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034 - カノン王国闘技大会、当日。

「そんじゃぁな、真っ黒なの!」

「マッチョなアンタも元気で」


なんとかカノンまで帰還できた。虹の雫も確保できたし、万々歳だ。

依頼書にサインを貰い、報酬の銀貨を一枚貰って、そのまま王都へと足を踏み入れて。


「それじゃ、ランド。お前も気をつけて。虹の雫は此処に吊るしておくからな」

「ガウ!」

「――いざとなれば、お前一人でも逃げろよ。お前は賢いから心配ないとは思うけど」

「ガウッ」

「嫌って? ……わかった。そうならないよう頑張るよ。全く。お前は賢いなぁ」


到着したギルドにランドを預ける。

ランドの首には、小さな樽……遭難救助犬に付けられるようなやつ……を持たせ、その中に虹の雫を注いでおく。

いざと言うとき、コイツは賢いし、自分の判断でそれを使えるだろう。


「………とりあえず、一回かぶっておくか?」

「ガウ」


軽くランドに雫をまぶしておく。ついでに俺にも。

いわゆる聖水というか、この虹の雫をかぶっておけば、早々容易く瘴気……ひいては、邪悪なモノに犯されることは無い。

今は警戒して、予防のために少し虹の雫を浴びておいたのだ。


甘く見ていたかもしれない。

――正直、おかしな事態になっている。

王都に入った時点から感じていたのだが、この王都は既にかなりの規模で汚染が進んでいる。

出立前は、少なくとも一般人への瘴気汚染はそれ程酷くなかった筈だ。

事は既に始まっていた、という事か。


ランドに別れを告げて、街の中へと足を踏み出す。

そろそろ大会の開催という事もあってか、人気は少し前よりも圧倒的に増えている。

露天の数も、其処に集う人々の数も段違いだ。

……そして、汚染されている人の数も。


正直、見ているだけでも気分が悪くなってくる。

よくこの中に居て正気を保っていられるものだと、周囲の人間に感心しつつ。

なるべく足早に、宿へ向かって足を進めた。


「…………」


だんだんと頭が痛くなってくる。

今の街の状況は、まるで斑だ。人の波が、斑模様に瘴気に犯されている。

それなのに人々はにこやかに、明るく会話しているのだから、そのギャップを視認してしまう俺としては狂気の沙汰以外のなんでもない。

ゾンビが笑いながらスキップする光景を見ている気分だ。


「……ただいま」

「あ、ヤマトさん! お帰りなさい!!」

「主殿か。件の品は手に入れられたかの」

「ああ。しっかり手に入れてきた」


たどり着いた宿屋の一階。食堂になっている其処の一角、ベリアたちに迎え入れられ、そのまま椅子にどっしりと沈み込む。


「汚染……酷いな」

「うむ。妾の予想を遥かに上回る侵食率じゃ。普通、あの手のものは日の光で浄化される筈なのじゃが……」


言いつつ、俺に飛び移ってきたリネア。

久しぶりに右肩に感じる重みに、なんだか少し安心した。


「二人は……問題ないみたいだな」

「私はリネアさんが守ってくれてたんですよ」

「妾がついておったのじゃ。ベリアに低俗な害なぞ憑かせるものか」


成程と頷く。

リネアは魔術に関してかなりの知識を持っている。

魔力の供給環境さえあれば、大抵のことは出来る、とは彼女の言だ。


「簡単な呪いじゃが、それで瘴気から身を守る事もできるのじゃ」

「成程」


魔術っていうのはやっぱり奥が深いらしい。

フンッ、と胸を張ってみせるリネア。嗚呼、可愛い。


「さて、それはともかく。ベリアの方は何か収穫あったか?」

「収穫……そうですね、今回のカノンの大会なんですけど、例年のものとは少し規模が違うようなんです」

「ほぅ」


統計というのは確実ではない。しかし、そこに何らかの例が示されているのも事実。

今までとは違う、という事は、何かしらの差異があるという事に他ならない。


「具体的には?」

「今回、大臣が積極的に大会を支援しているようですね。この大臣、昔からこの大会に関しては否定的だったんですが、どういう訳か今回は強力にプッシュしてるみたいで」

「他に差異はあった?」

「後はカノン王の様子が少し変だ、と言う話がありました」


なんでも、以前の温厚な様子から、粗相をした下人を簡単に……文字通り斬り捨てるような鬼畜に変貌しているのだとか。

うーん、汚染が進んでいるのか。それとも単に駄目駄目な国なのか。


「妾が実際、ベリアについて確認して来たのじゃが、大臣のほうは少し不審な気配があって、王の方は何じゃろうか……偽装されて居るような気配じゃったの」

「偽装の気配……ね」


