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5話

「じゃあちょっと聞きたいんだけど、魔ウサ……ニーバって魔物を倒したんだけど、これってなにか仕事になるかな」

「えっ、貴方様の戦闘値(笑)で倒せるニーバがいたのですか?」


 なんだろう、薄ら馬鹿にされているみたいだ。あまり話さないほうがいい流れだったけど、この人はニミの味方っぽいし、一応説明しておいたほうがいいかな。


「実は僕、ニミがいると戦闘値が上がるんだ」

「ハハッ、そんな話……いやでも神の……ちょっとこちらへ来て下さい。ニミちゃーん、おいでー」


 薬草を渡す受付にいたニミは、お金を受け取りこちらへ来た。



「あっ、姉御」

「ほら散った散った」


 受付さんは姉御と呼ばれてるのか。なんかそんな雰囲気あるな。

 んで、奥の部屋から人を追い出し、僕らを入れてから鍵を締めた。そしてまた先ほどの金属板を取り出し、僕に手を付けさせた。


「んー……、やっぱり104しかないじゃない」


 ああそういうことか。実際にニミが近くにいるとどうなるか知りたかったわけだ。


「ニミ、応援よろしく」


 よくわかっていないみたいなニミは、それでもポンポンを持って応援を始めた。


「なにそれ……えっ、145!? ほんとに上がってる……。確かにこれならニーバは倒せる……けど……」


 まだなにかひっかかるのかな?

 すると受付さん……姉御でいいや。姉御は僕に向かって祈るように手を合わせた。


 『あなたへの応援が届きました』


 おっと例の吹き出しが出た。とりあえず『Y』っと。ぬあっ!?


「ひゃ、174になった……」


 姉御が驚いている。あれ? ニミが1.4で、姉御が1.2・合わせて1.6で166になると思っていいたのに、どういう計算だ?

 ただ単にプラスされているわけじゃない? 人数が増えると追加効果が……いや、ちょっと計算してみよう。

 僕の戦闘値にニミの応援が1.4で、145.6。それを更に1.2かけたらどうかな……174.72! 端数切り捨てで計算は合う。つまり装備の倍率は加算だけど、人数は乗算になるわけか。

 やばい、これ人数集まればとんでもないことになるぞ。


「疑ってすみませんでしたー!!」


 姉御は片膝を付き必死に拝みだした。結構信心深い人だったんだね。


「そんな畏まらなくていいんですけど……」

「そうはいきません。これは貴方様を信頼する……つまり、信仰によって力を増しているわけですね。要するに貴方様は神に等しいということになります!」


 そこまで大袈裟なものじゃないんだけど……まあいいか。


「それでですね……」

「ああっ、ニミちゃんの魅力は神様にも通用する……まさしく神の子だわ!」


 神の子ではないと思うが、少なくとも僕には通用している。


「それは置いといて、ニーバなんですけど……」

「あっ! そ、そうでした! 今どちらに?」


 僕は腕時計の竜頭を回し、1分2分と動かすと、2つのニーバの死骸がどさりと落ちた。


「凄い……これが神の力……」


 姉御はまた祈りだした。人族神は結構大雑把というか俗っぽいからそんな信心いらないと思うよ。

 ひとしきり祈ったところで少し照れを隠すように咳払いをし、ニーバを確認しはじめた。


「首を落としてあるから血抜きはできてる……鮮度も良し……毛並みも普通と。これなら両方で1万ウォルツで引き取らせて頂けますよ」


 ここの金単位はウォルツなのか。でも1ウォルツってどれくらいなのかわからない。


「ところで安宿はいくらくらいで泊まれるんでしょうか」

「食事抜きなら3千ウォルツくらいです」


 1ウォルツ1円くらいで換算できそうだ。これはわかりやすい。1万あれば今日は凌げるな。これでニミにも────


「宿といえばニミちゃん、今日も泊まっていきなさいよ」

「あっうん。いつもありがとう」

「いいのいいの! ニミちゃんの寝顔見れるだけで……あれ、どうしたんですか充輝様?」


 思い切りコケてしまった。ちゃんと家の中で暮らしていたのね。

 聞き方が悪かったんだな。そりゃ他人様の家を宿だなんて言ったら失礼だよな。


「それじゃ僕は自分の宿をとってくるよ」

「そんな充輝様! 先ほどの無礼の詫びというわけではありませんが、せめて施させて下さい」


 そうは言われても……ぶっちゃけ断りたい。

 さっきはえらい剣幕でよくわからなかったが、よく見ればこの人綺麗なんだよな。そしてニミはかわいい。そんなふたりと同じところに居るだけで眠れそうにない。異世界初日の夜くらいゆっくり寝たい。


「あの、僕も一応男なんで、女性2人と同じところというのはちょっと……」

「いえ女3人ですよ。ルームメイトがいるので。あっ、その人は敬虔な人族神信者で教会勤めなんですよ」


 よけい悪いじゃないか! しかも姉御だって熱心な信者でしょ。

 人族神の使徒である僕に一体どんな施しをするつもりか気が気じゃない。

 ほぼ確実に僕は初物じゃなくなる。そんな気配が彼女から漂っている。


 正直に言うと施されたい。僕も男だ。綺麗な人にご奉仕してもらいたい願望くらいはある。しかしそうなったらニミに嫌われる可能性がある。それだけは避けたい。


「そうだ! 夜はちょっと神のところへ行かないといけないんだ」

「えっ……それは残念ですが、神様に仕える身としては必要なことなのですよね?」


 うんうんと頭を縦に振る。とても惜しい。勿体無いことをしていることくらいわかってる。だけど僕にはニミがいるんだ。こんな誘惑…………ぬぐぐぐぐ!


