33話
「ここがあの女のハウスね」
「誰のことですか!?」
「ああいや、僕の世界の言葉なんだ」
国境を越えて3日、パレードによる戦闘値向上は恐ろしく、たったそれだけの日数で500キロを走破……いや歩破してしまった。
そして僕らが見据えているのは、シーンストン宮殿のある町を囲う壁。
「それで先ほどの言葉はどんなときに使うのですか?」
「えっ、まだ引っ張るの? ええっとね、彼氏を取られた女の人が相手の女の家を見つけたときの言葉で、転じて仇の居場所を確認したという意味なんだ」
「ほう、ミツキの世界の言い回しもなかなか面白いものだな」
半分嘘だけどね。
「それよりさ、やっぱこの国というか国王は滅びたほうがいいと思うんだ」
「ワラワもそう思う。予想以上に酷かったな」
ここへ来る途中は本当に酷いものだった。人々……特に村民は貧困にあえいでた。よく言うところの、生かさず殺さずといった感じだ。
そして村の中央にはかなり打たれたような、痛々しい人が死にかけて転がされていた。きっと逆らったとかそういう人を見せしめで晒しているのだろう。さもなくば憂さ晴らしとか。
町の貧富の差も激しかった。特に領主的な人が住んでいるであろう屋敷は、城に匹敵するくらいとても豪華なものだった。今ではただの瓦礫の山だけど。
「あれさ、王族だけを潰しても駄目な気がするよ」
「そうだな。今まで甘い汁を吸ったものどもが今の生活を捨てられるわけがない」
「まあでもそれは僕らがやることじゃないか」
「うむ。それにあれほど強欲に贅を貪る連中だ。王がいなくなったところで自らが代表であると主張しあい、互いに潰し合う様子が容易に想像できるわ」
そして疲弊したところで周辺国が報復にくると。まさに漁夫の利。しかし身から出た錆。漁夫が得た利が錆びていなければいいけどね。
さてどうしよう。町の周りは巨大な壁、そして出入り口は門しかない。門は当然門番がおり、出入りを制限している。宮殿があるのだからガードが硬いのは当然だろう。
堀は──なさそうだな。じゃあ壁を壊すか。
準聖剣オズ・ワイルドの耐久力は00。これは無制限を現しているものだとわかった。壊れないのなら僕の戦闘値を使えば壁を破壊することも可能だ。
「うるあぁぁ!」
あれ、案外簡単に壁が壊れた。思ったよりも軟弱だなぁ。
とにかく壁に穴を開け、通り抜ける。
「道がわからないや」
「方角的には向こうだが、この町は厄介だぞ。基本的に入り組んでいて細い」
要塞化しているわけだね。大群に襲われても流れを制限できるようにしているんだ。
そうなると無闇に進むのはよくない。ぐねぐね曲がって進んでいたら方向がわからなくなり、変なところへ行ってしまいそうだ。
「よしじゃあ直進!」
家などを破壊してまでも直進することを名物にする塾があるといううわさを聞いたことがある。それなら迷うことなく進むことができるはずだ。真似させてもらおう。
「お邪魔しまーすっと」
「なっ、ななななんだお前らは!」
手近な家の壁を破壊したら人がいた。まあいいや。王都に住んでいるってことはそれなりの身分で、しかも同じく甘い汁を吸っている連中だろうから同情はしない。
「ちーっす。ちょっと通りますよっと」
「きゃあぁぁ!」
「あっ、すみません!」
ぬがっ、女性が着替えをしていた。流石にこれは気が引けるな。だが曲がることは許されない。教官に怒られてしまう。教官が誰かは謎だけど。
とにかく直進あるのみ。苦情なら新国王までお願い。
「き、貴様らなにをやって……ぐあっ」
今の兵か? ごめん、邪魔だったから切っちゃった。
「というわけで、あっという間に宮殿だ。さあ壊すぞーっ」
『おーっ!』
みんな威勢がいいな。行進で上がった力での破壊活動はちょっと爽快かもしれない。
「ニミ、いくよ」
「うんっ」
ピィィィィッ ピッピィーピッ
ダッダン ダッダン ダラララララララララララ ダッダン
『うっちらーのGoodLoveのいい旦那ーっ』
「だからそれやめて!」
権利的にやばいのもそうだけど、これから王を倒そうというのに名前を連呼されるのはまずい。ここはインストゥルメンタルでお願い。
「えいっ」
ローティが宮殿の柱を殴る。武器はポンポンだ。PPP。柱の大理石は抉り取られる。ちょっと威力高すぎじゃないかな。
「と、止まれ!」
衛兵が盾を構え止めようとする。しかしニミの振り回す指揮棒が蹴散らす。目に映るものは全て破壊していく。
「ななななんだ貴様らは!」
なんか偉そうな人が玉座っぽいところに座っている。背後にかけてある肖像画そっくりだから、きっとこれがシーンストン国王だろう。
「あんたが王だな」
「そうだ! ここをどこだと思って……」
「周囲にちょっかい出すの鬱陶しいんで潰させてもらうよ」
「ままま待て! なにが望みだ!? 金か!?」
「あんたら一族を根絶やしにするのが望みだ」
「なっ!?」
驚愕しているようだが、本当の望みなんて叶えられないだろ? たかが国王如きに。
できるものならやってみろ。ニミの家族、村の人たちをもとに戻せ! できまい!
