第三話 門番の給料は日給6,200円
【アオジル村】
「…! …!……!」
ふと、何かが聞こえた気がした。
「お…! …い…!…!」
はあ…やっぱり聞こえる。門の外からだ。こんな時間に外でこんな大声で叫ぶヤツなんて、気狂いか酔っ払いか助けを求めるヤツくらいだ。どいつもこいつも面倒事ばかり運んできやがる。
「おーい!おーい!誰かいないか!怪我人がいるんだ!」
そらみろ、一番面倒なやつだ。変なヤツなら追っ払えばいいが、まともな奴だとこっちもまともに相手しなきゃいけねえ。
何で俺が門番やってる時に限ってこう嫌なことばかり起きるかなあ…。まあ仕方ねえ、仕事だ仕事。とりあえずあれだ。まず何があったか聞くんだったな。
そう思って門の横の小さな窓を少しだけ開けて外を伺う。
「お!門番がいたか!灯がついていないから誰も居ないのかと思っていた!」
そいつは見るからに怪しいやつだった。ここら辺の土地の事情を知らないってことはよそ者ってことだろうが、旅をするのには明らかに少ない荷物。黒いローブに黒い鍔広帽子。左手には一方がぐるぐると渦巻いた杖を持ち、右手で背中におぶった人間の男を支えている。
「俺には『夜目』があるからな…そう言うアンタは魔法使いか。どうしたよ」
そう、こいつの周りにはあの何とかって言うゴースト系の魔物みてえな炎の塊がふよふよ浮いてる。今じゃ『ランプ』っつう便利なモンが流通してるってのに、そんなめんどくせえ事やって灯を確保するのは、大抵魔法使いって相場が決まってるんだ。
「いやな、私は旅の者なのだが、今夜の寝床を探しているうちに妙な物音がしてな?なにか気になって物音の方へ行くと、なんとこの男が『オバケ』に襲われておるではないか!そこで私のこの炎魔術でな?こう…ボン!とやっつけてやったのだが…」
「『オバケ』?…ああ、あの廃村に住み着いてる変な魔物か。アイツをやっつけられるなら大したもんだ。しかしアイツは何度やっつけても暫くするとまた現れるからな…まあ、いい。つまりはそいつの面倒事見ろってことだろ?」
「ああ。すまない…生憎と怪我人を休ませられる装備ではなくてな。頼めるか?夜目のきく傭兵屋よ」
ああ、そうだろうな。まったくどうやってこんな辺境の土地までそんな装備でやってこれたのか……。めんどくせえが仕方ねえ。
「おう、別に構わねえぜ旅人の魔法使いさんよ。こんな田舎の村じゃ退屈してたとこだ。素性知らねえ怪我人1人面倒みる位が丁度いいや。取り敢えずそいつをこっちに寄越しな、今門を開ける」
「すまんな。…では!頼んだぞ!」
きっ、ぎぎぎ……
「おーう旅人さんや……あれ?」
いない?なんだ、おかしな夢でも見てたか?
いや、目線を下げると、確かに門の外に旅人に背負われていた人間の男が寝っ転がされている。
相当急いでたのか?こんな時間だから休んでいくかと思ったが。まあ仕方ねえや取り敢えずこいつを仮泊部屋にでもぶち込んどくか。見た感じ血もそんなに出ていないし、ここら辺にいる毒持ちの動植物にやられたときみてえな感じはねえし。ここ最近は平和なもんで賞金首みたいな輩も出てない…
後何か確認する事あったかな?まぁいい、こいつが起きてから色々話を聞くとしようか。