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013 - 相棒、大脱出。

ドオンッ!!!


爆音が大地を揺るがす。

いや、爆音どころではない。実質的な威力が、大地そのものをゆすっているのだ。

……否否否!! それ所では済まない!!


大地が、大気が、水が、炎が、雷が。


その全てが、調和を持って、ただの攻撃手段として此方を向いていた。


「チイイイッ!!!」


飛来した雷を剣で斬り伏せ、水に岩をぶつけて相殺し、炎に風を当てて流れを変える。

それでも、次から次えと飛んでくるのは、莫大な数の魔術だった。


一つ一つの威力はそれほどのものではない。

けれども、それがいくつもあることで、多種あることで、其々の効果が嫌味なまでに此方に効果的なダメージを与えてくるのだ。

水と炎は相殺する? 馬鹿言っちゃいけない。世の中には水蒸気爆発なんてものもあるんだ。

風は岩を貫けない? けれども風で加速した飛礫は、文字通り目にも止まらぬ速さで。

更にそれらの隙間を縫って飛来する矢、矢、矢、矢!!!

まさに凄い数DEATH!!


……正直、そろそろ能力を行使したくてたまらない。


「おおおおおお!!!」


正直、クライアントがどうなったかなんて確認する余裕は無い。

最後にクライアントを確認したのは、このキャラバンが出発する前。

つまり、つい4日ほど前の事。それ以降、あのブッチャリ豪商は自分の馬車(豪華仕様)に乗り込み、全く外に顔を出さなかった。

……いや、立ち寄った街で女を買ってはいたようだが。下種。


で、ソレまでなんとも無かったこのキャラバン。

けれども悪い予感というものは、悪い事実を引き寄せるらしい。


その日、平穏無事に国境へたどり着こうとしていたキャラバンの西。小高い丘の上に、突然連中は現れた。


一個大隊。纏まった服装を着ていたわけではないが、その動きは決して盗賊なんかではなく、むしろ軍隊……いや、騎士団とか、魔術とかの運用によほどなれた連中のような、かなり見事な手管で。


全く。あの男は一体何をしたらこんな連中を敵に廻すんだ!?


横転した馬車の一台の陰に隠れ、少しだけ息をつく。

最初の猛攻で倒れ、その後俺が魔術で凍らせたため、簡易ではあるがバリケードの役割をしている。


……というか、こりゃもう駄目だとおもう。

絶対勝てない。というか、無理だ。

そもそも、この任務、最初の顔合わせからして駄目っぽかった。

城下町で受けた馬車護送の任務。あれは、周りの連中がある程度の能力だったからこそ、あれほど上手く行ったのだろうが。

今回の任務は駄目駄目。殆ど夜盗崩れみたいな連中ばっかり。

精々盾に成るか成らないか、とか思っていたら、最初の集団魔術の奇襲でその大半が吹っ飛ばされて。

盾どころか空気扱い。


で、今現在。

残って反撃する勢力も、徐々にではあるが削られていく。

頭を出して様子を伺おうものなら即座に十の矢に撃たれ、下手に矢でも放とうものなら其処に向かって十の魔術が飛んでくる。


こりゃ、盗賊なんてレベルじゃない。

正直、盗賊の格好をした正規軍……それも、騎士とか付きそうな連中だと言われても納得できる。うん。


逃げたい。逃げたいが、そうするには能力の行使が必須。

けれども。腕輪の彼女いわく、闇を操るなんて能力は不吉なもの以外のなんでもない。俺だってそう思うのだから、この世界の人間が見たら正直魔物だとか言われるのは目に見えている。


出来れば。あんまり敵は作りたくないのだ。

もし此処で能力を使うなら、そのときは敵を全滅させなければならなくなる。だって、俺の存在を知られたくないし。


「…………はぁ」


鎧の中で溜息をはく。

馬は……最初の奇襲でやられた。その辺にこんがりステーキに成って転がっているんじゃないだろうか。


………使うか?


