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030 - 少女達の同盟

朝眼が覚めて、簡単に身の回りを整えて。

買ったばかりのサングラスを装備し、一階の食堂で朝食をとる。

この辺りは生産も安定しているらしく、値段の割には良い食事にありつけた。


「然し、何じゃろうのう」

「うん。不気味だ」


食事を取りながら、デフォルメで実体化したリネアと会話を交わす。

話題は主に、この国に到着してから薄らと感じる気配に関してだ。


「やっぱり、害意だとは思うんだけど……こんなの、人間に出来る事なのか?」

「此処までの負の念というと、それこそ革命でも起こらぬ限りは……」


初日は違和感に気付かなかった。けれども、此処に一泊する間に、漸く感知できた、とても良く隠蔽された、危険な気配。


「魔物……かの」

「その割にはこの町平和だぞ? ……って、もしかして、化けて紛れ込んでる?」

「と、成れば確実に組織立って動いておろうな。単騎でこれ程と成れば、それこそ魔王級でもなければ」

「魔王……って、やっぱり狙いは大会なんだろうか」

「謀略系の魔王、というのも嘗てには居た。絶対とは言わぬが、心したほうが良かろう」


いわれて頷く。

カノンの大会には、各国の重鎮が集まるという。

それを狙うというのは、確かに理にかなっている。


「……んじゃ、後でベリアにも教えておかないとな」

「やはり主殿はあの娘を気に入っておるようじゃの」

「ま、な。異性なら、ベリアとお前がダントツで気に入ってる。同性ならランドだな。性別知らない上に人間じゃないけど」

「……勇者は如何なのじゃ?」


あ、“気に入ってる”のくだりで、ちょっとてれてる。やべぇ、可愛い。


「……主殿」

「ん? 晃のことか? あいつはまぁ、腐れ縁と言うか、ハーレム野郎逝って良しというか、正直幼馴染じゃなければ穴に埋めてると言うか。嫌いじゃないけどな」

「複雑なんじゃのう」


肩をすくめて、再び食事に戻る。

干し葡萄を食べるデフォルメ少女と言うのも、中々に可愛らしかった。





朝の僅かな時間を、書店で購入した書を読むことで潰して、漸く昼になる。

鎧を着込んで城の前まで行くと、既にベリアが立っていた。

しかも……なんだろう。儀礼用のような綺麗な軽装の鎧を身に纏った格好で。


「おはよ」

「あ、ヤマトさん! おはよう御座います!」


……まぁ、周囲には誰も居ないし。それほど大きな声でもなかったので問題は無いだろう。

取り敢えずベリアをつれて、街の中へ。

適当な店に入って、そこで食事を頼んで席に座る。


「はい、コレが報酬の銀貨二十枚です」

「ん。確かに」


確認して、それを懐から闇へと仕舞う。


「因みに聞くけど、その格好は?」

「私の戦闘服です。礼装ではないんですけど、国で外出するときはよくこの格好で出歩いてたんです。この格好なら、なんとか冒険者扱いしてもらえるので」


言われて、成程と納得する。

この上質な皮の鎧は弓兵用なのか軽そうだし、女の子でも十分装備できそうだ。確かにこの格好なら、十分冒険者として通用するだろう。


冒険者であれば、町のごろつき程度なら手を出そうとはしないだろうし……。事実、彼女の防御力だって底上げされている。

ははぁ、案外合理的なのか。


「……ねぇ、ヤマトさん」

「ん?」

「マルさんに聞いたんですけど、私の護送に掛かる代金が、本当に切り詰めて、大体銀貨二十枚くらいって聞いたんですけど」


言われて、ベリアへと視線を戻す。


「まぁ、そのくらいだな」

「それって、ヤマトさんの儲け在りませんよね?」

「まぁ、ボランティアだし。儲けなんて貰ったって仕方ないだろう?」


そもそも、二人分の食費、宿代、衣類の類、馬車、冒険者の雇用費、諸々あわせれば、センタの村から此処まで大体そのくらいだ。

一応、馬車馬がランドだけでも大丈夫だったりしたのでいくらか節約は出来たのだけれども。


「その……有難う御座います」

「ん。俺は自分のやりたい事をやっただけだよ」


