で、まぁ大臣の部屋まで忍び込んできたわけだが……」

「え、ええ!? ちょっと待って下さいよヤマトさん!! 話についていけてないですよ!」

「すまん、主殿。今回は妾もついていけぬ」


宿屋の一室。蛍光の魔術で照らされた室内で。

そこまで話し終えた途端、二人にそんな事を言われて。

いやぁ、流石に唐突過ぎたか。


大臣の部屋から脱出した直後、次いで開催された個人戦の第二戦。

どうにか間に合った俺は、ランクAだかBだかを適当に殴り倒して次の戦場へと駒を進めた。

相手は……なんだったんだろうか。刀に鎌、鋸、槌、斧に、果ては熊手とか。色々武器を使う大男だった。貴様は弁慶かと。


まぁ、それはいい。

勝戦後宿に帰った俺は、早速とばかりにベリアとリネアにとっつかまり、本日の成果を報告させられていたのだった。


「……まぁ、なら、何処から説明して欲しい?」

「先ずはじめに。結論から入っては如何じゃ? 主殿は予想を一つ立てて、其処に至る道筋を組み立てるタイプじゃろう?」


リネアに言われる。成程、確かに本日の俺の行動は、最初に一つの予想を立て、ソレを前提として行動していた。犀川式か。

……なら、少しじらしてみるか。


「それじゃぁ、二人に質問。カノン到着からの一連の様子を見て、このことを如何思う?」

「一連……というと、この街を覆う、瘴気の事などを含めて……か?」

「一連、といわれても……カノン王の様子が急変して、それからこの国の様子が少しおかしい、という事ですし……」


経済王国カノン。その国の異変は、数月前。

病状に臥せった王が復帰したその直後からだった。

王はまるで人が代わったかのように無茶な政治を行い、その結果街の治安は低下し、ゴロツキや傭兵が街中を平気で歩く、物騒な国へとその様子を変えていったのだとか。


「えっと、やっぱり王様が偽者、とかでしょうか」

「うむ。妾もベリアについて場内に入ったが、やはり王から闇の気配を感じた。状況から見て、やはり最も怪しいのは王であろう」

「カノン王は元々良い人だったそうですし、伏せる前と後の評価を比べれば、まさに急変という表現になっちゃいますしね」

「やっぱりそう思う?」


頷く二人。


「うん、やっぱりソレが一般的な認識だろうね。俺が出会った騎士も、そんな考えで動いていたみたいだったし」


地下で出会った騎士を思い出す。名前は……なんだっけ。

彼も、王が偽者だと思い、本物を探すべく行動していたようだった。


「俺はな、ソレが余りにも見えすぎ……出来すぎだと思ったんだよ」

「ほぅ……確かに、構図としては分り易過ぎるの」

「仮に偽者が紛れ込んでいるのだとすれば、城に紛れ込めるほどの計画を立てた存在が、そんな分り易い行動をする筈が無い、とおもってな」


組織に紛れ込む、というのは容易い事ではない。

事前に下調べし、其処に居ることが当然であるように偽装する、という必要がある。

ソレをするには相当な情報量が必要だし、ソレを容易にする事ができるとは思えない。


だというのに、あの王の変異に関しては、少々あからさま過ぎるきらいがある。

寝込んで人格が代わった? ソレを魔物の入れ替わりだと判断した?

