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014 - 治安は今一っぽい。

「良い天気だなぁ」

「ガルッ!!」


ランドドラゴン……面倒なのでランドと呼ぶことにする……の返事を聞きつつ、懐の影からりんごを二つ取り出す。


「ほれ」

「ガ!!」


シャクッ、とランドはリンゴを一呑み。

何と豪快な。

結局コイツ、行くあても無いらしく、ならばということで俺の旅路に付き合うことになったのだ。本人……本竜?に聞いたところ、そう首肯したのだ。


「………はぁ」


本当に如何したものか。

この村……センタの村と言うらしい……にたどり着いたのは昨日の晩。

見事に全滅し腐った豪商のキャラバンから、命辛々逃げ出せたのだが。


「任務……失敗したなぁ」

「ガ……」


違約金を払う……とまではいかない。任務は遂行したのだし。

ただ、報酬は入らない。なにせ、依頼人が生死不明なのだから。

と、なればだ。

この先に在るのは国境。これ以降、金を稼ぐ機会というのは暫く無いのだ。


「……………………」


一か八か、このまま国境まで突っ込むか。

いやそれとも、どこかで装備を再編成してから行くべきか。

悩む。


兜を脱ぎ、それを小脇において。


「――ガル!?」

「………ん? ああ、そうか。素顔、見せてなかったっけ?」


そんな会話をしつつ、一人と一匹、木陰に座ってリンゴをかじるのだった。






結局、そんな小さな村で十分な補給作業が出来るはずも、ましてギルドなんてあるはずもなく。

一日の休憩の後、西へ向かって再び進み始めた。


「……暇だ」

「ガルゥ」


そもそも、俺はそれほど喋る方ではない。

黙々と黙って必要な事をやる。そんな人間だ。


「ガウ!!!」


そうやって、暇だ暇だとのんびりしていたその最中。

不意に、ランドが声をあげて、視線を彼方へと向けて。


「何かあったか?」

「ガルルル!!」


目に力を入れる。

何か……小さな点が、結構な速度でこちらに向かって近付いてきているような。


「なんだ?」


僅かだが、魔力の反響を感じる。つまり、あそこで魔力を使う何かが行われている、と言う事だろう。

………まさか。真逆とは思うが、またか? またなのか!?


「ランド。手助けするが、良いか?」

「ガウ!!」


任せる、と言った風に頷いたランド。ソレを確認して、腰から黒い剣を引き抜く。

闇を操る能力。と言ってもソレは、光の影である闇ではない。それは、俺の内側に巣食う、魔としての闇だ。魔力そのものであるのかもしれない。


その闇を剣に溜める。基本的に魔術を扱うときと同じような感覚だが、やはり他の系統を操るときより、この闇を操る方が身に合っている。


「ランド!!」

「ガル!!!」


剣に闇をため、ランドに命じて馬車へと駆け寄る。

ランドの機動力は、何時ぞや買った馬とは比べ物にならないほど素早く、あっという間に有視界範囲に入って。


確認する。やっぱり、襲われているのは馬車。襲っているのは……盗賊だ。


「ぬおりやあああああああ!!!!!!!」


八つ当たりも込めて、かなりの力を注ぎ込む。

魔術で潰した方が良いのかもしれないが……残念ながら、其処まで器用かつ高威力の魔術は習得していない。

圧縮され、小さな剣に押し込められた闇は、今にも溢れ出そうと猛烈な勢いで暴れだし。


「吹き飛べっ!!」


ゴウンッ!!!

まさにそれは竜の咆哮の如く。大気を振るわせる闇の一撃は、濁流となって馬車の周囲を覆っていた人の群れを飲み込んだ。


「………ち」


けれども、盗賊たちの半数はまだ存命のようで。

どうも今一操作が上手くいかなかった様だ。まぁ、これほどの長距離で闇を使う事なんて今まで無かったし。


「ランド!!」


ランドに命じてそのまま馬車へ駆け寄る。


「な、なななっ!!??」

「去れ。退くなら追わん」


言いつつ、再び剣に闇を集めだす。

その闇を見た盗賊の一人が顔を青白くし、


「退くぞっ!!」


そのまま手を上げて、全体へとそんな指示を出した。

壊滅を免れた残り数人は、慌ててその声に従い、何処かへと走り去ってしまった。


「ふぅ……ランド。降りるぞ」

「ガル」


ランドから降り、そのまま馬車の前面へと駆け寄る。

無事かと問いかけようとして、しかし既に御者は事切れているようで。

軽く手を合わせ、そのまま馬車の中へと足を踏み入れる。

どうも、高価な馬車のようで、中々に確りとした造りの代物だった。


「誰か、いるか?」


問いかける。が、返事は無い。

ソレほど大きな馬車ではない。というか、ソファーと絨毯の敷き詰められた、小さな割りに高級な感じの馬車だった。

そんな馬車を見回して、不意に奇妙なものが目に付いて。

何故だかは知らないが、そのソファーの上に、無骨な盾が掛けられていて。


「………?」


随分とボロボロな盾だ。儀礼用の盾とかではなく、実戦で使われるような。そこら中に刃傷がはしる、まさに歴戦の防具といった感じの。こんな場所にあるのが、物凄く不釣合いな。

不審に思ってその盾をずらしてみる。


「……………っ!?」


息を呑んだ。

そこに、小さな少女が倒れていた。年の頃14……俺より少し年下の、銀髪の美しい少女だった。


「おい、……生きてるか?」


声を掛ける。が、反応は無い。

ぱっと見たところ大した怪我は無い様子だが……。


「…………む」


その小さな左腕に、無骨な矢が突き刺さっているのが見えた。

コレは不味い。すぐさま処置しないと。菌が入ってそのまま腫れたり、下手をするとそのまま病気にかかって死んだりなんて事もありうる。


幸い矢は腕を貫通しているようだ。

矢の鏃をナイフで切り取り、改めて矢を引き抜く。

影から取り出したアルコールを腕にかけ、ガーゼと布で止血。その上に、習った簡単な治癒魔術を掛けてやる。

自己治癒能力を促進させるだけの代物だが、無いよりはましだろう。


素早く処置を終えると、その少女を抱きかかえ、馬車の外へと出る。


「ランド。この場を離れるぞ。連中、本当にあきらめたか怪しいし。この子を庇いながらなんて、流石に無理だしな」

「ガルルルル!!!」


心得たりとばかりに、ランドは馬車の傍で姿勢を低くし、そのまま俺をその背に乗せて。


「よし、頼む!」

「ガル!」


手綱を確りと握り、少女を確りと抱きしめて。


ランドは、一気に西へ向かって走り出した。



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