言って、手を振る。

やりたい事をやるというのは、俺の基本理念だ。

勿論倫理はある。常識だってある。けれども、最終的に俺は、自分の望む所をする。

最低、ルールは守って。駄目ならば破ってでも。

ようするに、俺は自分勝手なだけだ。


「で、自分勝手に気に入った子を助けただけの話だよ」

「それでも。感謝してます」

「なら助けた甲斐があったよ」


なんて言い合いながら、運ばれてきた食事に手をつけるのだった。






「ベリア。お前にも紹介しておくよ。……リネア」


言って、右腕の腕輪を軽く撫でる。

と、俺の魔力を食って、小さな光が終結、其処に小さな少女の像を結んだ。


「ん……呼んだかの、主殿」

「ああ。ベリアに紹介をな。……ベリア、彼女はリネア。この腕輪に憑いてる精霊みたいなもので、俺の相方でもある」


言って、ベリアにリネアを見せる。

リネアも把握してくれたようで、小さく頭を下げて見せた。


「精霊種……!? いえ、人工精霊の類ですか。そういえば勇者に授けられる力を揺すぶる道具というのは……成程。はじめまして。私はアベリア・ラブセット・ダリア・エネスク。長いのでベリアでお願いします」

「妾はリネア。主殿から頂いた名じゃ。此方こそ、宜しく頼む」


なんだか驚いたようなベリアだったが、そういってリネアに頭を下げた。

……なんだろう。実寸代の小柄な少女が、デフォルメされたミニマムな少女と頭を下げあうという奇妙な光景。


まぁ、取り敢えずの挨拶は良いとして、早々に本題に入ろう。


「この国の雰囲気が怪しい?」

「ああ。俺もリネアも、この国に変な気配を感じてる」


言って、先程俺達が考えていた話をベリアにも語って聞かせた。


「この国の気配、何処か闇のにおいがする故、人のものとは思えぬのじゃ。こんな気配を撒き散らせる人間など、それこそ主殿以外には居るまいて」

「……なんだかそう言われると、俺が人外みたいに聞こえるんだけど」

「少なくとも、規格外ではあろうて」

「ヤマトさんは強いですもんねー」


だんだんと話がずれていく!

何とか話題を修正しつつ、ベリアに注意を促して。


「ま、少なくとも主殿ではあるまい。主殿の属性は闇ではあるが、邪では無い」

「うん、そういう事だから……」

「わかりました。気をつけておきますね」


そう言って頷いたのを確認した。


一通り話を終えると、次第に話は俺の話題へ。ベリアとリネアが仲良く喋りだしてしまい、なんだか居た堪れない。


「そうなんですよ。ヤマトさん、偶に凄く格好良くて……」

「主殿は女殺しじゃしのう。此度の勇者も女殺しであったと主殿は話されるが、主殿も相当なものじゃと……」

「此処は一つ」

「そうじゃの。我等で手を打って……」


なんだろう。物凄く不穏な話をされているような気がする。

こういう話題は……というか、女の子同士の会話全般、男は関わらない方が良いのだ。聞いていても辛いだけ。口を挟めるわけもなく。

俺が晃から得た数少ない恩恵。女性の応対。

……そもそも、女性の知り合いが少ないんだって。


「うん、それじゃ親睦会をかねて、一緒に甘い物を食べに行きましょう!!」

「甘味か。うむ、妾も嫌いではない」


なんていいつつ、嬉しそうなリネアがチョコンとベリアの頭の上に載った。


「それじゃヤマトさん、リネアさんを少しお借りしますね」

「主殿。行ってくるぞ」

「……ほら、お小遣い上げる。気をつけてな」


言って、銅貨の詰った袋を一つ渡してやる。これだけあれば、お菓子だってたっぷりと買うことが出来るだろう。何分、昨日稼ぎすぎた。


「有難う御座います!」「忝い、主殿」


なんて、美少女二人に笑顔で言われて。

……嬉しくない男なんて居るわけないと思うのだ。うん。

そんな二人の様子に、昨晩感じていた寂しさは既に何処にもなくて。

鎧の中でわらいつつ、元気に駆け出した二人を見送るのだった。


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