世界に嫌われている
ストレスと現実逃避で出来たお話。初投稿作品なので読みにくい所や意味不明なところもあると思いますが、温かい目で見てもらえると嬉しいです。
「貴様の身分を剥奪し、魔の森への追放の刑に処す!」
赤髪の王子、ファンネル殿下がこちらを睨みながら怒鳴る。殿下の隣にいる姉も、周りの貴族達も私を蔑むように睨んでいる。何が起こったのか、何故こんなことを言われているのか意味が分からなかった。私はただ侯爵家の娘としての務めを果たしただけなのに。どうしてこうなってしまったのだろう?
◆◇◆
ベリル侯爵家の双子の娘。社交的で明るい姉のリーゼリア。お淑やかで物静かな妹のシャーロット。私達姉妹は正反対な性格をしていた。そして容姿も似ていない。リーゼリアは母譲りの金髪碧眼で、その明るさもあって太陽のように美しいと言われていた。対する私は、父方の祖母譲りの黒髪黒目。美人ではあるが、姉と比べると存在感が少なく地味と言われていた。両親はあまり私に関わろうとしない人だった。特に母親は私を見ようともしていなかった。私に嫌な思いをしていたのか、単に自分に似た容姿の姉の方が可愛かったのか。それは分からないけれど。両親に自分のことをもっと見て欲しくて、私は小さいながらに本を読み勉学に励んだ。人見知りで社交が得意じゃない私にはそれぐらいしか両親の気をひけそうになかったから。でも両親がそんな私を可愛がることはなかった。
私はリーゼリアがいつも羨ましかった。双子なのに何もしなくても可愛がってもらえるリーゼリアが。
私は七歳の時に病にかかった。一週間ほど高熱にうなされたが、後遺症も無く無事に回復した。その後、療養という形で私は祖母の治める領地の別荘に送られた。祖母は私にとても良くしてくれた。厳しいところはあったけれど、私自身のことをちゃんと見てくれる人だった。
「あなたには勉学に励む勤勉さと知識を吸収する頭脳があります。でもそれだけでは駄目。それを発揮することが出来なければ宝の持ち腐れです。知識を詰め込むだけではなく、それらをどう使いこなしていくかも考えなさい。」
「民の税で生きている私達貴族には、領地を守り栄えさせる義務があります。しかし人間一人に出来ることは限られています。人と関わり、人を使い、人と協力することで一人では出来ないことを可能にします。そのための手段の一つが社交です。それを忘れてはいけません。」
祖母はいつも私に言っていた。自分にも他人にも厳しくて真面目で本当は愛情深い人。そんな祖母が私は大好きだった。祖母の言葉の一つ一つが私にとって大切な宝物だった。だから療養が終わっても、私は祖母と共に暮らしていた。家族には毎月手紙を送っていたけれど、返事が来ることはなかった。
◆◇◆
状況が変わったのは十歳になった時。王家がベリル侯爵家の娘を婚約者として迎え入れるという話が上がった。王子と同い年で王家に嫁げる身分の高い娘、権力のバランスが取れる家として我が家が第一候補として挙げられたらしい。両親はリーゼリアを婚約者として据えようとしていたようだが、先王陛下がもう一人の娘にも会ってみたいと言ったらしく、私は強制的に王都の屋敷へと連れ戻されることになった。
三年ぶりの王都。三年ぶりの我が家。三年ぶりの家族。三年ぶりに会ったリーゼリアは美しさにより磨きがかかっていた。三年ぶりに再会した家族は煩わしそうに私を見ていた。正直気まずい。陛下達との謁見が終わったらすぐに祖父母の元へ帰ろう。
国王陛下と王妃殿下の謁見は挨拶をした程度ですぐに終わった。逆に先王陛下の謁見は長かった。先王陛下は祖母のことを知っていて、祖母似の私に懐かしさを覚えたらしい。祖母が元気にしていることや、祖母に教わったことなどを話すととても嬉しそうにしていた。
「シャーロット嬢は王妃になりたいか?正直に申せ。」
先王陛下がそう聞いてきた。だから私は正直に言った。
なりたくないと。
自身の性格は王族に嫁ぐにはふさわしくない。この国の女性の頂点に立てるような人間ではないと強く言った。自分は領地で民と共に過ごしたいと。
「…そうか。そなたは本当に祖母に似たのだな。」
そう言った先王陛下はどこか寂しそうな顔をしていた。
◆◇◆