「ガルルルルルルルルル………」

「……ん?」


不意に、そんな音が聞こえて。

何気なく背後……背を向けていた馬車の影を振り返って。


「…………………………………」

「ガ!!」


ヨッ、って挨拶な感じに、其処に、伏せたドラゴンが居た。

いや、ドラゴンといっても大型の竜種ではない。所謂、ランドドラゴンという奴だ。

馬程度のサイズで、二足歩行。重い荷物も運べて、しかも長距離移動までこなす。


「………えーと、確か馬車引きの?」

「ガ!!」


豪商……えーと、ランドルフ氏……だっけ?……の、豪華特別仕様の馬車。

その馬車を引くのは、全てが全てランドドラゴンであった。

なんでも、馬に比べて体力があるから、だとか。


……確かに馬より体力はあるらしいが、地力では大型馬のが勝っている。

多分、見栄えで選んだのだろう。ランドドラゴンって高価らしいし。


「何だお前。逃げないのか?」

「ガルルルルル……」


話しかけてみると、ランドドラゴンは言葉が通じているのかいないのか、その視線を倒れた馬車の向こう側へと向ける。

その忌々しそうな視線ときたら。


「……ははぁ、お前賢いだろう」

「ガ!!」


今逃げれば、確実にこの魔術の雨に身をさらす事になる。

無防備に飛び出す……それは、自殺以外のなんでもない。


「ガルルルルル……」


そして、ランドドラゴンは此方に何かを請うような視線を向けてきて。


「……何か。つまり、俺に騎手に成れと?」

「ガル!!」


意を得たり、と首を縦に振るランドドラゴン。

なるほど。確かにそれなら、俺が防御をこなせばこの場から逃げる事はできるだろう。


「しかし、俺の武器はこの剣だけだし、それじゃお前までカバーできるか……」

「ガルルルル!!!」


任せろ、とばかりに鳴いたランドドラゴンは、破れた幌から馬車の中へ頭を突っ込んで。


「……なんと。用意の良いこと」


そこから、一本の槍を銜え出してきた。

確かに、この長物なら、俺とランドドラゴン両方をカバーできるだろう。

幸い、拳術の中で棒術も教わっている。


「………いいだろう。俺がお前を守る。その代わり、お前は俺を乗せる。良いか?」

「ガル!」


首肯する。

同意を得たのならば、これ以上この場にとどまる事も、声を交わす必要も無い。

俺が飛び出すのと、ランドドラゴンが飛び出すのは同じタイミングで。


とび来る氷柱を砕き、火を散し、風を掻き消して、岩を打ち返す。

その瞬間背後から飛び出したランドドラゴンの背へと飛び乗って。


ガシィッ!!!


鎧と武装あわせて結構な総重量になるであろう俺の身体を、しかしそのランドドラゴンは柔軟に受けきってしまって。


「ガルアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」

「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


互いの咆哮が共鳴するような感覚。

咆哮を経て、意識が同調するような感覚。


岩を砕き矢を叩き折り、雷を弾いて呪詛を斬る。


ランドドラゴンは走る。岩を踏みしめ、溝を飛び越え、泥を蹴散らし荒地を踏破し。








そうして。


「ぶはぁぁぁぁ………」

「グキュゥゥゥ………」


俺達は、漸く、その死の嵐から抜け出す事ができた。


「……よう、ランドドラゴンの。生きてるか?」

「グキュ!」


何とかな、的な感じの返事をするランドドラゴン。

なんというか、地面にへばっているドラゴン、というのも中々シュールな光景だ。


その身体には……俺も含め、所々傷を負ってしまっている。

まぁ、所詮は贋物の技。反射神経と動体視力で技術を水増ししていたに過ぎないのだし、当然の結果といえばソレまでなのだが……。


立ち上がろうとして、やっぱりそのまま寝転がる。

もう少し休憩しなければ、とてもではないが動く気には成れなかった。



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