偉ければなんでもできると思うのは驕りだ! 金や名誉を万人が常に望んでいると思うなよ!
「ニミ、これを」
「うんっ」
ニミに準聖剣オズ・ワイルドを渡す。今のニミならば充分に使いこなせる。
「ま、待て! 待ってくれ!」
「……お父さん、お母さん、それと村の人たちの仇!」
ニミは上段の構えから剣の腹を向け、一気に叩き下ろした。すると国王の体はほぼ液状の物体となり後方へ飛び散った。なるほど剣を横にしたことで団扇で仰いだように後方へ吹き飛んだわけか。
しかし切るよりもえぐい。それだけ怒りがあったのだろう。
「お……お父様あぁぁ!」
叫び声が聞こえてそちらを見ると、きらびやかなドレスを来た若い女が。王のことをお父様と言っていたのだから、この国の姫か。
「ミツキよ、あれはワラワに任せよ」
「え? あ、うん。どうぞ」
姫様が前に出た。王族のことは王族に任せたほうがいい。
「久しいな、チニーズ姫」
「なっ、エリアル……っ」
「以前ワラワが言ったこと、覚えておるか?」
「……あなた如きの言葉、覚える価値もない」
「くっくっく、このような状況でよくぞその減らず口を叩いた! ワラワはこう言ったのだ。驕れる者久しからずと。これがそれだ」
「こ……この人殺しめ!」
「なにをほざいておる。ワラワはまだ直接手を下しておらん。それでも人殺しだというのであれば、王族は皆他人事しよ」
「だ、黙れ! 私を誰だと心得ておる!」
「王亡き今、貴様は元姫なだけの一般人だ」
「い……今に見ていろ! 私が必ず……」
「まあ貴様もこれで終わりだ。生きて逃げられると思うてか?」
「ふ、ふん。私は投降するわ。投降する相手に手をかけるというのは国として問題では?」
姫同士の話を色々ルーミーに解説してもらっているのだが、戦時には国際協定というものがあり、白旗を掲げているものと、投降してきた相手に手を出してはいけないそうだ。
もちろんそこらへんは他にも細々な決まりごとがあり、白旗を揚げたと同時に武装解除し、武器は捨てるとか、建物の場合は明け渡すとかそんな内容だった。
「くっくっく。甘ぬるいわ。これは戦争ではない、粛清だ。粛清に投降もなにもあったものではないわ!」
「なっ!?」
戦争の場合なら投降したら捕虜として扱わなければならない。だけど戦争じゃなければそれに従う理由はない。そして僕らは国とは無関係の烏合の衆みたいなものだ。戦争にもなりゃしない。
姫様はポンポンを握り、シャラシャラとシャドウボクシングをする。今の姫様なら普通の人なんて一撃で数百人分殺せる威力がある。
「姫様、彼女を殺す気?」
「いやワラワは殺めん。生きるも死ぬもこやつ次第よ」
「どういうこと?」
「こやつは国民の前で川魚の刑に処す! 惨めな醜態を民の前で晒すがいいわ!」
……どういうこと?




