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EX00 - 勇者様の日々。

「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

「ハアアアアアアアアア!!!!!」


ギャッ!!

火花を散して剣と剣がぶつかり合う。

鍔迫り合いをさせる事はせず、弾かれるに従って距離を開く。


「風は集い鎚と成りて!!」

「光よ!!」


右手を掲げて、目覚めた力を声に乗せて放つ。

放たれた光は、不可視の風とぶつかり、無害な風圧にまで拡散させる。


「――っ!?」


慌ててその場から飛び退く。

直後に地面が爆発。――違う。相手の剣が地面を抉り取ったのだ。


「おおおおおおお!!!!!」

「――っ、チィッ!!」


迫り来る剣。此方の退避運動に合わせた追撃。こんな体勢で力ある打撃を喰らっては、耐えようなんて無い。


剣で地面を叩いて、無理やりに飛び退く軌道を変える。


「!?」


相手は追撃しきれない。そりゃそうだ。こんな動き、無茶にも程がある。本来なら、こんな無茶な動きはしないのが正しい。けど、そんな事は言ってられなかった。

着地と同時に膝を曲げ、即座に相手の側面へと突きを放つ。


「せあああっ!!」

「オオオオッ!!!」


然し、それと同時に相手側も此方の位置に向かって剣を振り放ってきた。

視界には捉えられていないはずだが、それでもこの剣の軌道なら俺に当たる。


不味い。そう思った所で。


「其処まで!!」


そんな声が、訓練所に響いたのだった。






「お疲れ様です、アキラ様」

「うん、有難うアリア」


アリアに渡された手ぬぐいで額の汗を拭きながらお礼を言う。

ウェストリーの王宮。その一角に用意された、騎士達の訓練所。そこでの訓練は、中々にハードな代物だった。


「矢張り勇者様は筋が良い。何か武術でも収めておいでで?」

「ええ、一応少しだけ」


さっきまで俺の訓練の相手をしてくれていた騎士……クリストファー……なんちゃら。駄目だ。思い出せない。まぁ、要するにクリスさんが、そんな風に尋ねてきて。


「ほぅ、どのような技を?」

「いえ、態々語るほどのものでもないんで」


言って、誤魔化す。なんだかこの御仁、機会があれば俺の事を探ろうとしてくるので、警戒している。大和も気をつけるよう言ってたし。


俺が扱う武術。……それはまぁ、言ってしまえば剣術だ。けれども、此処でそんな事はいえない。


「……そうですか。まぁ、もう暫く訓練を続ければ、この城でも筆頭の剣士になれますよ」

「あはは。ではそれを目指せるよう、ご指導お願いします」

「ええ、喜んで。勇者様の指導が出来るなどと、光栄の極みです」


言うクリスさん。なんだか皮肉はいってるなぁ。

俺の剣術とは、まぁ日本ならではの剣術だ。つまり、刀を武器とした剣術なのだ。

けれども、此方の世界で俺が使うのはもっぱら西洋刀。形が違えば扱いも変わるわけで。

俺としては刀の扱いに慣れすぎてしまっている所為で、どうしても剣に対する違和感がぬぐえずに居た。

そんな説明をするのも面倒だし、剣術を扱う割には……なんて言われるのも癪だし。


「アキラ様。そろそろ行きましょうか」

「え、ああ。うん。それじゃ騎士クリス。さようなら」

「ええ、さようなら勇者様」


言って、クリスさんに見送られて訓練所を後にする。

訓練所から少し行って、城の廊下に入った途端。がばっと腕に何かがしがみついて……ってまぁ、アリア以外に居ないんだけど。


「……アリア」

「だって、早くアキラ様にくっつきたかったんですもの……」


少し攻めるような口調の俺に、アリアは拗ねた様な、可愛らしい顔で此方を見上げてくる。


「でもね、キミはお姫様でしょ? こんな所でそんなのはどうかと思うよ?」

「……大丈夫よ。この辺り、この時間なら人は滅多に通らないから」


そんな情報要らないよ……。

なんて思いつつ、アリアの顔を眺める。と、その顔に何処か何時もと違った色が見えて。


「最近アキラ様、メイド達から色々アプローチ受けてるじゃないですか」

「……?」

「それで私、アキラ様が取られちゃうんじゃないかって……」


メイドさん……あぁ、キキちゃんのことかな?