ソレは流石に安っぽすぎるだろう。


「だとすれば、王の方は囮。本命は別にあるんじゃないかな、と」


上手な嘘というのは、真実を紛れ込ませる事で判断を鈍らせる。

偽装もソレと同じで、真実の紛れ込んだ虚実は、表の真実を見せることでその本質を隠し通すというのはよくある。


今回の場合、王は囮。これほどあからさまに、けれども嘘臭くならないようにある程度臭わせる、なんていうのは……。


「では主殿は、黒幕が居る……と?」

「ん。噂を辿ってみたら、王様の異変の少し前から、大臣の様子が変だ、っていう話を聞いてね」

「大臣……というと、経済担当の?」


経済担当のフォートレス大臣は、この国を発展させてきたフォートレス一族の出身であり、この経済という柱を担う人材だ。

その経済手腕により、この国の発展を促す一族。ある意味、王以上にこの国の象徴的な人物だろう。……知名度は低いようだが。


王の急変の少し前。このフォートレス大臣というのが、病床に伏した事が有ったらしい。

それ以降、このフォートレス大臣は軍事へと金を回し、更にソレまでそれ程力を入れなかった国営大会にもかなりの大金をつぎ込んだとか。


このさり気無い変化というのが、物凄く臭ったのだ。

ソレまでの行動が何かしらの変化を示した場合、其処には必ず何かの要因がある筈。

執事服着て屋敷に忍び込んだり、口コミ屋……所謂情報屋から聞き出したりして探ってみたところ、大臣の変化はコレといった切っ掛けも見当たらず。

思いっきり臭っていた。これは間違いないだろうとして、大臣を事の中枢として考えをめぐらせてみた。


大臣は、代々この国に使えてきた家系であり、忠誠も篤く、けっして謀反を企てたりするような家系ではない。

だとすれば、偽者説が最も有効だと考えて。


次に偽者説の場合、人間説と魔物説が浮かぶ。

人間でも、魔術呪術、暗示の類を用いれば、王を骨抜きにして操る事など容易かろう。

魔物にしても同じ。街中の瘴気を見ると、こちらのほうが可能性的には高そうにも思える。


「とまぁ、此処までは頭の中で考えてた事ね」

「此処まで……とは、続きがあるんですか?」

「体験談が」


で、ソレに基づいて考えると、偽者がいる場合は何処かに必ず本物が幽閉されている筈だった。

入れ替わり、という事をすると、必ず情報に誤差が生ずる。

その誤差を軽減するためには、情報源たるオリジナルを傍に置き、適時必要な情報を引き出す、などの手を残しておく必要がある。


「そういう判断から、城の所々を調べてみたわけだ」

「成程のぅ」


その結果、城の地下に巨大な空洞を見つけた。

その地下空間……地下監獄なんて悪趣味なものを見つけ出し、其処の探査に踏み切ったところ、先に調査に訪れていた騎士と、それを迎え撃つ魔族とであった、という所だ。


「城を徘徊していたときに聞いたんだけど、兵士の間では地下のオバケ、なんて噂話が蔓延してたみたいだ。多分、魔族側が誘いをかけてたんだろうね」

「誘い?」

「大臣が偽者、という事は隠しておきたいのではないのか?」

「今は大臣が偽者、っていう前提で話してるけどね。他の人間は、さっきの二人みたいに、偽者は王様で、本物は何処かに居るんじゃないか、って考えてる」

「「ああ」」


つまり、本物の王様を探しに来た騎士を、待ち構えていた魔族が討ち取る。

行方不明者が出た城には、少しずつ不信感や疑心暗鬼が充満していく。そうなれば、瘴気の温床となるのは容易い。

王を探しに入って行方不明。そうなれば王への不審も高まり、大臣の些細な変化へ注視する人間は更に減る。


「で、此処までで立てた予想が三段階ある。一つ、王が大会を見に来た各国の重鎮を皆殺しにして、全国に宣戦布告をかける」

「……っ、確かにあの場所には偉い人がいっぱい居ます!」

「出入り口も城からの一本のみ……防備は固いが、懐へ入り込まれれば……逃れられまい」


コレが恐れるべき第一弾。

コレを恐れたからこそ、リネアをベリアにつけたのだ。

まぁ、パフォーマンスである以上、中途半端な場ではするまい。するなら、より人の注目の集まる表彰式の場なんかだろう。


「次が、王が討たれるパターン。今回は勇者も参加者に紛れ込んでいる事だし、その可能性も無くは無い。この場合、王が死んだとして、偽者の大臣が堂々と政治を牛耳る可能性がある」


相手が人間だった場合ならまぁ別に如何でも良いのだが、残念ながら事は魔族が仕組んだ事のようだ。最悪、人間同士の戦争に発展させ、その横から魔族が攻め込んでくる、なんてパターンもありえる。


「で、最後。多分、全部が失敗した場合の保険なんだろうとは思うけど、手動発火式の瘴気の爆弾」

「……あっ?!」

「――つまり、ここぞというときに瘴気を一気に発現させ、耐性の無い民衆を狂気に落しいれ、国を堕とす……と?」


頷く。

この国に蔓延する瘴気、属性が闇よりの者にしか把握する事ができず、更に術式化されて現状ではその効果を最低限に抑えられている。

――この瘴気に長時間晒されている民衆が、その視に蓄えた瘴気を一気に開放されてしまえば。

全ての人々が正気を失い、この国は自ずと滅びるだろう。


「瘴気は毒素だ。今、無害なままでも蓄積してる。ソレが一気に開放されたら……」

「――多くの人間が死ぬじゃろうな」

「最悪、それだけでは済まないかもしれません」


経済大国であるこの国が堕ちれば、他の国への物流も自ずと落ちる。

この国はそういった物流の中心地でも有るのだ。


「……なんて手の込んだ布陣」

「綿密じゃのう。コレが魔族の手とは……」

「――案外、魔王の侵略だったりしてな」


不意に、何となくそんな事を思って。

呟いた途端に、二人の気配が凍りついた。


「……それは、最悪のパターンじゃの」

「……搦め手の魔王ですか」

「今まで搦め手、って言うのは無かったのか?」

「ええ。大抵は力押しでした」


魔物という存在は、その性質上圧倒的に人間を上回るスペックを持っている。

である以上、下手な搦め手より力で押した方が確実と取られているのだろう。

知略、などといっても、精々戦場で布陣を組んでくる、程度だったのだそうだ。


「と成れば……怖いな。見えないところから侵略は始まってる、ってか」

「……然しのう。主殿よ。だとすれば、事はカノンだけでは済まぬかも知れぬぞ」


唸っていると、リネアにそんな事を言われて。

それで俺も思い至る。


「……? どういう事です?」

「――こういうのは、何処か一部だけで事を成すより、全体に仕掛けて、一気に崩した方が効率が良いんだよ」


つまり、俺が知る主なところで、ウェストリー、カノン、エネスクなんかの国々の中枢が、同時に麻痺し、更に国がパニックになったとする。

そんな正体不明のパニックの中、敵の草……潜入部隊が、「敵は○○国だ」なんて煽れば。

正体不明の不安に陥った民衆は、具体的な敵を示され、煽られるままに仮想敵へと攻め入るだろう。


そうなれば最後。協力体制を崩され、人間同士で国力を削り弱体化した国々は、その隙を魔物魔族に突かれ、人類滅亡エンドへと至るわけだ。


「……最悪ですね」

「ああ。敵ながら見事な布陣だ」

「ソレを読む主殿も中々じゃと思うがの」


それはまぁ、推理物の小説を読んでたりすれば。

……まぁ、深読みしすぎな感じがしなくも無いのだけれど。用心という事にしておこうか。


「で、物は相談なんだけれども」


全ての種を明かし終えて、最後に解答編へと結ぶため。


「一発逆転のタイミング、一緒に考えて欲しいんだ」


最後のツメを、二人へ相談するのだった。




森博嗣先生は天才だと思う。愛読者です。

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