婚約者はリーゼリアに決まった、筈だった。正式決定する直前、リーゼリアの具合が悪くなってしまったのだ。私が原因だと両親に言われ、私はすぐに領地に帰された。私が帰ってからもリーゼリアの具合は回復せず婚約は保留となった。その後、一年経っても回復しないリーゼリアに代わり私が王子の仮の婚約者となった。
「お前と王子の婚約は仮のものだ。リーゼリアが回復したら、すぐにお前と王子の婚約は破棄される。覚えておけ。」
「私のリーゼリアに何をしたの!この疫病神!」
父、母の言葉。どうしてこんなに私は悪く言われているのだろう。私が何をしたと言うの?私はあなた達の実の子なのに。ただ家に帰ってきただけなのに。この人達にとって、私は家族じゃないんだなと悲しくてたまらなかった。
「リーゼリアに劣るお前が私の婚約者とは。どんな汚い手を使ったのか知らないが、私はお前を婚約者とは認めないからな。」
「私はリーゼリアが回復するまでの仮初めの婚約者です。リーゼリアが回復したらすぐに婚約破棄して下さいませ。」
王子との初めての会話がこれだ。人見知りな私だったけど、王子の言葉には正直キレた。私だってこんな婚約なんて嫌だ。王子に対して愛情も友情も芽生えなかった。
私の味方は昔から仕えてくれている乳母と祖母と先王陛下だけだった。祖母は腰が悪かったから王都まで来ることは無かったけれど、手紙はよく届いていた。祖母にこの状況のことを相談は出来なかった。仮とはいえ王子の婚約者になるのは名誉な事。それに不満を覚えるなんて、ここまで自分を育ててくれた祖母を裏切ってしまうような気がして、弱さを見せられなかった。
でも祖母は全て分かっていたようだ。この婚約が誰にも望まれない仮のものだということを。この婚約の破棄を申し出たいこと。しかし王家との契約の為にこちらから破棄出来ないもどかしさ。ベリル侯爵夫妻に対する怒り。何も出来ない自分に対する怒り。そして私が領地に帰ってくるのを待っていると。その時はこの小さな領地の次期当主になってほしいと。手紙には何度も書かれていた。リーゼリアが回復して、円満に婚約破棄をして、祖母の家に帰ることだけが私の希望だった。
◆◇◆
仮の婚約者とは言え、王子の婚約者として公務を果たさなければならない。公務を果たすためには王妃教育を受けねばならない。私は毎日無駄な王妃教育を受けた。学問は元々好きだったし、作法に関しては祖母に叩き込まれていたので大丈夫だった。王子の婚約者は書類仕事もあるようで、その勉強もした。社交は苦手だし嫌だったけど、祖母の言葉をいつも思い出して励んだ。
そんな無駄な日々が二年を過ぎた頃、先王陛下が亡くなられた。陛下はこの二年、私にとても良くしてくれた。週に一度、私を離宮に呼び妃教育と称して二人だけの小さなお茶会を開き私を労ってくれていた。
この城でたった一人の味方。最後まで私が王妃となることを願っていた方。祖父のような先王陛下。そんな方が亡くなって、正直絶望した。頭の中がぐちゃぐちゃだった。だが私情で妃教育と公務を疎かにするわけにはいかない。私は侯爵家の娘なのだからと昼間は必死に取り繕って、夜中に一人で泣く日々が続いていた。
先王陛下が亡くなって半年後、リーゼリアの体調が少しずつ良くなっていた。
◆◇◆
リーゼリアの病が快方に向かっていると聞かされた私は、本当に嬉しかった。リーゼリアさえ良くなれば私はここにいなくて良いのだから。私はリーゼリアに近付くことは許されなかったけれど、使用人達が嬉しそうに話していたので本当に良くなったのだろう。
遠目から見ただけだが、病にかかって血色の悪かった顔も痩せてしまった体も少しずつ明るくなり元の状態に戻っていた。
そして、リーゼリアが完全に回復したところで私と王子の婚約は破棄され、王子はリーゼリアと婚約した。真の婚約者お披露目会という名のパーティーが催されることになった。私はすぐに祖母のところに帰りたかったが、両親にパーティーに出るようにキツく言われ嫌々出席した。
◆◇◆
そして冒頭のように私への断罪が始まった。私がリーゼリアに呪いをかけ彼女を病気にした原因だと言われているのだ。私は呪いの魔法なんて使えないし、リーゼリアを苦しめても得することが無い。どうしてそんな考えに至ったのだろう?
