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6話

 荒くれとの腕相撲勝負で勝ってしまった。

 そして店内は水を打ったような静けさ。や、やばい。

 なんかよくわからないけど凄いやばい気がする!


「ギャーハハハ! 本気で勝っちまいやがった!」

「おうガキ! すげぇじゃねえか! 酒飲むか?」


 あ、あれ?

 こういう場面って勝ったら全員で仕返しするとかそんなパターンじゃないの?

 だけど助かったみたいだ。


「さっきも言ったけど僕は未成年で……」

「チッ、じゃあ肉だ! 肉食え! オレのおごりだ!」

「あ……ありがとうございます」

「おい、テメーもわざと負けるつもりでなにマジで負けてんだよ!」

「う、うっせえよ! てかガキ、見た目と違ってなかなかやるじゃねぇか。気に入ったぜ。おら持ってけ」


 勝負した荒くれの人は金の入った袋を僕に投げよこした。ドシャリと重い感触が手に伝わる。かなり入ってそうだ。



 話をしてみたが、みんなとてもいい人だった。こんな安宿にひとりで泊まっているガキなんてきっと訳ありなんだろうと。このご時世だから町が魔物に襲われ、なんとか逃げてきたんじゃないかとか勝手に妄想され、宿をとってるのを見かけたとき、みんなで小銭を集めていてくれたらしい。

 でも小銭は小銭。けっこう量はあっても金額はたかが知れている。

 それでもこれは心のこもった金だ。実際よりとても重い。大切に使わないと。


 僕は荒くれさんたちにお礼を言い、とてもいい気分で寝ることができた。




「────というわけでニミにスカートを買ってきました!」

「えっ? えっ?」


 チア服に合わせるにはちょっと長めだが、同じくらいの赤さのスカートだ。荒くれさんたちありがとう。

 ニミ、ポンポン、チア(上)で1.6倍。ちょっとした魔物なら……てかニーバなら倒せる。これで脱安宿。

 荒くれさんたちはいい人だが、あの宿は水浴びくらいしかできないからきつい。この世界の今の季節はわからないが、日が落ちると肌寒いんだ。


 あとちょっと値がはったけど、スカートにスポンサーロゴを入れてもらった。『ARACLE(アラクレ)』と、ブランドみたいでちょっとかっこいい。チア(上)は僕が思った文字が入るらしく、白いラインに同じ文字を入れてみた。


 ニミはそれを着て僕と一緒に総合ギルドの受付へ向かった。



「来ましたね。さて────あらっ! ニミちゃん! かわいい服ね! 真っ赤で派手だけどなんかオシャレだわっ」


 ニミの服を見た受付の姉御……パディタさんだっけ? 彼女が褒める。でもまだ未完なんだよな。

 あと僕らは兄妹という設定にしてあるそうだ。その方が色々と都合がいいらしい。


「それで仕事は?」

「あっ、そうでしたね。充輝様……っと、充輝さんと呼ばせて頂きます。充輝さんに丁度良さそうな仕事がありますよ」


 おっウサギ狩りか?


 ……と思ったら違うらしい。アボーという牙の生えた野生の豚……つまり猪か。戦闘値はおよそ150前後らしいからなんとかなるかな。

 大人のアボーなら1匹1万ウォルツで売れるそうだ。数匹倒せば結構潤うな。よしやろう。


「あっ、それとこれを……」


 姉御がくれたのは、小さいポプリ袋のようなものだった。なんでも土の中にあるキノコから抽出したエキスが入っているらしく、この匂いをアボーは好むらしい。トリュフみたいなものか。

 昼食も買ったし、準備OK。よし山へ向かうぞ。




「────魔物っ」

「どこだっ」

「左前!」


 山へ入って2時間。僕らは順調かどうかわからないが、一応アーボを倒していた。

 こいつで2匹目だ! うりゃあ!



