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036 - 地下に潜む。

トーナメントへ進む事は何とか出来た。

と成れば次は空いた時間を使っての城の探査。

旅人装備で隠密性を高めて、今度は先程の探索で見つけ出しておいた地下への出入り口へと侵入を試みる。


埃とか蜘蛛の巣とかが凄まじい地下通路。それらを闇で全て吹き飛ばして。

ゆっくりと左折する螺旋階段を下りて、漸く広いところへとたどり着く。


「……ほぉ、やっぱりこういう所が監獄なのは、お約束なのかな?」


立ち並ぶのは、土を掘って作られた部屋と、通路とを区切る朽ちた鉄の格子。

所謂、忘れ去られた地下牢という奴だろうか。


凄まじい臭気と瘴気に満ちたその空間。

牢屋――という性質上、怨念とか妄執とかが色々こべり憑いているのだろうが……。

なんともいえぬ空気に眉をひそめつつ、周囲へ向かって更に闇を広げる。


多分この辺りにいると思うのだけれども……。


思っている間に、闇が何かを感知した。

これは……音?


ガキィンッ、と鳴り響くのは鉄のぶつかる音だろうか。

大慌てでそちらへ向かって走り寄る。


「ぐ、ふっ……」

「アハハハハハハハハ!!! たかが人間が、惜しかったなぁ!!」


ワォ。なんだか奇妙な現場に遭遇した。

視線の先に映るのは、土壁にめり込む鎧姿の人物と、その人物に爪を向ける人外の姿。

言葉を話すという事は……魔族か?

足元に転がる小石を拾い上げ、魔力を籠めて投げつける。


「……っ、何だっ!?」

「さて、通りすがりの旅人さんですよ」

「人間!? ――人間風情が、俺の邪魔をするなああ!!!」


爪がひらめく。それを半身でかわし、腹の辺りを狙って肘を打ち込む。

後退ったソレの腹に、今度はより意識して魔力を練りこんだ正拳突きを一撃。


「グボアアッ!!??」


悲鳴を上げて倒れ付すソレ。毛むくじゃらで、やはり魔物っぽい。


「殺しといたほうが安全なんだろうけど……まぁ、情報引き出せるかもしれないしな」


とりあえず魔術で拘束し、先に倒れている鎧さんへと駆け寄る。


「大丈夫ですか?」

「……ぅ、キミ……は?」

「通りすがりの旅人です。クライアントはいえませんが、この城の現状に違和感を持った人物の依頼で調査してたんです」


まぁ、内容は少し違うが。誤魔化し含めて説明する。

と、その言葉に納得してくれたのか、鎧の人は辛そうに息を吐いた。

先に回復魔術を掛けたほうが良いだろう。右手を鎧の人に向ける。


「……っ、すまない。私はカノン王国騎士団所属、ルーベンス・インガットだ。ルーベンスで結構」

「イーサンです。……騎士様がこんな所に? 目的を伺っても?」

「ああ。カノン王の異変は知っているだろう。それで、もしや偽者と入れ替わっているのではと思い、ならば本物の王を幽閉している場所がある筈だと……」

「で、来てみればこの魔族……が、居たと」


頷くルーベンスさん。


「どうやら、此処は囮だったらしい。……成程。地下牢の噂は、確かに最近のものだ」

「あー、なる」


部外者である俺には伝わらなかった、城の中でのみ伝わる噂の類があったのだろう。

ソレを頼りに探索に乗り出してみれば、それ自体がトラップだった……と。


「そうだ。……しかし、罠だという事を考えると、やはり王は……っ、危ない!?」


言葉半ばで、不意にルーベンスさんが声を上げる。

背後、其処に佇むのは、その爪を掲げた巨大な影。


「クハハハハ!! 貴様の魔術なぞ……」

「……ふん」


勿論、そんな事は既に把握している。

この闇は、既に俺の領域なのだから。


「―――なっ、グガアアアアアアッ!?」


闇がその毛むくじゃらを串刺しにする。

手、腕、二の腕、肩、上半身、下半身、太股、上腿、下腿。

全てに均等に突き刺さった闇の棘は、完全に魔物の動きを封じていて。


「バ、バカナアアア!!! 何故、何故人間が闇をオオオオ!!???」

「さて。質問に答えて貰おうか。そうすれば最低限、楽にはしてやるが?」


言いつつ、毛むくじゃらを壁際へと動かす。

何分獣臭やら腐臭がきつい。俺はこの臭い結構苦手なのだ。


「……っ、貴様っ、王は、王は何処にいる!!」


俺が尋問に入ったのを確認してか、背後からルーベンスさんがそんな声を上げる。


「グハハハハ……お前らの王は、王座に座ってるじゃないか……」

「貴様っ、戯言をっ!!」

「いやいや、多分本当の事ですよ」

「何っ!?」


俺が魔族をフォローするような言葉を入れたからだろう。

ルーベンスさんは物凄い形相で此方を睨んできて。


「俺がお前に問いたいのは一つ。何の、何処だ?」


言って、魔物を睨みつける。

此処で無かった時点で大体予想はついているのだが、一応の確認の意味を籠めて。


「……ギ、ギザマ……」

「ほれ、正直に吐け。どうせお前、俺に捕まった時点で呪詛が発動してるんだ。もう助からないんだし、せめてヒントぐらい残して逝け」

「じゅ、呪詛……?」

「気付いてなかったのか? お前、制約の呪詛が掛けられてたよ。組織でよくある、情報漏洩対策ってやつだな」


言っている間に、毛むくじゃらの胸元が赤く発光しだす。

高まる魔力は小さなものだが、その術式は複雑怪奇。短時間で解呪出来るような代物でもないだろう。


「そ、そんな、まさか……親方様アアアアアアアアアア!!!!!!」


パチュンッ、と心臓が弾けて絶命する毛むくじゃら。

ちょっと哀れだが、知ったこっちゃ無いので無視。


「……キミは、何者だ。何を知って此処に居る」


と、気付けば背後から剣を突き付けられていた。

ルーベンスさんか。折角助けてあげたのに失礼な。


「……まぁ、ソレは後々説明してあげますよ。とりあえず、此処を出ません?」


言って、歩き出す。

暗いのは見えるから別に平気なのだが、この雰囲気だけは好きになれない。


「あ、ちょ、待ってくれ!!」


背後には、黙々と歩き出した俺の背を慌てて追いかけるルーベンスさんの気配があった。

まぁ、暗いしな。精々彼が躓いてこけない事を祈ってあげよう。

……助ける? 剣突き付けられたし知らん。


「おぶあっ!?」


躓いたらしい。はっ、ざまぁ。


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