 あっ、こりゃ宿でも眠れないだろうな。悶々としたままくやしさで苦しむ自分の姿しか想像できない。




 宿に着き、ベッドへ寝転ぶと色々考えてしまう。日本はどうなっているのかとか、よく知らないけど一緒に来たみんなは無事なのかな、とか。

 ニミはかわいかったけど、結局彼女が戦うわけじゃないから、どちらかといえば僕が勇者じゃないの? とか。考えるとキリがない。


 ……それより腹減ったな。宿の入り口横が食堂だって言ってたっけ。泊まると割引になるらしいから行ってみるか。こういうところの食堂はセオリーとして荒くれ者がいたりするんだよなぁ。



 ────って、思った以上に荒くれてるぅー!

 なにここ、山賊酒場なの? バイキングの巣とかなの!? 荒くれ者しかいないじゃないか!

 みるからに汚物を消毒しそうな人たち。これはまずい、さっさと逃げないと。


「ん? おうコラガキ」


 目を付けられたー! やばい、どうしよう。


「な、なんでしょうか」

「なんだじゃねえよ。ここぁ酒飲むところだ。飲めんのか?」

「ぼ、僕はまだ未成年で、ただ宿に泊まってるだけなんで……」

「ぶぁははは! ボクだってよぉ! ホントにガキかよ!」


 ギャハハと笑う荒くれたち。もうヤダ、部屋戻ろう。

 踵を返そうとしたとき、荒くれのひとりがテーブルの上にドシャリと袋を置いた。


「こんなこと泊まってるってこたぁ金ねぇんだろ? オレに勝てたらこれをくれてやらぁ」


 周りはまたギャハハと笑い、袋を出した男はテーブルに肘を乗せ、構える。腕相撲をやろうというのだ。

 とりあえず戦闘値を……げっ、330!?無理無理! どう考えても勝ち目はない! それより賭けだとしたら負けた場合僕はどうなるの!? 僕がお金ないのはわかってるだろうから……もしかして体!?

 ダメだ、それだけはダメだ! こうなったら謝って許してもらうしかない。


「す、すみませ……」

「おう早く来いオラァ!」

「は、はい!」


 びびって思わず返事をしてしまった。仕方ない、なんとか隙を見て逃げ出そう。


「おらガンバレよガキ!」

「おぶぅっ」


 後ろにいた荒くれに背中を叩かれた。もう涙目だ。帰りたい……。


 『あなたへの応援が届きました。受けますか?』

 ぬ……お? さっきのあれか。大してプラスにならないけど『Y』で。

 テーブルの前に立ち、恐る恐る手を出すと掴まれ、無理やり構えさせられた。万事休す。


「おらガキやったれや!」

「ガハハ、そんなデカブツやっちめえ!」

「男見せたれ!」


 みんなが好き勝手言っている。どう見たって勝てるわけないじゃないか。

 『あなたへの応援が届きました。受けますか?』

 『あなたへの応援が届きました。受けますか?』

 『あなたへの……』


 いくつ出てるかわからないけど、どんどん『Y』を押していく……お? あれぇ?

 慌てて自分の戦闘値を見てみる。258!? これはやばい。

 あと2人、あと2人応援してくれれば勝ててしまう。どうしよう。


「はじめ!」


 ああ始まっちゃったよ! ぐくくっ、無理! 動かない!


「なっ!? こ、こいつガキのクセに結構力あんな……」


 そんなこと言って、まだ差はかなりあるから余裕そうじゃないか。

 だけど急に僕が押し始めた。あと20センチくらいで勝てるっ。


「おおー強いー、あと少しだー! オラがんばれ!」


 くっ、わざと負けそうなふりをして遊んでる!


 『あなたへの応援が届きました』

 えっ、対戦相手からのもOKなの!? 『Y』! きたぁ! 300オーバー! だけどまだ足りない。でもさすがにここからならひっくり返せないだろう!


「ぐっ、ぬおおおぉぉ!」


 えっまだダメなの!? やばい、徐々に上がってきてる。


「はっはー! 顔真っ赤だぜ! マジでガキに負けちまうんじゃねーの?」

「う、うっせえ! だぁってろ!」

「おーこええこええ。怒鳴られちまったよ。んじゃオレもガキの方を応援しよっと」


 『あなたへの応……』『Y』だよ! きたきたきたぁ! 372!!


 ドガッ


「あっ」


 か、勝ってしまった。

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