「リーゼリアがいつも言っていたのよ。夢の中であなたに苦しめられているって!」
「いつもシャーロットが夢に出てきて私を酷いことするの。あなたは私に呪いをかけていたんでしょ!」
「私はそんなこ」
「黙れ、この悪女が!」
発言も許されないのか私は。リーゼリアの病は本当に原因不明だった。高名な医師に診てもらっても、教会の神父に診てもらっても原因が分からなかったのだ。しかも夢に私が出てきたからという理由だけで私が犯人にされるのか、ふざけるな。
「シャーロット・ベリル!実の姉であるリーゼリアに呪いをかけ苦しめた魔女め!貴様の身分を剥奪し、魔の森への追放の刑に処す!」
魔の森への追放は死刑と同罪。いや死刑よりも重いかもしれない。毒杯やギロチンでの死刑であれば一瞬で終わり、どんな重罪人も最終的には教会によって共同墓地へと埋葬される。しかし魔の森への追放された者は魔物に食い殺されるだけ。この刑に異を唱える者はいなかった。私は本当に世界に嫌われているようだ。
反論しようにも発言も認められない。もしも私が逃げればお祖母様が咎を受けるかもしれない。私には何も出来ないのだ。魔の森で死ぬことしか許されていない。私はもがくことを諦めた。侯爵家の娘として必死に務めを果たした結果がこれなのだから。
騎士が私に手枷を付け私を連行していく。貴族達は邪悪な笑顔でそれを見届けた。
◆◇◆
私はそのまま粗末な馬車に乗せられ魔の森へと連れて行かれた。魔の森に着く直前に馬車から降ろされ、馬に乗った付き添いの騎士に付いて歩く。私はこれから森の入り口に到着すると、騎士が馬から降りてきた。
「シャーロット嬢、最後に言い残すことはあるか?」
「お祖母様に、乳母に、感謝と謝罪を…。」
そうかと騎士が呟いたかと思うと、騎士は剣を抜き私の髪の毛を切った。
「この髪と、その言葉。シャーロット嬢の祖母君と乳母に届けよう。」
「ありがとうございます。」
私はきっと人に嫌われて憎まれて魔物に食い殺されるために生まれてきたのだ。そんな私を大切に育ててくれた二人に感謝の気持ちが伝わるならそれで良い。もう私は生きていたくない。この世界にいたくない。私の冤罪を晴らすことは出来なかったけれど、もう良いのだ。私は生きることを諦めた。
「ありがとうございます、騎士様。」
本来なら死体を遺族へ返すことも出来ない追放刑。だがこの人は私の髪を家族に届けてくれる。私を魔女ではなく、一人の人間として葬ってくれるのだ。騎士に感謝の言葉を告げて、私は魔の森に入っていった。
ご拝読ありがとうございました。