012 - 騎馬探し。
ポリポリと菓子を食べつつ、詰まれた本に目を通す。
「馬、ラコック、ランドドラゴン、ワイバーン、………うぅん」
今朝の事だ。
昨日見つけておいたギルドへ、国外へと出る任務を探しに掲示板を見に行ったのだ。
そうして一つ、カノンの方向へ向かうキャラバンの護衛、という任務があった。
是非この任務にしようと思い、注意書きに目を進めて。
※重武装の方は、騎馬をご用意ください。
自分の装備を見下ろす。
全身鎧にフルフェイスの兜。ガントレットと金属加工されたブーツ。しかも魔術加工品。
体感重量だけでも、軽く30キロを超えている。
異世界をわたった事による身体能力の増加が無ければ、流石にこれを常時装備している、というのはつらいものがあるだろう。
「………………」
そういうわけで、先ず騎馬を探すこととなった。
けれども、この世界の騎馬というものが俺は今一分っていない。
ので、一体どういう動物を選べば良いのか、参考文献を探しにこの図書館へ寄ったのだ。
幸い、この街は王都から近いため、そういった公共施設も一応備えられていた。
「………むぅ」
馬。コレにもいろいろな種類があるが、重武装の人間を乗せられるような大型馬は高価いらしい。
ラコック。鳥型の魔物なのだが、空を飛ぶことはなく、陸を走る事に優れた……ダチョウのような鳥らしい。
が、この生物どうも気弱らしい。危険を回避するようなキャラバンならまだしも、戦闘になるかもしれない任務に買うには不釣合いだろう。
ランドドラゴン。二足で走る、小型のドラゴン種だそうだ。
力も強く、そう簡単に怯える事も無い。長距離を走る事にも適しており、冒険者が好む騎馬だと書かれている。
……が、人気があるだけあって高価いそうな。
ワイバーン。コイツは空路じゃねーか!?
候補から削除。
因みにワイバーンとは、両腕が翼になった、飛竜の一種である。
「んー……」
残金と見合わせても……少し苦しい。
買うならば、やっぱり馬だろうか。馬なら、高価いといっても、ある程度は知れている。
「まぁ、得られる知識にも限度はある……か」
潔くあきらめて、別の本を探して回る。残り時間も少ないが、本来の目的は此方だ。
図書館の本。そのなかで、この世界に伝わる伝説の類の書籍を探る。
探るのだが……うん。分からない。
此処にあるのは、大抵文字を覚えるための絵本だったり、魔物の事が書いてある本だったり、基本的に生活で必須と思われるような知識ばかりなのだ。
残念ながら、勇者とか、魔王。伝説なんて単語の付く関連書籍は少なそうだ。
「……はぁ、仕方ない。いくか」
もしかしたら、此処にヒントがあるかもしれない。けれども、残念ながら今回は時間制限があって。
結局、収穫らしい収穫は無かったが、まぁ予備知識は少しだけ増えたのだった。
カッポカッポという蹄鉄の音が鳴る厩。
その中から、適当に一頭見繕ってもらい、そのまま施設の厩に預ける。
形だけで良いのだし、それほど良い馬は買わなかった。
とりあえず、これで依頼要項はクリアしたわけだ。
あとはギルドに行って依頼を受注すれば、それでオッケーの筈……。
馬を預けたその足で、再びギルドへ向かって歩き出す。
正直、先に受注しておいて、後から馬を買えばよかったかな、とも思うが、その辺りはまぁ、……無かった事に。
「この任務を受注したい」
言って、イーサンのギルドカードを差し出す。
「此処読んだ? あんちゃん、馬持ってる?」
「厩の預り証……コレで良いか?」
「あいよ。確かに」
受付に確認し、依頼書と引き換えに受注書を受け取る。
なんとか任務を受注する事ができた。
受注書を見る。出立は、今日が3日だから………。
なんと。今晩か!?
「その依頼、今日の昼までの受注だったしねぇ。それに依頼主は豪商のランドルフだ。一回挨拶に言っておいた方が良いんでないかい?」
「……任務は果たす。それ以外は知らん」
気遣いにだけは感謝して、そのままギルドを後にする。
何故に。異世界に来てまで赤の他人におべんちゃらを使わねばならんのか。
というか、今更ながらに嫌な予感がする。
この依頼主、カウンターの旦那は“豪商のランドルフ”とか言っていた。
豪商……商人といえば、黒い善人か、脂ぎった悪人しか居ないと俺は思っている。偏見だ。
この豪商が、善人であれば良いのだが。
――善人なら、挨拶に行ったほうが良い、なんて忠告はされないだろうしなぁ。
悪人となれば、敵は一気に増える。
それどころか、知らず知らずのうちに、自分まで悪事に加担させられている可能性だってありえる。
例えば、馬車の中に白い粉の袋詰めが積んであったり。
例えば、ワラでもない、妙な草の束を積んであったり。
「…………」
受注書を確認する。違約金―――銀貨1。
適当な店での食事代が銅貨数枚だから………これはとんでもない額になる。
今更だが、失敗したかも。選択を早まったかも。
そう思って、本当に今更冷や汗をかくのだった。