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020 - ゴブリン退治2

ゴブリン退治、というのはこの世界でもかなり基本的な魔物退治らしい。

妖精種の亜種である連中は生殖能力が高く、放置するとあっという間に馬鹿みたいな数になってしまうのだという。

自分達でコロニー内の数を調整するという意思はあるのだが、許容量を超えると、新しい器……つまり、新しい土地を求めて移動を開始するのだ。

大抵の場合、その移動先は人間の活動範囲と重なる。


「ここらの筈ですけど……うわ、確かに居ますね」

「……うん。ざっと見て50くらいか。……二人で狩り切れるかな?」


ランドの背中に跨ったまま、はるか遠くに見えるその一団の勢力を測る。

カラジューム郊外。城壁を抜けて少し行った場所に、その気色の悪い生物達は居た。

緑色の、小柄で背の曲がった、目のでっかい、気色の悪い奴だ。


「ふふふ、ご心配には及びません。お見せしましょう、私の魔術を!!」


言うと、俺の腕の中のベリアは、買い与えた弓を空に掲げ、歌うように言葉をつむぐ。それは多分呪文と言う奴だ。声という触媒を解して、魔力を制御する方法。

途端に高まる魔力はベリアから流れ込むものだろうか。空気が痺れるほどの魔力は、次第に一つの形を伴って、その手の弓に変化を与えていた。


ブンッ、という音。

次の瞬間、ベリアの手のひらにあった弓は、一瞬の光と共にその姿を変えていて。


「形が変わった」

「霊弓ホークアイです。召喚にかなりの魔力を必要とするのと、召喚する際に器となる弓を用意しておかなければならなかったり、弓の耐久度が足りないと使用回数に制限が生じたりと、色々制限のある弓なんですけど、その威力は従来の弓を圧倒的に上回る、一騎当千の武器ですよ!!」


俺が買い与えたのは、木製の質素な弓矢だった。しかし、今ベリアの手の上にあるのは、赤地に金の雅な装飾を施された金属製の弓だった。

珍しく長々と喋るベリアは、言いながら魔力を弓に込め、その弓に掛けて引き絞る。

ギチギチ、と弦が軋む音が聞こえる。その音に比例するように、弓に掛けられた矢に貯まる魔力も増大していく。


「―――散り爆ぜる千刃の矢」


ヒュンッ。そんな軽い音を残して、その一本の矢は空高く放物線を描いた。


「……え?」


思わず、そんな声を漏らす。

込められた魔力の割りに、ただ弓を空にはなっただけというのは一体……。


「………え!?」


そして、弓の上昇が頂点に達し、ベクトルの方向を反転させたその瞬間。

上空には、千の矢が。その大地にうごめくゴブリンに向かって放たれていた。


「うわ、凄い……」

「まだまだ、驚くのはこれからです!」


横を見て言うと、しかし力を込めてソレがまだ驚くに値しないと言うベリア。

その言葉の意味を図りかねて、視線を再び戦場の方向へと向けて。


――ボンッ!!


「………なんと」


空から放たれた幾千の矢が、地面に着弾した途端、まるで爆弾のように弾け飛んだのだ。

最初の一撃で大方のゴブリンが吹き飛び、次いでその飛来を察知したゴブリンも、回避が間に合わず、その爆風にあおられてダメージを受けていく。

……これは、アレか? 一種のクラスター爆撃か?


「ふふふ、やっぱり使えるじゃないですか、私の魔術……あの時弓があれば……」


ふと視線を腕の中に戻す。さっきまで自分の魔術を誇らしげに語っていたベリアが、しかし何時の間にか影を感じさせる声で何事かを呟いていて。

……ああ、そうか。馬車の時の話か。

確かに。俺は最初から全てを見ていたわけではないが、ベリアのあの魔術があれば、あんな盗賊程度なら蹴散らす事もできたのではないだろうか。少なくとも、全滅は逃れる事が出来た筈だ。


「なんで武装していかなかったんだ?」

「……大臣が、武器を携行するのは相手国に失礼だ、武装は騎士に任せろ、って……」


ああ、まぁ確かに。

お姫様がじきじきに戦場に立つなんて、そう有る事じゃ無いだろうし。

………ん? 何か、自分で言ってて違和感が。


「まぁ、それはお前の責任じゃないだろう。お前は自分の仕事をして、その結果運悪くあの盗賊どもに出くわしただけだ」

「……うん」

「まぁ、此処の宗教は知らないが、ベリアが心を込めて弔ってやれば死んだ奴も本望だろう。なにせ、大切な姫様はちゃんと生き延びたんだし」


言いつつ、ベリアの頭をなでてやる。

ベリアはまだ何か感じているようだったが、ソレは俺には分らない。

俺に出来る事なんて言えば、精々ベリアの話し相手になってやる程度だろうか。

……でも、何か違和感が残るな。武に名を馳せる国の姫が、武装を禁じられる? それはアイデンティティーを否定してないか?


「……っと、そう言えばゴブリン退治の途中だっけか」

「あ、忘れてた……」


慌てて視線を都市の外側へと戻す。

と、ゴブリンどもは此方へ向かって武器を構えて襲い掛かってきていた。

既に距離は簡易魔術の射程範囲……つまり、あと少しで剣の間合いに入る。

一度ベリアの顔を見るが、予想通り首を横に振る。やっぱりさっきの弓の攻撃、射程範囲は広いが、色々制限が掛かるのだろう。相手との間合いとか。


「仕方ない。ちょっと行ってくる」

「お気をつけて」

「ああ。すぐ帰ってくる」


言って、ランドの背中から飛び降りる。

マントを靡かせて相対した俺に驚いたのか、ゴブリン連中は俺を囲うような陣形をとって。

……なんとも。コレは俺にとっても戦いやすい。


「qwertyuiop@!!!」

「asdfghjkl;:!!!」


ゴブリンどもが何か言葉を交わして、此方へと飛び掛ってくる。

片方を囮に、もう片方が本命の攻撃を仕掛けようとでも言うのだろうが……。

バッサリ。

そんな音を立てて、二つの影を四つに分ける。


グシャリ。音を立てて地面に沈んだ、ゴブリン二匹分の肉塊。


「悪知恵も良いが、正面から掛かってくる事をお勧めする。……まぁ、無駄だろうが」


言いつつ、剣を一振り。血糊をそれで払って、剣を正面に構える。

その言葉を理解したのかどうかは知らないが、次の瞬間ゴブリンどもは一斉に襲い掛かってきて。


結局、俺はその日、剣を二度しか振るわなかった。




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