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024 - リネア

『それで結局、アベリアが目覚めた後もなんとも言えない雰囲気になってしまった、と』


そう。大体はそんな感じだ。

倒れたベリアを部屋に運び、布団に寝かせ。どうも知恵熱まで出しかけていたので、額に濡れタオルを掛けて。


ベリアがベッドで寝ているその間に、鎧の掃除洗濯修理諸々を済ませて、気付いたときにはそんな空気になっていたのだ。


『ああ、そりゃ主殿、少々女子への配慮がたりぬわ』


というと?


『主殿な、アベリア嬢が気絶して、ベッドに寝かせた後ずっと部屋に居たのであろう?』


ああ。部屋以外で鎧の掃除なんて出来ないし。


『……つまりのう、主殿。例えば主殿は、事故か何かで偶然女子の女体を目視して、その直後に、その女子と正面から向き合って話す事はできるか?』


……………………、………………。……………………………。………………。

………いや、無理だな。


『であろう? ようは、主殿はアベリア嬢に心を落ち着ける時間というのを与えるべきだったのじゃよ。聞いた所、彼奴は初心な娘なのであろう。人一倍そういった時間は要ようて』


……なるほど。そういう事だったのか。

それじゃぁさ、一体どうやれば仲直りできると思う?


『いやな、主殿。それ以前の問題として、何故それを妾に言う』


いや、だってほら。俺は色恋沙汰どころか女子に関わる事自体あんまり無かったし、一体どういうことか全く分らなくて……


『そうではない。いや、相談するのは良かろう。しかし、何故その相手が妾なのだ? 妾は所詮道具。人ならざる物ぞ』


……………、……………。…………。


『あー……、いや、悪かった。今のは失言であったな。謝る故、そう落ち込むでない』


あー、うん。察してくれる辺りありがたい。

寂しいとは言わないが、異世界に一人。相談する相手なんて……な。


『………まぁ、妾も大元は魔女と呼ばれた人間であったもの。世間一般と多少感覚のずれておる所はある。その前提でも、妾の意見を聞くかや?』


是非に。他に頼れる奴なんて居ないし、そもそも俺はお前のこと信頼してる。


『―――。……ふ、ふん。取り敢えずの、主殿は己の裸体を見せたこと、それで雰囲気が悪くなってしまったのが嫌なのであろう?』


ああ。俺はいつもみたいに、元気に話しかけてくれるベリアを気に入ってる。ああして憂いるベリアも可愛い……もとい、珍しいけど、ソレよりは何時も通りの方がいい。


『……突っ込み所は多々在るが。ならば、素直に謝ってしまえ。ソレが主殿の一番すべき事ではないかの』


謝る? 一体何を?

事故だし、俺別に悪い事なんてしてないと思うんだけど……?


『それでもよ。謝らぬ事には始まらぬ。女子とはそういう理不尽な物なのよ』


……良く分らん。


『元の状態に戻りたい。そういう気持ちを込めて謝れば、相手も応えてくれよう』


………ん。分った。

それじゃ、取り敢えず謝ってくる。


『うん。――あ、主殿。少し時間を空けてから、のほうが良いかも知れぬ。葡萄酒の一杯で口を潤してから行くがよかろう』


そうなのか? うん、それじゃそうする。

また後で報告しに来るから。


『いや、別に………こら、最後まで話を……………………』











「で、如何じゃった?」

「おかげで。なんとか仲直りできたよ。ありがとうな」


暗い公園の中、シーソーを漕ぎながら問いかけてきた少女に、俺は感謝の気持ちを込めて頭を下げる。

なにせ、お風呂事件(命名)の後、どうにもおかしくなってしまった空気を解決するためのアドバイスをくれたのは彼女なのだ。


「謝ったら、向こうまで頭を下げてきて、結局謝り合いに成っちゃったけどな」

「ふむ。主殿も彼奴も、割合善良な人間ゆえ、そういう事になりそうではあったがの」

「それに……なんだか、ちょっと酔っ払って要らない事まで言った様な気がする」

「くくく、いや、寧ろ主殿には酔いの勢いがあったほうが良かったのではないか?」

「………あ、お前、それで葡萄酒なんて……」

「くくくくく、しかし、上手く行ったであろう?」


言って少女は愉快そうに笑った。

そんな楽しそうな笑いを見ていると、どうも怒る気も起きず。まぁ、目的は果たせたんだし良いか、なんて気になってしまう。


「しかし、主殿よ。何か、さっきと髪の色が変わっておらぬか?」

「ん、ああ。黒髪黒目は目立つんで、一応染めておいたんだ」


言って、栗色に染まった髪の毛を見せる。


「……そうか。妾は主殿の黒髪は好きじゃったのじゃがのう……」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもあらん。気にするでない」


なんだか少女が呟いたような気もするのだが。タイミング悪く、耳元の髪を弄っていた所為か、声を聞き取る事ができなかった。

……まぁ、それはさておき。


「そんでさ、御礼なんだけど、お前の名前を考えてみた。ほら、いっつも“お前”呼ばわりじゃ何かと不便だろ?」

「……ほう」

「それにさ、ちゃんとお前の名前って言うのも呼びたい」

「……妾に……名を、のう」


少し困惑気味したような様子の少女。

けれどもその困惑には、喜びと期待が混ざっているのを確かに見止めた。


「リネア、っていうのは如何だろうか」

「――リネア……」


その名前を呟いた途端、少女の周りに光が集う。

何事かと思い、腕で目を庇いつつ、なんとか少女のほうを向こうとして。


「………え?」


ギョッとする。

ソレまで其処に居た少女が、何時の間にか少し……いや、大分成長していたのだ。

具体的には、小学五年生くらいから、中学三年生くらいまで。


「な、何事?」

「……うむ。主殿に名を頂いた事で、どうやら妾も少し成長したようじゃの」

「成長?」

「うむ。霊格が少し。操れる魔力も大分増えておるようじゃの」


言いつつ、少女はその身をクルリと一回転させる。

黒いゴスロリが宙に舞い、何時の間にか増えた胸元も……いやいやいや、邪念退散!!


「……今何か、邪な気配が……?」

「ん? 気のせいじゃないか?」


全力で惚ける。此処はそれで乗り切るしかない。ソレしか俺に道は無い!!


「……ん。まぁ、良かろう」

「でも、成長したって、何か意味はあるのか?」

「ん? ああ、今までは妾、よく寝ていたであろう? あれはの、妾の魔力消費を抑えるため、意識を常に最低限の状態に抑えておったのじゃよ。しかし、こうして力に余裕も出来た。となれば、眠る時間は主殿とほぼ同程度で済むのではなかろうか」

「へぇ、それじゃ、もう少し会話も出来るんだな」

「うむ。あと、色々と出来る事は増えておろうが……まぁ、それは追々話すとするかの」


言うと、少女……リネアは俺の正面から一歩下がり、そのまま俺に背を向けて歩き出した。


「ん? 今日はもう終わりか?」

「うむ。主殿も、今日は色々と心労があったのであろう。明日も早い事であるし、そろそろ眠られたほうが良かろう」

「あー……確かに」


言っている間に視界がかすみだす。

何時もの、この心象風景から切り離されて眠りに入るときの感覚だった。


「それではまた明日の、主殿」

「ああ、お休み………リネア」


言って、瞳を閉じる。

遠退く意識を感じつつ、何故か暖かい右腕を感じて。

俺の意識は、静かに眠りへと付いていった。



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