なんというか。うん。陰謀の気配がプンプンする。

正直、そういうところに関わる心算は無かったのだけれども。


「妾としてはカノン王が一番怪しく感じるのう」

「ですね。昔のカノン王はもっと善人でした」


言うベリアとリネア。

……でもねぇ。俺としては、そんな陰謀戦を仕掛けてくる相手が、そんな分り易い構図を用意するだろうか。

寧ろ俺なら……。


「これは、早急に行動を開始する必要がありそうだな」


言って、微笑む。

なんというか。何処か、わくわくしている自分が其処にあることに自分で驚きつつ。

小さく笑って、明日に思いを馳せて。


「……っと、そうだ。とりあえず二人とも。虹の雫で予防はしておこうか」

「そうじゃの。妾が幾ら万全とはいえ、所詮は意志によるもの。どこかに穴は出来よう」

「それじゃ……えいっ」


ベリアの差し出した手に、虹の雫を注いでやる。

その虹色の水を、ぱしゃりと浴びるベリア。リネアには俺から直接浴びせてやった。


……なんだろう。

水も滴る良い乙女が二人。正直、かなり可憐だった。






そうして、大会当日。

その日は良く晴れた日で、まさに晴天と呼べる空は見事なものだった。

……その割、大地は瘴気に汚染されていたけれども。


『老若男女の皆さん、本日はカノン国際競技上へお越し頂き、真に有難う御座います!!! これより、カノン王国闘技大会、開会式を執り行います!!』


魔法で増幅された声が響いた。

カノン王国中央、王城の一部に面した土地に築かれた、巨大なグラウンド。

その中心に設営された四角い舞台の上で声をあげる司会に、四方から盛大な歓声が上がった。


「やれやれ、ついに始まるわけか」

「準備は万全であろう? 後は、事をいかに素早くこなすかと言う問題じゃの」


言われて頷く。

茶色いコートとサングラスの旅人装備で開会式を眺めながら、首筋に寄り添うリネアと言葉を交わして。


「主殿は、出場の準備はせずとも良いのか?」

「大丈夫。まだ開幕まで少し時間があるからね。その間に、城の中の探索をやっておかないと。……リネア。お前はベリアのところに居てくれるか?」


問題が起こるとすれば、それは真っ先にベリアの居る上座で起こるだろう。

そうなった場合、対処できる味方が……リネア居れば心強い。


「あいわかった。しかし、主殿は何処へ……」

「ふふん。俺の予想が正しければ、多分地下か上層居住区へ忍び込む事になるかな」

「……程々にの」


言われて、苦笑しながら頷く。

リネアにそんな風に窘められるほど、今の俺は調子に乗っているのかな?

まぁ、テンションがあがっているのは否定できないけれども。


『さて、今回はウェストリーから新たな勇者様においでいただいております!!』


そんな最中、ワーっと湧き上がる完成。

……晃来たのか。しかも何だか滅茶苦茶目立っているようだし……。


「――――ゴフッ!?」


司会の声にあわせて壇上へ視線をやって、思わず咽る。

心配そうに手をやってくるリネアを制して、もう一度其処を確認して。


「……増えてる……」


壇上に座る晃。その装備は、白い鎧と立派な拵えの剣を纏ったものだった。確か、聖騎士の装備……だったかな? 精霊の加護を受けているとかなんとか。

問題は、その周囲。


先ず向かって右側に座るのは巫女さん……ウェストリーの王女である……えーっと、アリア・ウェストリー。その右側に居るのは、実は護衛騎士なのです! っていうメイドさん(知り合い)。更に背後に居るのは……なんだろう。魔術師っぽいが、ローブは黒ではなく白。どちらかと言えば神聖なイメージがある女性がいて。その隣には……なんだろうかアレは。獣耳をピクピク動かしている美女が一人。


「……なぁ、リネア。アレは何?」

「亜人族じゃの。連中は基本的に人より高い身体能力を持って居るのじゃが……然し、主殿のご友人は余程の色好みなのかや」

「…………………………」


頭を抱える。

いや、駄目だろう。あの馬鹿。

観客スタンドの気配をみてもわかる。声を上げているのは殆ど女性で、しかもそれは所謂黄色い悲鳴というやつだ。あいつ凄い美形だしなぁ。

で、対する男性陣の反応は……一部、変な悲鳴を上げている連中も居るが、その殆どは面白く無さそうにしている。


「――凄まじいのう。アレの放つ色香だか光だかが、周囲の瘴気を完全に駆逐しておるわ」

「……ま、まぁ、アレは放置の方向で」


呆れたようなリネアの声にそう返しつつ。

移動手段の相談なんかして、早々に行動を開始するのだった。



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