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026 - カノンまであと三日。

「へぇ、ウェストリーは勇者を召喚したのか」

「ええ。それも、強大な光の力を使う勇者様だとか」


商人に話を聞きつつ、俺のことは隠匿されたのかと納得する。

まぁ、そりゃそうか。わざわざ面倒事を追いかけるより、晃一人を勇者として祭り上げたほうがよっぽど効率が良い。というか、もう俺を追いかける必要も無い。


「しかもですよ。その勇者様。こんどのカノンの大会に参戦なさるそうです」

「ほう!? 勇者が大会に? ……でも、それって良いのか?」

「ええ。大会の参加に資格は必要ありませんし、多分国のシード枠で来るんじゃないですかね? 枠は二つだし、勇者ともう一人はあそこの騎士……今年なら、騎士クリス辺りが参戦するんじゃないですかね?」


なるほどなるほど。

確かにそれなら、万一勇者が敗れた場合でも、ある程度は騎士が面子を保ってくれる。

それに、晃の参戦は各国へのお披露目と、修練をこなすという二つの意味も取れる。


「成程ねぇ。でも、その情報は確かか?」

「ええ。向こうにいる仲間に、通信用の魔導器で確かめたものなんで」


いうと、商人はそう言ってその情報の正確性をアピールしてきた。


カラジュームを出発して二日。

カノンへと向かう俺達は、魔物の襲撃を受ける馬車の集団と出会った。

逃げても良かったのだが、護衛の皆さん+ベリアは即座に馬車から飛び出し、魔物の迎撃を手助けした。


俺も剣で援護したのだが……まぁ、あんまり役に立たなかった。

なにせ俺の本分は剣じゃないし。


「……うん、情報アリガト。お礼はこのくらいで?」

「ええ、それで結構です。こんな情報、街に入れば幾らでも売ってますしね」


銅貨数枚を渡し、それで商談成立とする。

助けた馬車。ソレは、カノンへと向かう商人のキャラバンで。

折角なので、一緒に行動しないか、という事になったのだ。


人数が増えれば、魔物に襲われる確立も減るし、それに何と言っても冒険者の報酬を折半してくれると言うのだ。一緒しても損は無い所ではない。冒険者の皆様にも確認を取って、キャラバンとの動向を確約したのだ。

いやまぁ、余計な面倒を背負い込む事になるかもしれないが、そうしょっちゅう問題は起きないだろう、というのが俺の希望。


「ま、魔物の大群だぁ!!??」


はい、目論見御破産。キィ―――!!!






つーか、ナンですかこの世界は。ちょっと魔物とのエンカウント率高……いや、治安、ちょっと悪過ぎない?

幾らなんでも、ここまで魔物の襲撃が連続して起こる、っていうのは有る事なのか?

……いや、実際に起こっている以上起こりうるんだろうね。


「アッシュ、ヘイス! 二人とも退け!!」

「何処へ退くって言うんだよ!! これ以上退いたら馬車が!!」

「精霊よ、空の怒りを放ちたまえ!!」


バリバリごろごろピッシャーン!!

剣戟が響き渡り、雷が落ちたり薬品が乱舞したり。

正直戦況は芳しくない。何って、護衛対象が多くなりすぎているわけだ。


「よいしょっとぉ」


馬車の幌にこっそりと闇を編みこみ、幌の強度を鉄以上へ上げる。更に槍……全滅したときに拾った奴……を持ってランドの上へ。その槍と魔術で、馬車に近付いてきた魔物を蹴散らす。

ま、基本的に連中が頑張ってくれているので、そう魔物も近寄ってこないが。


それにしても。

魔物の数が多すぎる。こりゃ確かに、魔王でもいそうな気もしてくるわ。


「くそっ、こいつ等きりが無い……」

「……っ、手持ちの薬品が……キア!?」

「……、だい、じょぶ。まだいける……」

「魔力の消耗が激しすぎる……くそっ!!」


なんだか、結構ピンチっぽいかな?