 『レベルが3になりました。戦闘値が3上がりました』

 これで107か……。うんー、まあ、うん。よしとしよう。


 『応援レベルが3になりました。応援の効果が20メートルから25メートルになりました』

 えっ、応援って有効距離あったのか! 危ない危ない。早めにわかってよかった。


 『最適装備がレベル3になりました。新たな装備が出現させられます』

 待ってたよ最適装備先生! よしもうすぐ出しちゃおう!


 『チア服(下)+アンダースコート:応援力を1.2倍』

 よぉしよし! 予定通りこれで1.8倍だ!

 さらばARACLEスカート。胸のロゴだけは残しておくよ。


「じゃあニミ、早速着てくれ!」

「えええっ……こ、これってスカート……? み、短いよ。その、見えちゃう」

「そのためにスコートがあるんだよ。ほら」

「えっ、これ、その……ぱ、パンツより小さいよ!」


 くっ、この世界の女性用下着はいわゆるズロースとかドロワーズといったものなのか。

 だがしかし1.2倍はそう簡単に諦められない。


「ニミ、恥ずかしいかもしれないけど、これは神の衣なんだ。着てもらわないと僕も力を発揮できない」

「う……わ、わかった!」


 ニミは顔を真赤にしながらも思い切りスカートとパンツを下ろした。ちょっ! 僕いるんだぞ! 慌てて顔をそむけてしまった。



「き、着替えたよ……」


 恐る恐る見る。まだ心臓がドキドキしている。

 お……おお、かわいい! 赤ベースのボックスプリーツに白のラインが入っている。


「い、いいよニミ! とてもいい!」

「う……うん……」


 これはやる気出るなぁ。もう暫く頑張ろう。




「────とぉ、これで5匹目!」


 今ので5万ウォルツ。安宿はもう卒業するとして、普通の宿が5千ウォルツで、そこそこいい宿の朝食付きが1万ウォルツだっけな。

 なんならもう少し狩りたいところだったが、ニミから止められた。

 これ以上は供給過多になり、腐らせるだけになってしまう可能性があるとのこと。ボク個人で持っている分には収納時計があるからいいんだけど、売れないんじゃしょうがないな。

 もし僕が肉屋とかなら捌いて非常食用にとかできるんだろうけど、あいにくそんな技術はないし。


 まあ仕方ないか。それじゃ、ぼちぼち帰るとするか……


「んっ、……人?」


 ニミの危険感知が捉えたのは……えっ、人?

 ニミは魔物だけじゃなく人為的な危険も感じ取れるのか。


「盗賊とか?」

「ううん……あっ、魔物も!」


 ニミがそう言ったとき、少し離れたところから悲鳴が聞こえた。どうやら自分だけじゃなく他人の危険も感じられるようだ。



「いやだぁーっ! 来ないでー!」


 必死に叫ぶ少女と、それを追うのは猪面の人型……オーク? でもイメージしてたオークと違ってなんか小柄だ。

 えーっと、少女の戦闘値は167。対するオークっぽい2匹は210と216。完全に勝ち目はない。


「ス、ストーンファイア! ストーンファイア!」


 少女が叫ぶと、鈍く輝く真っ赤に焼けた石のようなものがオークっぽいのに向かって飛ぶ。魔法か! 凄い!

 しかしかわされてしまった。速度もそんなに速くなかったから不意打ちでもなければそう当たらないだろう。


「た、助けないの?」

「助けたいのは山々だけど……」


 僕はニミの応援があっても192。とても勝てそうにない。ニミを危険にさらすわけにはいかないからここは……って、少女が僕らに気付いて向かってきた! やばい、MPKか!?


「お、お願いします! 助けて下さい!」


 少女は泣きながら懇願してきた。無理だ、こんな少女を見捨てるなんてできない!

 僕は必死に計算した。192に1.2を掛けると……230くらい! よし勝てる!


「わかった、助けるから僕を応援してくれ!」

「えっ!? あ、はい! 頑張ってください!」


 『あなたの……』『Yだよ!』よっしゃ来たぞ! 荒くれ以来の200オーバー!

 2匹まとめてはきついが、1匹ずつなら楽勝だ!

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