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018 - 方針と昔話。

「ヤマト?」

「そう。ソレが本名。姿まで見せたんだし、一応その名前も覚えておいてくれ」


素顔を見せたまま、ベリアに自分の本名を告げた。

保険と言う意味と、あと一国の皇女様と縁がある、って言うのは後々の武器になるかなーなんて打算。小市民な俺。


「で、ヤマトさん。このまま二人乗りでカノン首都までいくんですか?」

「さんは要らない。……いや、それは流石に。ランドも辛いだろうし、第一補給点があるなら、其処で補給したほうが良いに決まってる。――確か……」


言いつつ、闇から取り出した地図を広げる。


「……今何処から取り出しました?」

「能力だ。説明したろ? ……で、この地図に書かれてるこの街」

「カラジュームですか? ああ、確かにこの街なら馬なんかも売ってるはずです。結構大きな町ですから」


頷く。

この街はカノンの中でも、微妙に治安の悪いところだそうだ。

魔物のレベルは低いが、発生件数が多い。その所為で、中途半端なならず者がこの辺りを根城にしたり、逆に志し在る若者が頑張って修行していたり。

まぁ、一般的な治安の街、と言う事かな?


「此処でアシを手に入れて、そのままカノンへ行こうかと思ってる。……んだが」

「だが?」

「金が無い」


今確認した。が、残念ながら貯蓄が結構ヤバイ数字になっている。

まぁ、そもそも氷菓子で儲けた分の大半は装備と馬に使ったし、任務だって一つ失敗させてしまっている。

正直、しばらく保存食だけで生活しなければならない程度には餓々なのだ。


「なっ、ヤマトさんってお金持ちじゃないんですか!?」

「そんな事一度も言った覚えは無い。あと、“さん”は要らない」

「これは癖です。……でも、そんな高級な装備しているんだし、それなりの冒険者なんじゃ……」

「コレは呪われた品を叩き買った。俺の能力に、呪い無効化って言うのがあってな」


まぁ、実際は無効化するところか、呪いそのものを消してしまったのだが。


「そ、そんな……」

「冒険者ランクもDだ。まぁ、流石にEではないけれども」


なにせ、Eの合格条件は魔物……野生の犬みたいなの……を殺せる事、だ。

狼ほどの知能も無く、一匹だけの野犬なんて恐れるに値しない。

ちなみにDはそれ三匹を同時に相手できるか、という試験だった。


「え、えええ………」

「と言うわけで、第一に金を稼がなければならない。ベリア。お前は何か武器を扱えるか?」

「え、一応弓を……って、私も働くんですか!?」

「当然だ。お前もカノンへ行きたいんだろう?」

「報酬払うじゃないですか!!」

「ソレはソレ。コレはコレ」


キーーー!! と怒っているベリアを生暖かい視線で見守りつつ。

地味に笑っているような気配のランドを軽く小突き、そのまま一路西へ。

カラジュームへは、まだまだ数日掛かりそうだった。






「魔王、ですか?」

「ああ。それに関する昔話か何か、なんでも良いから知っていたら教えてくれないか?」


そして、その日の晩。

再び野宿する事になった俺達は、焚き火を囲んで、そんな会話をしていた。

魔王に関する話。それは、俺達……というか、晃がこの世界へ召喚された存在意義に関わる話だ。


「良いですけど……私、それほど詳しい話は知りませんよ?」

「ああ。一般的に知られている程度の話で良い」

「……でしたら、まぁ一つお話しましょうか」


言って、ベリアは火の前で改めて姿勢を正した。途端、その銀髪がサラリとたなびいて。

なんというか、一々生真面目なんだな、この子は。


「その昔の話です。あるとき、世界に存在する魔物。その数がとんでもない事になっていたそうです。伝説では、街の外へ一歩出れば、視界に魔物が最低10匹は映ったとか」

「…………」

「そんな時代です。人々は必死に魔物と戦いましたが、どうしても勢力を抑えきれず、人々は徐々に数を減らしていって。そんな折、魔王と名乗る存在が居る事が分ったんです」


言って、ベリアはカマズミ山脈の方向……北を指差した。


「その当時、帝国領土は統一されておらず、帝国の首都は魔王城と呼ばれていました。その存在を知った各国の王は、世界中から勇者を募り、魔王を倒すように命じたのです」


いや、ちょっと待て。

世界中から勇者を募った?


「はい。その当時は異世界から勇者を召喚したりはしていませんでした。……まぁ、色々お話はあるんですが、結局勇者は賢者から得た魔術を使い、魔王を退治することに成功したんです」

「……へぇ」

「で、その時魔王は賢者の魔術……封印の魔術だと言われているんですが、ソレに飲み込まれて、世界は勇者によって平和を取り戻したんです」


頷く。ソレはなんというか、とてもありきたりな冒険譚だ。

……が、然しそれには少し疑問が残る。


「異世界から勇者を召喚した、と言う話は?」

「ソレは次世代の魔王の話です。はじめの伝説の大分後、世界は再び魔王の襲来に脅かされます。今度は、かなり野心的で、人類の領土を魔物を率いて侵略してきた魔王でした」

「ほぅ」

「当時の人々は魔王が複数存在すると言う事を考えておらず、何らかの原因から魔王の封印が解けたのではないか、と考えたそうで。魔王の封印を管理していた国……ウェストリーは、その賢者の魔方陣の解析に取り掛かったんです」


何となく思い起こされたのは、あの地下の神殿にあった巨大な魔方陣。

……もしかして。


「しかし、彼の国は魔方陣を一部書き換え、結果偶然の産物として異世界から人間を呼び込む、なんていうシステムを作り上げてしまったようなのです」

「元は魔王封印の術式だったのが?」

「はい。しかも、召喚する人間は光の力を持つものを狙う、なんて機能までついているみたいなんですよ」


確かに、晃は能力を覚醒させたとき、光の能力だといっていた。


「それからです。異世界から勇者を召喚する、というシステムを完成させたウェストリーは、魔王が現れるたびに勇者を召喚し、その勇者を尖兵として魔王と戦わせているんです」

「……勇者なんて、体の良い使い捨てのヒーローか」

「自分達の世界を自分達で守ろうとしない、堕落した愚者共ですよ」


不意に、そんなきつい言葉を放ったベリア。

視線を向けると、見たことも無いほどに憤った少女の顔があって。


「ベリアは勇者嫌いなのか?」

「勇者と言うより、そのシステムが。無関係な人間を引き込んで戦わせるなんて、そんなの道義に反してます!!」

「……なんとも」


雄雄しいと言うか、猛々しいと言うか。

この少女、言ってる事は滅茶苦茶格好良い。まるで武人さんだ。

まぁ、もしかするとソレこそがエネスクっていう国の風土なのかもしれないが。


「ま、参考に成ったよ。ありがとうな、ベリア」

「御役に立てたのなら幸いです」


頷いて、ベリアのそのさらさらの銀髪をなでてやる。

少女の髪は、見た目どおり物凄くさわり心地が良くて。


「えへへへ………」

「さて、それじゃ寝るか。明日もまた早いしな」

「はーい。お休みなさいヤマトさん」

「ああ。さんはいらないが。お休みベリア」


言って、瞳を閉じる。安全確認も済ませてある。

ベリアにあずけられた体重を肩に感じつつ、俺もそのまま意識を眠りへと誘われたのだった。



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