022 - 依頼者の立場
冒険者ギルド。それは、依頼者と冒険者を結びつける、一種の仲介業者だ。
その仕事は街に住む人々からの様々な依頼を、編纂処理し、ランク付け、相当掲示板への公開等等といった事だ。
……そう、ギルドとは、決してお金を稼ぐためだけに利用するわけではない。
むしろ、お金を消費するためにギルドへ来る人も、結構いるのだ。
現在風来坊である俺には、本来であれば依頼なんて殆どありえない。高価いし。
「さて……」
「依頼するんですか?」
「ああ。流石に、一人で要人警護なんていうのは無理があるし、……そうだな。某家のやんごとなきお嬢様が、カノンの大会を内緒で見に行くために用心棒を雇った……てな設定でどうだ?」
「凝りますね……」
俺としてはテンプレだ。
笑いながらギルドの奥へと足を進める。この街のギルドも、町のサイズに比例していて、中々に大きかった。
というか、その限定空間を最も占拠しているのは、依頼書の張られた掲示板なのだが。
「ベリア。少し待っててくれるか?」
「はい。いってらっしゃい」
ベリアを適当な椅子に座らせてる。此処はギルドと軽食屋を兼業しているらしく、ウェイトレスにサンドイッチを注文して席を立った。
「依頼を申請したい」
「はい。どのような内容のご依頼でしょうか」
「えー……警護……に、なるのかな? カノンまでの護衛を雇いたい」
「はい、それでは用紙をご用意しますので、そちらに依頼内容の記入、制限などの要項を書き込んで此方へお持ちください」
言われて、用紙とペンとインク壷を受け取る。
……いやまぁ、そりゃそうなのか。ボールペン、何処かに仕舞ってなかったかなぁ……?
「え〜……依頼内容はカノンまでの護衛。とあるご令嬢をカノンへ護送したいのだが、人手が足りずに困っている、と。足は……ああ、それも用意しなけりゃな……まぁ、馬車を後で用意するとして……人数は……まぁ、4人程度かな? 報酬……銀貨4枚。これでいいか。後は……うん、軽装の人を優先、中距離攻撃手段があると尚良し。期限は明日……いや、一日置いて明後日でいいか。うん。早朝、西門で、と。」
こんなところだろうか。
書き終えた用紙を持って、カウンターまで再び行く。
カウンターの受付嬢は、用紙を差し出すとにこりと笑って一つ頷いて。
「はい、それでは少々お待ちを……………カノンへの護送、と言う事で、ランクはCに指定されます」
「……結構高めですか?」
「最近、この辺りでも魔物の発生件数が増えているんです」
成程、と頷いて懐から財布を取り出す。
「契約金、銅貨200枚になります」
「銀貨で、お釣りもらえます?」
「はい。……銅貨100枚を。契約成立です。確かに受領しました」
差し出した銀貨に、重い銅貨がずっしりと帰ってくる。
それを懐の闇に放り込み、再びベリアの元へ。
「お嬢ちゃん、なんだ、俺と一緒にあそばねーか!!」
「ギャハハ、お前ロリコンだったのか!!」
……何か、五月蝿い連中が、まるで花に集る虫の如く集まっていた。
「あ、ヤ……イーサンさん……」
「おう、如何したベリア」
「いえ、この人達が……」
言って、その二人の男を見る。
小柄な盗賊風の男と、筋骨隆々の戦士、と言った感じの二人組み。
俺がベリアに話しかけたのを見ると、二人はいかにも邪魔者が来た、と言う感じに眉をひそめて。
「おう、アンちゃん。今その嬢ちゃん、俺達が誘ってる最中なんだが?」
「悪いが、コレは俺の連れだ。他を当たれ」
言って、ベリアをつれて席を立つ。
サンドイッチがまだ残っているようだったが、まぁコレばっかりは仕方あるまい。
「おい、ちょっと待てよ……」
言って、大男のほうが肩に手を掛けてきた。しかも、何か結構力を入れて。鎧越しにも分るほどの力だった。なので、気付けば反撃してしまいました。
こう、膝、腰、肩、肘、手首等等、諸々の関節を使って必殺気味に入った裏拳。
「オブボォッ!?」
そんな奇声を上げて仰け反る大男。
パンッ! と甲高くも短い音を立てて、そのまま勢いをつけて後頭部から地面へと沈み込んでしまった。
「―――!?」
「おっと、動くなよ?」
言いながら右腕を突き出し、その先にあった盗賊風なのの首を握る。
親指を首につきたてているため、男は苦しそうにうめいていて。
空いた左手で小男の右手を握る。すると俺の握力に負けて、ポロリ、と小男の右手の中からナイフが零れ落ちた。
「最後まで、って言うのが望みなら付き合うが、……如何か?」
言いつつ、少しだけ力を込める。
小男は苦しそうに此方を見つめて……って、首絞めてちゃ合図も出来ないか。
何となく降伏してそうな目をしたのを確認して、その手を離してやる。
床に崩れ落ちて咽る馬鹿を鼻で笑い、今度こそベリアをつれてギルドを後にした。
「ヤマトさん、なにもあそこまでしなくても……」
「あー……うん、だよなぁ?」
店を出た途端、そんな風にベリアに声を掛けられる。
確かに、あんなところで見境なく暴力を振るうなんてのは、馬鹿のやることだ。
……はて、なんで俺あんなところで暴力を振るったんだか。いつもなら、もうちょっと穏便に事を済ませてたと思うんだが。こう、卑屈に呼び出して裏でキュッと。
「………?」
自分でも自分の行動が今一分らないまま、俺は次の目的地へと向かって歩くのだった。