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015 - 皇女様の憂鬱

「う……うう…………」

「ん? お目覚めかい?」


少女を助けたその後。

少しいったところに見つけた森の中にキャンプを作り、そこで一夜を明かそうと言う事になった。

というか、そうする事にした。流石に、気絶した少女を抱えたまま夜を走り通す、と言うのは少し無謀な気がしたのだ。


「……こ、此処は……」

「こんにちはお嬢さん。俺はイーサン。偽名だが、キミに害意は無い」


自分でしておいて、なんて自己紹介だと思う。胡散臭いなんてレベルじゃねー。


「…………!?」


少女はビクッっと震えて、そのまま一気に後退る。

……まぁ、そりゃそうか。全身黒い鎧を着込んだ男が、いきなり目の前に居たんだから。


「何者ですかっ!? 此処は……!? 痛っ……」

「おっけー。ちょっと落ち着いて。説明はする。先ずは深呼吸してみよう」


腕を押さえて痛がる少女。そこは矢が貫通していた部分だ。魔術で応急手当したとはいえ、所詮その場しのぎ。

落ち着くように言って、すーはーと深呼吸させる。

その銀髪のお嬢様は、少しだけ緊張していたようだが、しかし早急に自制し、そのままあっという間に落ち着きを取り戻してしまって。

見事なものだ。


「………、お聞きします。此処は何処で、貴方は誰で、私の乗っていた馬車は何処ですか?」

「答えよう。此処はウェストリーからカノンへ向かう道中。センタの村から西へ一日ほど行った場所だ。俺はイーサン。先も言ったとおり偽名で、本名はわけあって名乗らない。馬車だが、……その、覚えてないか?」


最後の質問にだけ、思わず言葉が詰まる。

然し彼女はと言うと、毅然とした態度で。


「――馬車が、盗賊の一団に襲われたのを覚えています。護衛が足止めして、その隙に私達は先行して……」

「…………」


なるほど、と頷く。

あの盾は、その護衛に借り受けたものなのだろう。

所詮馬車。木造の小屋では、至近距離からの矢や魔術は防ぎきれない。

盾が有るのと無いのとではまた違っていただろう。


「馬車は……というか、御者と馬車馬は駄目だった。馬車自体も殆ど砕けていたし、あれ以上あの場に留まるのも危険と判断して、君だけ抱えてその場を離れた」


ソレまでの経緯を、簡単にだが少女に説明する。

少女は少し戸惑っていたようだが、しかし深呼吸を何度かすると、また落ち着いたような表情となって。

小さく、「そうですか」とだけ呟いて、死者を悼むように黙想した。


「さて」少女はそう言って、目を開けた。もう立ち直ったのだろうか。強い子だと思う。


「それでは、貴方は命の恩人ですね。本当にありがとう御座います」


そういって、少女は頭を下げた。


「いや、命の恩人って言われても。君以外助けられなかったし、大した事は出来てない」

「それでも、私の命を救ってくれたのは事実でしょう?」

「うむぅ……」


唸る。なるほど確かに。少なくとも彼女の命を助けたのは本当の事だし。


「それで……えーっと、きみ……」

「そういえば名乗ってませんでしたね。私はアベリア・ラブセット・ダリア・エネスク。エネスク大帝国の第三皇女で、皇帝の5番目の子供です」






ここで、この世界の大まかな地図を思い出してみる。

まず、俺こと大和と晃が召還された土地。これが、神聖魔術王国ウェストリー。

大陸のほぼ中心に位置し、周囲を山や谷に囲まれ、結構交通の不便な場所にある。

その上コレといった特産物もなく、かなり田舎と言う印象の国だ。


で、その西。俺の目的地とする商業国家カノン。

ウェストリーの西南西で国境が接しており、地味に交流のある国だそうだ。

国土はウェストリーと殆ど同じくらい。ただし、海に面していたり、商業に力を入れていたりと、ウェストリーとは比較にならないくらい経済発展を遂げている。


で、今話題のエネスク大帝国。冠に“軍事”なんて単語の付きそうな国だ。

地図で見ただけでも分るのだが、その国土は他を圧倒的に上回る。

立地上寒い土地で、魔物の発生件数も多く、魔物個々の能力も高いらしい。

で、そんな魔物に対抗するために磨かれた彼の国の軍事能力は、他の国の軍事能力を圧倒的に上回るそうだ。

お国柄か土地柄かは知らないが、温厚な人格の人間が多いらしく、あまり南下政策はとっていないらしい。

というか、国でやっている鉄鋼貿易で結構儲かっているのだとか。

まぁ、とにかく馬鹿でかい国なのだ。


「……………………」


はわ、はわわわわわわわ!!!!???

内心を言葉にするなら、そんな感じ。要するに、ソレくらい焦っていた。


「こ、皇女殿下?」

「そんな感じです。ベリア、って呼んでくれて結構ですよ」

「……敬語使うか?」

「いいです。普通に喋ってくれたほうが楽です」


いや、無理だろう。普通に考えて。

……いやいやいや。そこで退いて如何するよ俺。というか、俺ってそんなキャラだったか?

――そう。例え相手が皇女様だろうがなんだろうが、俺には大して関係ない。


――本当に?


「……えー、ベリア? それで君、この後如何するんだ?」

「あ、話を進めるんですね。 えっと、この後と言いますと?」

「つまり、この後君は何処へ行くのか、って聞いている。俺はこのまま西へ……カノンへ向かうつもりなんだが、お前はどうする? どうして欲しい?」


依頼するなら、送り届けても良い。

彼女の目的地が何処かは知らないが、取り敢えずの行動くらいは決めておいた方が良い。


そう言うと、彼女……ベリアは少しだけ悩んだような表情を見せた後、


「カノンまで、ご一緒させていただいても宜しいですか?」


なんて、答えたのだった。



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