この間ちょっと廊下に紅茶を零したところを、俺の光の練習ついでに浄化してみたときに縁のできた、可愛らしいメイドさんだ。

ついこの間も、言葉の勉強中に差し入れを持ってきてくれたりと、ありがたい存在なのだけれども。


「あー、いや、その……」

「……いいんです。アキラ様は私のことをなんとも思っていないのはわかっています。けれども私は、アキラ様をお慕いしているんです……」


なんていって、アリアは俺の腕を放してしまう。

……そんな言い方をされては、ねぇ。


「俺は、アリアの事、大事な子だと想ってるよ?」

「あ、アキラ様……」


なんといっても、アリアはこの国の王女様で、俺の身元引受人であり、俺に魔術を教えてくれるお師匠でありと、何かと俺を助けてくれる少女だ。

いわば家族のようなものではないだろうか。

言って、アリアの手を取ると、白くて小さい可愛らしい手が、ほんの少し赤らんで。


「アリアは、俺をよんだろ? 俺を召喚して、俺にこの世界を教えてくれた。右も左もわからない俺を、アリアは手をとって導いてくれたじゃないか」

「アキラ様……」

「アリアは如何でもいい子じゃない。少なくとも、俺にとっては大切な子だよ」


言って、アリアの手を握る。

と、見る見るアリアの顔が真っ赤に染まって言って。……って、あー、もしかして俺、またやらかしたか?


「アキラ様……」


真っ赤になったアリアは、何処か蠱惑的な瞳でこちらを見ていて。

……うぅ、ヤバイヤバイ!!


「ほ、ほらアリア。次は魔術の勉強だよね。アリアが指導してくれるんだろう?」

「……はい。それではお部屋へ参りましょうか」


言って、アリアは俺の手を握ったままずんずんと歩き出す。

……あー、ナンだろう。少し身の危険を感じるんだけど。


「……アリア?」

「ダイジョウブです。バンジ問題アリまセン」


何処が問題ないのか、非情に気になるのだけれども。

……まぁ、面倒だし、アリアに任せておけば良いかな。

なんて、気楽に考えているのだった。






大和がウェストリーから消えて、既に一週間が過ぎた。

最初はアリアが、国の諜報機関に足取りを辿らせる事ができる、とも言っていたのだけれど。

どうやらあいつ、念入りに下準備していたらしく、城を出た途端にぷっつりと足取りが途切れていたのだとか。

まぁ、あいつの事だ。何処かでよろしくやっているのだろうけど。


「それではアキラさま、何か御用がありましたらすぐにお呼び下さいね〜」

「うん、有難うリーアさん」

「なんでしたらシモのお世話も……キャッ♪」

「ブッ―――!!」


笑いながらスキップして立ち去っていくメイドさん。

好意を向けてくれるのは嬉しいのだけれども、ああして明け透けなのは少しいただけない。

もう少しつつしみを持って欲しいと思うのは贅沢だろうか。


「……はぁ」


学校に通う日々。あの頃は、問題沙汰が起きた場合、その大半を大和が引き受けて、俺はその数割程度を引き受ければ済んでいた。

けれども今現在。問題は全て俺で解決しなければいけない。


有難い有難いとは思っていたけれど、居なくなって尚更ありがたみが身にしみる。

……本当に。旅に出るのなら、俺も連れて行ってくれればよかったのに。


まぁ、取り敢えずは俺も、旅に出発する事になったのだけれども。


カノン王立武闘大会。

カノン、と呼ばれる、ウェストリーの隣国で行われる問答無用のバトル大会だそうだ。

剣、槍、弓、魔術、なんでもありの盛大なお祭りなのだとか。


レベルも上がり、良い力試しの場だという事で、クリスさんの勧めでその大会に俺も参加することとなったのだ。

……何となく城の雰囲気もきな臭くなってきているし、丁度良い。


……それに、だ。

なんとなく、大和もそっちに居るような気がする。

能力に目覚めてから得た、勇者の勘、みたいなものなのだけれども。

でも……。


「あいつの行く先って、大体トラブルが発生するからなぁ……」


あいつは俺の所為にしてるけど、あいつだって立派なトラブル招来体質。……いや、この場合、引き寄せられたトラブルが俺なのかな?

まぁ、どっちにしろ。

あいつが行く先には、何らかの波乱が待ち受けているのは間違いないのだ。


「………………」


会いたさ七割、居て欲しく無さ三割。

逢えばあいつは困った事があれば助けてくれるだろう。けれども、あいつの周りに居ると結構な確率で困った事が起こる。

複雑な気持ちで、窓から空の星を眺めるのだった。


表現力不足でなんだか今一。

そのうち改訂したいです。



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