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34話

 川魚の刑とはなんぞやと思っていたら、チニーズ姫は顔が真っ青になり、涙を流して歯をガチガチと鳴らしていた。


「お……お願い……します! それだけはどうか、どうか!」


 チニーズ姫は懇願する。その姿を見ている姫様はとても愉快そうだ。


「ルーミー、川魚の刑ってなんなの?」

「あ……あんな目に合うくらいなら、自分は自殺するであります!」


 ルーミーも顔が真っ青だ。よほど酷い刑なのだろう。

 でも生きるも死ぬも自分次第というのだから、死刑じゃないんだろうな。


 この刑はかなり稀らしく、実際に見たことがあるのは流浪のチールさんだけだった。簡単に説明するとこんな感じかな。


 まず鉄板の上に鉄の脚立と犯罪者を乗せる。逃げられないよう2メートルくらいの鎖で繋いでおく。

 そして鉄板を熱すると犯罪者は逃れようと脚立へ登る。しかし脚立もだんだん熱くなる。

 このとき上にロープがあり、犯罪者はそのロープをよじ登ろうとする。しかし鎖が繋がれているため高くは逃げられない。

 ここまでが前座。この状態のときに長い棒を犯罪者の肛門に刺す。

 ロープは鎖のせいで登れず、力尽きたら串刺しになる。それでもがいている様を嗜むそうだ。

 ……これ生きるも死ぬもどころか死ぬよね確実に。

 えーんツェペシュ様ー、姫様が怖いよー。


 いやいやこれは冗談じゃなくマジやばい。


「姫様、それはちょっと流石に……」

「なんだ? ミツキはこの虫ケラを助けようというのか? ワラワがこやつからどれだけの目に合わされたか知らぬのであろう!」

「うんー……。でも姫様はこうして生きてるんだし……」


 それにもし殺すなら、苦しまず一瞬で終わらせて欲しい。見ていて痛いから。

 男奪もそうだけど、人の苦しむ様を見て楽しめる性格じゃないんだよね。

 できればみんなにも、そういう痛いのを見て楽しむ人になって欲しくない。特にルーミー……は、もう手遅れかもしれないか。


「それもそうだな。やい虫ケラ。ワラワの夫が優しくてよかったな」

「あ……ありがとう……ございます! あ、足でも舐めさせて下さい!」

「やだよ汚い」

「えっ」

「命を助けたからって勘違いされたくないよ。僕はあくまでも姫様……エリアル姫の味方だから」


 この世界の女性に甘い態度は駄目だ。はっきり言わないといけない。

 それにたまたまそういう風に受け取られただけだから。別に安楽死だったら文句言わないよ。

 でもそれじゃ姫様が納得してくれそうもないからなぁ。ニミが好きなようにした手前、姫様にもある程度選ばせてあげたい。


「しかしそうなるとどのような刑が妥当であろうか」

「余が回った国の中にはイボイノオークの集団に犯させるという刑があったな」

「うぷっ……。それはまたえげつない。さすがチール様。それを採用するぞ!」

「ちょちょちょ、それも勘弁して下さい!」

「断る。貴様は恥辱にまみれてくたばるのが似合っとるわ」


 うーん、よくわからないけど犯されて死ぬってことはないよね。生きていればいいことあるさって言葉もあるし、それでいいかもしれない。ひょっとしたら彼女が新境地を切り拓き、それはそれで幸せになるかもしれないからね。


「でもそのイボイノオークってどこから調達するの?」

「ふぬ、ワラワも魔物の生息地というものはよう知らんからな」


 だけどわざわざ連れてくるのも、その生息地へ連れて行くのも面倒だな。なにか他に────


「おっほぉーっ。なんかすげぇことになってんな!」


 その言葉に驚き、振り返る。

 するとそこにいたのは、色黒の男と艶やかな黒髪の綺麗な女の子がいた。

 …………こいつ!


「ギャル……えーっと……ギャル太夫!」

「誰だそりゃ」


 じゃなかった。これは僕の心のなかで付けたソウルネームだった。

 そう、彼は見覚えがある。つまり横にいる女の子が勇者候補か!