「ヤマトさん、助けてあげなくて良いんですか?」

「んー? いや、まぁ、……やっぱ助けたほうが良いかね」

「人命は他に変えがたい財産ですよ」


なら仕方ないか、なんて、意味もわからず頷いて。


「ランド。ちょっと馬車の陰に入っておいて。暫く自衛しててくれ」

「ガウ」


言うとランドは、頷くようにして馬車の陰へ。


「それじゃ、俺が先にやるから、その後に続いてくれ」

「了解しました」


言うベリア。その手には、何時の間にかついこの間見たばかりの霊弓ホークアイが。

ベリアはそのまま馬車の上へと駆け上って行く。有利な射撃ポイントを求めての事だろう。


んじゃま、こっちも準備しますか。

闇を使えば早いのだろうが、残念ながら此処には人目が多すぎる。此処はやはり魔術で……。


『主殿、主殿!』


ん、と首をかしげて、耳を澄ますが、周囲に人影は無くて。

気配を探ってみれば、その出所は自分の右腕から。見れば、リネアの腕輪が仄明るく輝いていた。


「リネア?」


その名前を呼んだ途端、腕輪の光がはじけた。


「ようやく喚んでくれれたか、主殿」

「……リネアだよな?」


右肩の上。何処から現れたのか、十数センチ程にデフォルメされた腕輪の精霊……リネアが、そこに姿を現していた。


「でも、お前って夢の中でしかその姿……」

「主殿が名前をくれたであろう。ゆえに力が増し、その効果として顕現能力も得たのじゃ」

「あぁ、そういえば前に言ってたな」


確かそのときは、途中で眠ってしまったのだ。

後々説明するとか言う話だったが、そういえばしてなかったっけ。


「やべ、めっちゃ可愛い……」

「――な、何を言っておるかうつけ!!」


デフォルメされたゴスロリ少女が、俺の肩の上でテレてる。うわぁ。

やばい。ちょっと感動したかも。


「ええい! 主殿、主殿は今魔術を行使しようとしていたのであろう!!」


顔を真っ赤にしたリネアは、耐え切れなくなったらしく強引に話を変えようとしてくる。

もう少し少女の恥ずかしがる姿を楽しんで居たくも感じたが、それをすると冒険者面々が全滅してしまいそうなので後回しに。


「そういえば、他にも能力が付いたとか」

「うむ。今の妾なら、主殿の魔力供給で、主殿の使えない大魔術すらも行使可能となっている。主殿には闇があるが、それが仕えぬ場面では……つまり、今。妾を使っては如何じゃ?」

「それナイス過ぎ!! 早速頼む」

「任せるがよい」


言いつつ、右手を空に掲げて、一気に魔力を流し込む。

広範囲、上級魔術は、大量の魔力を消費する。しかし、俺の魔力はリネア曰く、上級魔術を千発連射してもまだまだ余裕というかなりの大容量を誇る。


その膨大な魔力を、右腕の腕輪に向かって流し込む。


「うむ、これほどの魔力ならば、派手なのでいこうかの」


言葉と共に、リネアの意思が流れ込んでくる。

俺とリネア。只でさえ精神面での接触があった上、名前というパスで結ばれた俺達は既に簡単に意思疎通を成しえる。

言葉に出さずとも、意思の表面上くらいは読み取れるのだ。


「おーい、冒険者の皆さん、危険なんで下がってくださーい!! ってか下がれー!!!」


冒険者連中にむかって大声で注意を呼びかける。

途端、精霊神官の女性の顔が青く染まる。ああ、魔力が把握できるわけか。


「――猛る大気、青き火花、風は乾き、大地は凍え」


瞬間、世界の空気が変わった。


「征くぞ、主殿」

「応。何時でも良いぞ!!」


暴れていた魔力が、一気に整列する。


「爆ぜよ、爆布!!」


カッ、と光が輝いた。瞬間ほとばしる光に思わず眼を閉じて。


「―――散り爆ぜる千刃の矢!!」


同時に背後からそんな声が響いた。






「流石俺(+リネア)とベリア。まさか一瞬とは」


大規模空間攻撃の二重連鎖。幾ら数が居ようと、フィールドの雑魚敵程度が耐えうる威力ではなかった。

まさに必殺。ゲームで例えるならマップ兵器。それも終盤の。


キャラバンの馬車も殆ど無事。損害は殆ど無かった。

リネアはリネアで、大魔術を使って満足したか、即座に腕輪の中へと帰って言った。今度ちゃんとお礼しておこう。


「まぁ、結果よければ全てよし、と」

「ガウ」

「なんですかそれ?」

「俺の国のことわざ」


なんて事を、御者台で俺とベリアとランドの三人で喋りつつ。


なんとなーく、背後の冒険者諸君の視線が痛かったが。

うん、問題なし!


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