011 - 西へ。
「じゃぁな。達者で」
「ありがとう御座いました!!」
「ふんっ!!」
「………………」
そんな挨拶に、三人は其々の反応を見せて。
ハシットとディスタの反応は予想通りだが、マルベラが地味に手を振ってくれたことには、内心驚いていたり。
そんな内心を隠し、ビシッっと挨拶を極めて、そのまま解散する。
報奨金は街に着いた時点で、馬車の中で配当されていた。
「さて」
とりあえず、城下町を抜ける事は出来た。
今現在の位置は、王城の西南西。ここから数日掛けて西に移動すれば、件のカノンへとたどり着く事ができるらしい。
「……また依頼でも探すか……いや」
言いつつ、街中を適当に見て回り、適当に携帯食料を買いあさっておく。
……マルベラの食べていた干し葡萄。見ていて結構ほしくなったのだ。
何か携帯食料に出来そうな品は無いだろうか、なんて思いながら、その街の市場を見て回って。
……ソレを見つけたのだ。
「いらっしゃい!! 何か買っていくかい!!」
「…………!?」
紙に包まれても分る、日に照らされてすける赤み。
漂い来る仄かな肉の香り。ソーセージ状の細長い形。
……サラミ。
やばい。滅茶苦茶喰いたい。好物なのだ。
「………………………」
巾着の中から銅貨を十数枚だし、それを差し出してサラミを指差す。
と、露天のおばちゃんも俺が何を求めているのか気付いたようで、「あいよっ!」と元気の良い声をあげ、サラミを紙袋へと詰め込んでいった。
「一本オマケしといたから、味わって食べなよ!!」
「…………」
「その代わり、また買っとくれよ!!」
おばちゃん最高。
小さく頭を下げ、そのサラミと財布を影の中へしまい、再び露天を物色しだす。
……うん。今晩宿で楽しもう。
干し葡萄をはじめとしたドライフルーツ。
日持ちの良いとされるパンを各種。スモークサーモンにハムやらベーコン。
スモークチーズもあるよ!!
…………。
「まぁ、こんなところか」
影の中に買い溜めた品物を確認し、呟く。
これだけあれば、いざというときでもしばらくは生きていけるだろう。
因みに、この影の中。直射日光も無ければ、湿度もクソも無い、一種の完全閉鎖空間。
保存食なら、腐る事などほぼありえないと言う。
今の俺は、一種の歩く蔵と化していた。
「……………」
さて。
最低限の医療用具も買ったし、後はギルドで適当に国外へ向かう任務が無いか調べるだけだ。
………なのだが。
もう、とりあえず今日は良いだろう、というような気になってしまう。
正直、初めての冒険でかなり疲れているのだ。
肉体的にではなく、精神的に。
「……はぁ」
やっぱり、自分なんて騙しきれるものじゃない。
なるだけ致命傷を避けるようにはしたが、それでも俺は人を斬った。
「……………………………」
ネガティブに傾きかける心を必死に鼓舞し、何とか平常を保ったまま歩く。
が、やっぱり駄目だ。どこかで一休みしたい。
そう思って、辺りを見回す。
「………む」
見回した先に、小さな広場が見えた。
屋台が並ぶような大きな広場ではなく、子供達が遊んでいる小さな広場だ。
その広場の一角。木陰のベンチに目をとめて、迷わずそこに腰を下ろして。
「………………はぁ」
一息つく。
最近……というか、ここ数日は物凄く忙しかった。
旅立ちの資金を集めたり、覚醒した能力を扱う訓練をしたり、魔術の訓練をしたり。
幸い、資金集めは順調に進み、魔術も能力を触媒とすることでなんとか習得する事ができた。
が、それこそ日中夜までぶっ通しで続けた訓練。
しかも、他人に気付かれないように隠れてやっていたのだから、物凄く疲れる。
そうして、城からの脱出。
そのままギルドで依頼を受け、魔物や盗賊の襲撃から馬車を護衛して。
……うん。疲れた。
鎧の隙間から、店で買った甘納豆を口に運びつつ。
昼下りの晴天の下、静かに休息してその日はすごすのだった。