7話
『レベルが4になりました────』
はぁ、どうにかノーダメージだ。一瞬だけ応援の範囲外に出たときはどうしようかと思ったけどなんとかなった。
相変わらず戦闘値の上がりは大したことない。でも110になったのはちょっと嬉しい。応援レベルなんてまたなにもなしだしなぁ。
そして最適装備大先生はいつも通り。今度はニーソとスニーカー。
ニミの応援は2倍になり、僕はニミだけいればオークもどきを倒せるようになっていた。強い!
ちょっと喜んでいたところ、急に先ほどの少女が飛びついてきた。
「あ……あで……がどう、ござびまじだぁ……」
涙で顔をくしゃくしゃにしながら生きる喜びを伝えてきた。
とりあえず話を聞く状態じゃなさそうだし、暫く待たないと。
「…………改めまして、ありがとうございました。私は石魔術士のナル・ドダックです」
泣き止んだ少女はぺこりと頭を下げ、ポニーテールが振り回される。つり目だが気は強そうに感じない、なかなか可愛らしい子だ。
「どうしてあんなところにひとりで?」
「えっと、他のパーティーに誘われたんです。数が多ければ大丈夫と言われて……」
「じゃあ他のメンバーはもう……」
「無理だと思った瞬間、私を残して逃げました」
……最悪じゃないかそれ。最初からトカゲのしっぽとして連れて来られた可能性もあるぞ。
「ギルドに報告した方がいいかもね」
「だけど向こうがみんなで逃げた、遅れるとは思わなかった、なんて言ったらそれまでですよね……」
うぬぅ、証明するすべがないもんな。仕方ない、姉御に話すか。この子もかわいいし、あの人ならきっと無碍にしないだろう。
じゃあ報告に付き合いたいし、僕らも帰ろう────っと、その前に。
「ニミ、これも着けて」
「これは?」
「ニーソ……長い靴下と靴だよ」
ミニスカにアンスコよりは全然抵抗がないらしく、ニミは言われた通り早速着用した。それをナルはじっと見ている。
「ニミちゃんはなんであのような格好を?」
「ん……あれは神の衣なんだ」
間違ってはないよね。神がくれたスキルで現れているんだから。
「着るとどうなるんです?」
「あの服を着た彼女を通して神の力が僕に加わり強くなれるんだ」
という言い訳をさっきから考えていたのだが、早速役に立った。あっヤバ、神のことは内緒だった。
ま、いいか。この子が僕らを利用しようなんて考えないだろうし、神の使徒だということは伏せているんだから。
それより山を降りる間はナルにポンポンを持っていて貰おうかな。今の僕の戦闘値が110。ニミの応援で2倍、ナルで1.2倍で264。だけど1.8に1.4を掛けると……277かな。こっちのほうが倍率はいい。
『チア装備をコンプリートしました。装備が“チアセット(赤)”になります』
えっ!?
『チアセット(赤):応援効果が1.8倍』
下がってんじゃん! ……いや、ニミ自身のベース値が1.2だから合計2で変わってないか。だけどしまった、これじゃ分散できない。
これじゃメリットが……あるか。アイテムとして換算したら1つになるから収納が空く。4分の1になるのは大きいな。
「充輝さん! 充輝さん!」
「ど、どうしたの!?」
考えごとをしていたところ、急にニミが叫ぶから驚いてしまった。
「この靴、凄いです! とても軽くて柔らかくて、まるで裸足みたい! でも全然痛くないんです!」
ああうん、スニーカーはそういうものだからね。ニミの元々履いていた靴は……カチカチでぶかぶか。そして重い。これじゃかなり動きが制限されてしまう。
さて、はしゃぐニミが見れて満足したし、帰るか。
「ただ今戻り……」
「おかえりニミちゃ……なに!? 赤っ! 赤可愛い! ちょっと充輝さん! ニミちゃんになんてうらやまけしかわハレンチな格好させてるんですか! 今日はこの格好のままうちへお泊りお願いします」
姉御がもの凄い勢いでこちらへ来たと思ったら散々捲し立てたうえ深々と頭を下げてきた。やっぱいろんな意味で凄いなこのひとは。
「それはそれとして、ちょっと僕の話を聞いて欲しいんだけど……」
僕はナルの一件を姉御に話した。
「────なるほど、そのナルちゃんが囮にされ、みんな逃げたと」
「そうなんですよ」
「はっきり言うと私はナルちゃんの味方をしたいのよ。でもギルド員という立場上、片方の話だけを鵜呑みにするわけにはいかないの」
姉御の職員らしい真面目な一面を見てしまった。
その言い分は正しい。僕もあのときはカッとなっていたから相手が悪いと思っていたが、向こうにもやむにやまれぬ理由があるかもしれない。両方の話を聞くべきだ。
「確かにそうですね。ええっとドダックさん?」
「えっと、ナルでいいですよ」
「それじゃナル、相手はどんなパーティーだった?」
「若い男性の3人組です」
「はああぁぁ!?」
姉御の酷い声がギルド内に響く。やはり周囲の人がこちらへ振り向いていた。
「男3人で女の子を犠牲に!? ごめんやっぱさっきのなし。私は全面的にナルちゃんの味方をするわ! おい、ヤロウども!」
『ハイ! 姉御!』
すごい、あちこちにいた男性ギルド員が一瞬で整列した。足を揃え手を後ろに回して、まるで軍隊みたいだ。イエスサーとか言いそう。いやイエスマムかな。
そして姉御はナルの肩に手をかけ、ギルド員へ顔を向ける。
「この子、ナルちゃんと組んでたヤロウ3匹を知ってる奴はいないか!?」
姉御のドスのきいた言葉に、ごつい男の人が恐る恐る手を上げた。
「そいつらなら今朝、困った感じのその子を強引に誘っているところを見やして……」
ごつい人は突然吹き飛んだ。姉御が蹴りをいれたのか。さっきまで僕の横にいたはずなのに……いつの間に接近してたのか見えなかった。
そして姉御は壁に叩きつけられた男の髪をつかみ、持ち上げた。
あのごつい人、結構体重ありそうなのに片手で……だと……?
「見ててなんで助けなかったクソボケェ! テメーから敷物にしてやろうか? アァ!?」
「ズ、ズビバゼン……」
大の大人が泣いてしまっている。なんなんだ姉御って。
げっ、姉御の戦闘値、1580!? やばい、僕もちびりそうになった。
「まあいい。んで、そいつら誰だ?」
「ご、ゴルミーとカーシス、クルーズでさぁ」
「……ああ、最近狩りを始めたクソガキどもか。おいヤロウども、連れてこい!」
『ハイ! 姉御!』
みんな蜘蛛の子を散らすように建物から飛び出していった。この町はそれなりの広さがあるけどあの人数なら大して時間もかからず見つかりそうだ。
僕もそうだが、ナルはその光景を見て震え上がっている。
ニミは普通にしている。案外大物なのかもしれない。
「さて」
姉御はこちらへ振り向き、僕とナルはビクッと反応する。
「そんなに固くならなくていいのよ。それよりナルちゃん、見たことないのだけど、よそから来たの?」
「は、はい。一昨日着いたばかりです」
「だと思った。こんな可愛い子がいて知らないはずないもの」
「ひょっとしてギルドの女の子みんな知ってるんですか?」
「ギルド? この町の女の子は全て把握しているわ」
すげえ姉御。姉御なだけはある。
「それで────」
「姉御! 見つけてきやした!」
ギルド員数人がボコボコに顔を腫らした少年3人を簀巻にし、僕らの前に転がした。