38話
────ふぅ、食った食った。かなり満足。今回のはかなり豪華だった。前もって戻ることを伝えてあったからか準備感が半端なかった。超ごちそう。
王になったら毎日でもあんなものが……いやいかん。王なんてなりたくない。
で、食後は紫電さんと有事院、あと仲間たちでの情報交換だ。
こっちは人数が多いから厳選してあるけどね。
まずニミは外せない。それにナルだ。あとは姫様と……
「ルーミー、カムヒア」
「りょ、了解であります……」
ルーミーがとぼとぼと歩いてきた。ちょっと罪悪感。
本来ならチールさんを呼びたいところだが、まだふたりはチールさんに気付いていない。姫様が余計なことをする前に離しておくのがベストだろう。
「ルーミー。この会合如何で元に戻すからね」
「はっ……心得たであります! なんなりと!」
ルーミーにやる気が戻った。これでいい。
というわけで会場として宮殿にある会議室的な場所を借りることができた。
「第一回、使徒と勇者会議ーっ」
誰も乗ってこない……。でも負けない!
「えーっと、そんなわけでラン。今までの経緯と情報があれば教えて欲しいな」
「おうコラ待てや。なんで俺らからなんだよ。そっちが先に言えや」
「それは……まあはっきり言ってしまうと、多分僕らが一番情報を持っていると思うのと、僕の情報は紫電さんとも共有しているから、なにか新しい話があればなという感じで」
「そういうことですか。ですがうちらもそれなりに進んでいるつもりです。そちらが一番情報をお持ちであるという根拠を提示して頂けませんか?」
さすがランはできる女性。こちらがどこまで知っているのかを理解したうえで話をしたいというわけだ。
「僕は魔王を見たことがあるんだ」
その言葉にランと有事院は目を見開き口を開けている。ということはやはりこのふたりもこれ以上の情報は持ち合わせていないだろう。
「そ、それが本当だとしたら、確かにうちらより有益な情報を持っているということになりますね」
「あと紫電さんたちは……なんとかってとこのなんとかを倒したんだよね」
「大雷山のレッド・ラゴンだよ!」
「そうそうそれ」
「だ、大雷山の……? うち、考えが甘かったかも……」
「おいテメーら! なんでそんなにつえーんだよ! おかしいだろ!」
だから自分のレベルを上げてよ。そんな容易く強くなんてなれないんだから。
というわけでラン……というか、有事院は最初から話すことになった。
まず最初の出会いは僕らと一緒……だけどランは相当警戒したらしい。気持ちはわからないでもない。
だけど能力を使うことでようやく信用してもらい、共に旅をすることになったとか。
彼の主な能力としては、倒した魔物の力をランに上乗せすることができるというものだった。
初期のランの戦闘値は300もなかったが、250の魔物を倒すことで550くらいに上がり、次に520の魔物を倒し、820くらい……といった感じだ。
僕の予想だと、今は1匹分の力しか上乗せできないけれど、彼のレベルが上がれば複数匹分乗せられるのだろう。なるほど、これだと彼のレベルが1のままでは頭打ちになりやすい。
例えば今戦闘値10000の魔物を乗せられるとして、ランの戦闘値が1000だとする。だけど周囲でこれより強い魔物が15000以上しかいなければどうにもならない。
それでも人としての強さでは充分すぎるものだ。だけどそれより強い魔物がいることを知っているのだから、魔王がかなりやばいことくらいは想像してるだろう。
まあ有事院の情報はこんなものだろう。期待はしてなかったから思った通りの結果だ。
それでも話してくれたことには変わりないし、こちらも話せることを伝えておこう。
「────とまあ、こんな感じかな」
返事を待っていたのだが、なにも言ってこない。いや絶句してた。
「……一億ってマジかよ……」
「う、うち、甘過ぎました……」
やっと喋った言葉がこれだ。僕もその気持ちよく解るよ。
「だからこそバービーの強化が必要なんだ」
「ハービィだっつってんだろ! あとDJ付けろよクソが!」
だからDJじゃないでしょ、多分。
「とにかくレベル上げをやろう。少しくらいなら手伝うから」
「マジかよ! ……だけどなぁ……」
有事院は悩んだ。そういや義理堅いんだったっけ。きっとこれで借りを作るのに抵抗があるんだろう。
「言いたいことはわかってるけど、これは僕らのためでもあるんだ」
「あん?」
「今のままじゃなんの情報も得られないでしょ。共有しようという話なんだから、少しくらいなにか頂戴よ」
「んだテメー、俺らを使おうってのか?」
「え? じゃあ僕らは使われただけなの?」
「う、くっ……」
ちょっと意地の悪い言い方になったけど、僕としては彼らにも頑張って欲しい。折角出会えたんだし、チャンスは平等にあったほうがいいと思うんだ。まあ僕の場合はチールさんが怒るだけで別に魔王を倒さなければいけないわけじゃないからね。
「だからこれは手助けじゃなくて先行投資みたいなものなんだ。まあレベル20くらいまでだけどね」
「う……まあしゃあねえな。そういうことなら使われてやっから手を貸せよ。これで貸し借りナシな」
「もちろん」
よし、明日もまたグラン・ドラゴン狩りだな。
「────ふぅーっ」
宮殿の客室は城よりも豪華だった。ここ数日寝てなかったし、今日はぐっすりだろう。
ベッドの寝心地も半端ない。横になった途端体の力が抜ける。これは人をダメにするやつだ。
まぶたが重い。このまま寝たい。
……ん? なんかドアが開いた気がしたけど、ここは宮殿のスーパーメイドが常に手を入れているため、蝶番の音や木が擦れた音なんかもしないからわかりづらい。
誰かが寄ってきている? 絨毯もふっかふかだもんな。足音なんてたつわけがない。
前回は確か紫電さんだったな。ちょっと起きてみるか。
「誰?」
「あふゃっ」
僕が起きてなかったと思ったのか、声をかけたら驚いて倒れた。誰だ?
「えっ? 帝国の姫様?」
「お、おほほ……」
そういえばここへ来ていたって話だったな。まだいたのか。
「一体どうしたんですか? 帝国の──」
「アタクシのことはアウロラとお呼び願おうかしら」
「ええじゃあアウロラ姫。こんな時間にどのような御用で?」
「おほほ、このような時間に殿方の部屋へ入るなど理由なんて決まっているでしょう」
えっ、今度こそ本当のYOBYE!?
いやそれは困る本当にまずい。僕はニミと約束をしたんだ。
「な、なんで僕のところへ?」
「アタクシもチール様の元でかわいいを磨きたいのです!」
僕目当てじゃないのかよ! ……いや、いいんだけど。これ以上嫁を増やすわけにはいかないし、しかも別々の国の姫を娶るとかどんな身分なんだよ。
だけどこれはチャンスだ。僕の嫁でなく、それでいて旅に同行してくれ応援を頼める。帝国の姫という立場はかなり問題だが、そこは姫様も似たようなものだ。
「ところでアウロラ姫。ご兄弟はおられますか?」
「おほほ、兄がふたりほど」
バッチリじゃん。跡継ぎ問題はパスできる。
「よし採用。明日からよろしく頼むよ」
「おほほ、お任せあれ。妻となったからには昼のお相手も夜のお相手も見事こなしてみせましょう! では!」
アウロラ姫は高笑いしながら部屋を出ていった。
……あっれぇ?




