9話
「ゴブーク退治?」
「はい」
翌日ギルドへ来た僕たちに姉御が用意してくれたのは、ゴブークとかいう魔物の退治だった。
ゴブークとはゴブリン的な魔物とオーク的な魔物の交配種らしい。てかあの2つって全く似てないのに近親種だったのか? いや魔物だから原理がことなるのかもしれない。
オークに近い力とゴブリンのような身軽さ狡猾さを持っており、その戦闘値は250前後とのこと。
今のところ町までは降りてきていないから直接被害がなく、他にやるべきことが多いため後回しにした案件だそうだ。それに同じくらいの戦闘値の人はいなくて上の人はもっと厄介な仕事を行っており、僕らより下では危険である。なるほどね。
放置したら実害が出る可能性はあるし、やっておいたほうがいいだろう。
「じゃあそれで」
「ありがとうございます。助かります」
姉御はにこりと微笑んだ。よしじゃあ出発だ。
「あのあの、お二人はどのような関係であらせられるろえす?」
ゴブークがいると思われる谷へ向かう途中、また彷徨う舌でナルが訊ねてきた。
うーん、ナルだったら本当のことを言っても大丈夫だろう。今後いつまで一緒にいるかわからないけど、この子が僕らを利用するとは思えないし。
「ニミは神に選ばれ、魔王を倒しに行く勇者なんだ。んで僕は神からニミをサポートするよう送られてきた神の使徒なわけ」
本当のことだよ。だからその胡散臭そうな目はやめておくれ。
「前に神の衣とか言ってましたけど、その設定は続くんですね。では仮にそれが本当だとしまして、そうすると戦うのはニミさん?」
「いや、戦うのは僕だよ」
「えっ?」
「えっ」
…………あっれぇー?
「でもそれは……そう、あれだ。僕の能力は他人が応援することで強くなれるってものだからだよ」
「よくわかりません」
うん、僕もぶっちゃけよくわかっていない。ほんとどういうことだよこれ。
「でも……うーん、僕が戦うことでニミを守れるのなら、僕は戦い続けるつもりだよ」
「か、かっこい……じゃ、じゃなくて! あ、あの、充輝さん! わ、私のことも守ってくれますか?」
「んー? ナルが僕の傍にいる限り、全力で守るから安心していいよ」
なんてカッコつけてみたら、ナルは口元を抑え急に顔をそむけた。
実はナルの心に毒があって、なにかっこつけてんだクソガキが。お前昨日ビビってチビりそうになってただろ、くらいのことを思っていたり……なんてことはないよね、流石に。
「ま、まあ僕の力が及ぶ限りだけどね。僕自身そんなに強くないし! あはははは……」
一応フォローしておこう。セルフフォローとか更に情けないにも程がある。
……やばい、話題を変えよう。
「そういえばナルは魔法を使えるんだよね! すごいなぁ」
「わっ、私の魔法!? あ、あれはただの石魔法で、そんな大したものじゃないですっ」
「石魔法?」
よくわからないが、多分石ベースの魔法なんだと思う。
ストーンファイアだっけ? 焼けた石を出していたのを覚えている。
あまり攻撃には向かないよなあれ。服の中とかに入れれば大ダメージを与えられるだろうけど、普通に当っても石をぶつけられて痛い程度だ。火なんて一瞬触っただけじゃ熱くない。
まあナルも結局応援さえしてくれればいいのだから使えなくてもいいんだけど。
……ん? 今シャツを引っ張られたような。どこかにひっかけただけかな。
──おっ? おっ?
これは引っかかってるんじゃなくて引っ張られてる。その主はニミだ。
「ど、どうしたの?」
「……私とも話してよ」
ああごめん! ひとりで寂しかったんだね。僕が悪かった。
ニミのためにこの世界へ来たんだからニミを優先しないといけないな。
「じゃあ折角だし女の子同士で話をするといいよ。女子トーク」
「そ、そうじゃない……」
あれ? 違った?
僕となにか話したいってことかな。急に振られても話題がないなぁ。
「……えーっと、趣味はなにかな」
プイと僕から顔をそらし、ニミはナルに話しかけた。なんか選択を間違えたっぽい。
「んっ、魔物っ」
谷に差し掛かったところでニミセンサーが反応。早速お出ましになったか。
僕らは岩陰に身を潜ませつつ、魔物の姿を探す。
いた。近くに3匹、離れたところに4匹。計7匹か。
とにかく先に3匹をどうにかしないと。7匹相手じゃ分が悪すぎる。
まず石を投げつけ、気付いたやつがこっちへ向かってくる。そしておびき寄せるのがいいだろう。
プランが決まり、ニミたちの応援が始まる。戦闘値が上がったから石も命中しやすいだろう。えいっ!
思い切り投げた石はゴブークの頭に当たり、めり込んでそのまま絶命。力の加減を間違えたけどまあいいか。
「おらもう一丁!」
突然のことにパニックを起こすゴブークへ、今度は姿を現せ声をかけてから投げる。
さすがに避けたか。でもこれにより仲間が死んだことを理解し、怒りを露わに突進してきた。
猪突猛進だな。これは倒しやすい。
──まあ、余裕だったね。一撃だったし説明するほどじゃない。
そしてレベルも5になり、待ちに待った最適装備先生! お願いします!
……げっ、またポンポンじゃないか! もう持ってるよ!
違うそうじゃない。これはあれだ、ナル用だ。これでナルの応援が1.4倍。レベルが上がり戦闘値が112になったから……えーっと、313か! 300台に乗った! これで余裕ができた!
騒ぎを聞きつけやってきた4匹もまとめて倒せ……ってちょっと待って、1匹多い! しかもでかい!
どっから出てきたんだよ。谷はくねっているから陰に隠れていたのか、ひときわでかいゴブークが奥からやってきた。戦闘値は350! 無理!
「ふたりともまずい! 逃げ────」
逃げろと言おうと思ったが、最後まで言えなかった。ナルは逃げられるだろうか。前回仲間に見捨てられた彼女がもしはぐれてしまったら……。それに離れてしまうと応援の力が切れてしまう。それだといざというとき戦えない。こうなったら賭けに出るしかない!
「ごめんふたりとも! 怖いかもしれないけど逃げないで! 絶対に守りきるから!」
「「はいっ」」
まずは手前の4匹。今の僕なら余裕だ。
そしてさっきは2匹目でレベルが上った。僕は普通のレベルよりも上の敵と戦っているから経験値の上がり方がいいはず。
1匹、2匹……3匹目! まだレベルが上がらない! やばっ、でかいのが4匹目に追いついてきた!
こうなったら一か八かの勝負だ! 僕らのことをでかいのに任せ、自分は退こうとする4匹目へ短剣を投げる! よし命中! さあどうだ!
『レベルが6になりました』
助かった! でもまだだ。最適装備先生、早く!
『チアコスチューム上(青)・応援力を1.2倍』
よっしゃあ! 僕は出てきたものを乱暴に掴み、ナルへ渡す。
「着替えて!」
「は、はい!」
それと同時に前へ走り、でかいゴブークが辿り着く前に死んだゴブークから短剣を引き抜く。
どうやら戦闘値が高いからといって全ての動作が上回っているわけじゃなさそうで、足はまだ僕のほうが速いらしい。だけどそれは裏を返せば攻撃力がとんでもないということになるのだろう。すぐ回避できるようにしないと!
「着替えました!」
間に合った! 計算している余裕なんてないけど360位はいってるはずだ! これできっと倒せる!