「えー……覚えてないと思うけどお久しぶり」

「あぁん? テメーなんかしんねぇっつの」


 威嚇しているのか、すごくひしゃげた顔で話してくる。しかし横にいる女の子が頭をピシャリとはたいた。


「言葉遣いが汚いですよ」

「ご、ごめんよぉラン」


 ギャル太夫がヘコヘコしている。あー、完全尻に敷かれてるな。

 そうだ、これを機に名前を覚えておこう。


 『有事院ゆうじいん羽人はばと

 えっ、なんか高貴っぽい名前してる! ギャル太夫なのに! ちなみに相方の子は?


 『ラン・プツエル』

 ふむふむ。んでもって戦闘値は1126。ギャル太夫……じゃなくて有事院は124。多分変わってないよね。これは確実にレベル上げやっていない。


「まあ知らないだろうなって気はしていたよ。一緒にこの世界へ来たんだけどなぁ」

「んー? ……そだったか? しんねぇ」


 まあいいや。これ以上話しても不毛だし。


「じゃあえっと、話しやすそうなところでランさん? いいかな」

「おうコラてめぇなに勝手にランのこと呼んでやがんだごる……いって!」

「少しおとなしくしていてくださいね」

「はーあぃ」


 僕の考えを汲み取ってきてたらしい。うむ、できる女性だ。


「それで、ここへはなんのようで来たんですか?」

「この国の悪政に困っている隣接した公国に頼まれ、様子見をしに来ました。ですがもうその用は済んだみたいですね」


 ランは周囲を見てそう答える。まあ宮殿も半壊しているし、王も染みになったからね。これ以上なんの様子を見ろっていうのか。


「なるほどね。周辺国の……」

「町で色々情報を集めていたところ、突然ここが崩壊しはじめたので急いで来たといった次第です」

「話はわかったよ。それで──」

「それより、貴方は神の使徒なのですね。勇者候補はどちらに?」


 結構話を自分で進める人だなぁ。まあいいけど。


「彼女です」

「どうも」


 ニミはぺこりと頭を下げた。


「あら、可愛らしい子。こんな小さな子が戦えるのですか?」

「おうテメー、聞いて驚くな! ランの戦闘値は14000もあんだからな!」


 有事院が横槍を入れてまた叩かれた。彼の力を借りることで今のところ12倍くらいってことか。

 とりあえず……実力は隠しておくか。

 ニミはレベルが上がり、戦闘値は現在132。えーっと…………10人で応援すれば13万ちょいってところかな。


「うちのニミは13万くらいだよ」

「はぁ!? テメーふかしこいてんじゃねーぞ!」


 僕は姫様とチールさんに応援を止めてもらい、あとの10人にニミへ応援してもらった。


「じゃあ見てみて」

「あぁん? どらどら……げっ、13万5千!?」


 有事院は仰天した顔をし、ランは身震いをしていた。10倍くらい差があるもんな。


「言っておくけど、他の勇者候補も同じくらいの力があるよ」


 といっても他にはチャーさんしか知らないけどね。

 するとランはへたりこんでしまった。


「う……うち、上位かと思っていたのですが……」

「なんでそんなにつえーんだよ! あれか、神の力の差か! ざっけんなよ!」


 いや僕の努力の結果だよ。……ごめん嘘ついた。努力なんて微塵もしてない。仕方ないじゃないか、剣を振ったら魔物は勝手に死んじゃうんだから。


 さてどうしたものかな。こちらから情報を流していいものか……。

 彼はあまり良い人間だとは思えないけど、勇者候補であるランはまともだし、しかも舵取りは彼女が行っているんだから色々教えても問題なさそうだ。

 イケメンな彼にはまだ会ってないが、多分僕が一番情報を持っている。つまりランたちからは特に得るものがない。だけどそうだからといって教えてあげないという意地悪をしたくはない。折角会ったんだし、彼女らとも友好な関係を作っておきたい。


「強くなる方法はちゃんとあるよ。ここで会ったのもなにかの縁だし、色々情報を伝えておくよ」

「マジでか!? ……いや、やっぱいいわ」

「あれ? なんで?」

「借りができちまうだろ! おりゃあ借りのあるヤツと勝負したかねーんだよ!」


 おっと、意外に義理堅い男なんだ。口が悪いだけで思ったよりいい奴かもしれない。


「そこらへんはギブアンドテイクってことで──」

「おいミツキよ! チニーズがいなくなっておるぞ!」


 ……忘れてた!

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