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こうして俺は旅立った

就職先を見つけるため日々奔走していた。

そのはずだった。


訪問した企業で控え室に通され、約束の面接時間まで座って待っていると黒スーツを着こなした男が入って来た。まだ時間まで20分はあるのだが早めにスタートするのだろうか。

黒スーツについて行くと会議室なようなところに通された。

中にはテレビでみたことあるような政治家たちが厳しい顔をしながら座っていた。


なんで?


テレビのドッキリか何かなのか。

普通に生活していれば絶対に会わないであろう政界の重鎮たちがなぜこんな雑居ビルの会議室にいるんだ。


「島本守くんだね」


日本のトップ、総理大臣に名前を聞かれ緊張で声が裏返る。

「は、い!」

なんで総理大臣なんかに名前を呼ばれるシチュエーションに今この時に俺が身を置いているのか、皆目検討がつかない。

「聞きたいことは色々あると思いますが、とりあえずお座りください」

総理大臣にそんなことを言われては座るしかない。というか立っていられない。

席に座ると早々に総理大臣がなぜこんなところにいるのか。さらには他の政界の重鎮たち含めこんなところにいるのかが説明された。

正直頭に入ってこない。何いってんだこの人。というかこのおっさん。そっくりさん集めての就活生を驚かそうという会社の悪ふざけなのか。多分そうなんだろうな。


おっさんの説明を要約すると、一般には公にはされていないが、人間界の他に二つ世界がある。

それが天界と魔界。

はるか昔から関わり合いを持たずに現代まで暮らして来た。だが、10年前天界の発案によりあるゲームが始まったらしい。それが魔界に人間を送り三年生き残ることができれば。その人の出身国民全員を天界に移住させてくれるというゲーム。なんでも天界に人口が少なくなって来ているらしく、天界人消滅の危機らしい。それならゲームなんかせずとも普通に移住させてくれと言いたいところだが、天界はいわゆる神の国らしく簡単には住まわせてくれないそうだ。なおかつ魔界の住人、いわゆる悪魔たちは神の国にはいれたくないという身勝手な理由から魔界で成果を残した人間を移住させるということになったらしい。

この身勝手なゲームに対して人間側の拒否権はない。理由は単純。人間では一国、いや世界が一致団結したとしても天界人一人にすら勝てないから。そもそも人間から天界、魔界に行くことや物資を送ることはできないらしく。不定期に向こうからこちらの世界に会議をしにくるのだそう。


結局力が正義なのか。


魔界に送る人間は毎年国が交代制で自国から人を派遣していたらしい。そして10年目の今年は日本が選ばれたと。正直話をする人って大事だと思う。総理大臣のそっくりさんじゃなかったら失礼だろうがなんだろうが速攻家に帰ってるもん。

ここまで言えばわかるとは思うが、今年自国民を派遣しなければいけない日本の派遣される自国民が俺になった。

いや、総理大臣のそっくりさんだと思いたかったけど、あまりにも空気が真剣だし、テレビカメラ見当たらないし。会議室の周りのドッキリにしてはあまりにも厳重な警備体制を見ると本物なんだなって。


派遣される日時は一週間後の12月25日とのこと。理由はただの日本政府の気休めに近い願掛けらしい。

聖なる夜に旅立てば悪魔に立ち向かえるんじゃないかと。


そんなわけあるか!


これまで派遣された人がどうなっているのかわからない。七年目までに派遣された人達は生き延びていないとの結論は出されているらしいが。

魔界送り=死亡との話を聞きたくなかったが、この話を聞かされた時点で俺には選択肢はなく魔界に送られる。すでにこの時点で俺は戸籍上では死亡との扱い、すでに家族には交通事故でなくなったとの報告がされているらしい。

結局立場が弱いものは強いものには逆らえずやられるがままのようだ。

せめてもの救いは家族にはかなりの大金が送られること。

自分にはお金が入らないのによかったと思えるのは、大学までいれさせてもらったのに退職し家族に迷惑をかけ続け、申し訳ない気持ちがあったからなのかもしれない。若いからやり直せるとはいっても、やり直しのチャンスがそこら中に転がっているわけではない世の中に絶望していたからかもしれない。


12月25日。

俺は今まで育ててもらった親ではなく、気が合い楽しい時間を過ごした友達でもなく、一回しか話したことのないおっさん達に見送られて魔界へと旅立った。








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