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010 - 山賊アタック。

人間と他の動物の違いは何か。

――会話による高度な意思疎通。


ソレによって人間は集落を作り、街を作り国を作る。

つまり、人間にとって意思疎通とは、社会というものを築く為に必要な、重要な要素の一つであるといえるのではないだろうか。


……では、その会話が必要ない分野において。

人間が動物と違う点などというのはあるのだろうか。

俺は少なくとも無いと思う。


――バッサリ。

斧を振り上げて襲い掛かってきた山賊に一閃。

何のことはない。道具を持っているといえど、所詮血の詰まった肉袋。家畜を殺す事となんら差異は無い。

ただ、生きるために命を奪う。それだけの事だ。


其処になんら違いは無い。命は全て平等であり、俺が生きるためにその命を潰す必要があった。唯それだけのことなのだ。


「………………ふぅ」


なんだかんだ言いつつ、自分に言い訳をしている。

なんというか、少し情けない。


四方を見て、他の面々の様子を見る。

幸い、武道家のハシットと剣士のディスタ、プラス俺の三人で何とか山賊を抑え切れている。

魔術師のマルベラはこういうチマチマした戦いは向いていないらしく、馬車に取り付こうとする山賊を適当に魔術で吹き飛ばしている。


「………!!」


視界にハシットに切りかかろうとする山賊が映る。

どうもハシットは気付いていないらしく、正面の相手にばかり注視してしまっていて。


イメージする。

魔術にとって最も大切なのは、その具体的なイメージだそうだ。

当然、紋章や詠唱の補佐も大切では在るが、最終的に求められるのは矢張り意思なのだ。


イメージした氷の矢は、ハシットを狙う山賊を背中から打ち抜いた。

……ち、また加減し損ねた……。


「ふんっ!!」


そのままディスタに切りかかる山賊の右腕を跳ね飛ばす。

五月蝿いソレを気絶させて、次から次へと斬りつけていく。


剣術なんて習った事は無いし、まして剣自体握った事なんて無い。

が、俺には昔から祖父に習っていた武術がある。


「おおおおおおおお!!!!!」

「…………ふっ!!」


要は、相手の動きを見て、自分に最適な動作をさせれば良いだけの話。

剣術は知らないが、剣術家である晃の動きは覚えている。それを適当に投影して……。


相手の脇へ滑り込み、そのままわき腹を切りつける。

皮鎧で大分威力を削がれたとはいえ、それでも十分に致命傷ではある。

少なくとも、続けて戦える程では無い筈だ。


「……あと、みっつ」


背後から襲い掛かってきた山賊の顔面に裏拳を入れる。

ひるんだその男の腹に、震脚を込めて肘打ちを極める。

魔力も乗せられた痛恨打だ。


「い、今のどうやったんですか!?」

「勘」


言いつつ、その勘に再び何かが引っかかり、馬車の進路の先を注視する。

嫌な予感。それは直後に、莫大なプレッシャーという実感を伴って。


「―――全員伏せなさい!!」

馬車からそんな声が響いて、次いで空に巨大な火の玉が見えた。



呆然とするディスタを地面に引きずり倒し、馬車の脇へと飛び込む。


「う、おっ!?」


ズンッ!! という空気が揺れる音に、何時の間に隣に来たのか、ハシットがそんな悲鳴を上げて。


見れば、馬車のすぐ手前に広がる薄青い幕のようなものが、此方へ向かって飛来しようとする火の玉を空中で受け止めていた。


「ファイアーボール……敵に魔術師が!?」

「なっ……!? 冗談じゃねぇ、こりゃDランクの仕事じゃねーぞ!?」


わめく二人を無視して、馬車の陰から火球の射出ポイントを見定める。

……うん、あの岩の上か。

目を凝らせば、少し離れた岩の上に、黒いローブの影が見えていた。


「後何発耐えられる」

「――7発くらいかしら。それ以上は保障しかねるわ」


御者台へと出ていたマルベラに確認を取り、改めて剣を構える。


「……アレを潰してくる。守りは任せた」

「あら、出来るの?」

「多分」


言って、目標へ一直線に走り出す。

鎧はガチャガチャ五月蝿くて重いが、そこは異世界に来た作用で得たらしいパワーアップでそれほど気にはならない。


と、走り寄る此方に気付いたのだろう。

火球の軌道が、俺を巻き込みつつ馬車へ届くようなものへと変化してきた。


「……………………」


闇の展開。

俺の闇に、そんな炎は届かない。

そう信じる事が、魔道だという。


炎の中を通り過ぎて、そのまま一直線に黒ローブへ向かって駆け寄る。

魔術が効いていないと見て、相手の黒ローブも焦りだした。どこかに繋いでいたのか、慌てて馬の背に乗り、そのまま何処かへと逃げ出そうとしていて。


「逃がすかっ!!」


右手に魔力を溜め、圧縮して放つ。

黒いレーザービームのようなその一撃は、その黒ローブの魔術師を飲み込んで、空の雲にまで大穴を開けた。


「…………………」


岩をゆっくりと登る。

そこに、大の字になって気絶する魔術師を見つけて。ため息を一つ吐いて、その魔術師を縛り上げる。


物理面に作用させない、精神とか、そういう部分への直接攻撃。元の世界で、漫画とかに出ていたやつだ。うまく行くかと思って試したんだけれども、本当に上手く行くとは……。

威力は拡散させたし、死んでしまう事は無いと思うのだが。


とりあえず、コイツを突き出せば臨時収入が手に入るだろう。


「……………………」


振り返って、馬車までコレを担いで運ぶのだと思うと、少しだけ挫けかけたけれども。

……頑張れ、俺!!



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