32話
「情報を得たでありますよー」
「そ、そう。どうだった?」
あの後なにが起こっていたか見ないようにしていたら、いつの間にか尋問は終わっていた。
「えっと、成果をあげたので、できたらその……」
なんかルーミーがモジモジし始めたぞ。褒美でも欲しいのかな……あっ。
「褒美はないけど降格を取り消しにする、でいいかな?」
「はっ、ありがたき幸せであります!」
敬礼をして感無量な感じの表情をする。僕は別に嫁差をつけるつもりは……ああそういえばナルが降格したとき差がつくみたいなことを言ってしまっていたな。
「じゃあ詳しい話をしてもらおうかな」
「あれはシーンストン王国の第5遊撃部隊の連中でありました。腕は立つけど愛国心はそれほどでもないと聞いていたので、容易く情報を引き出せたであります」
「ふんふん、それで?」
「この国で帝王の愛娘が殺されれば戦争になるだろうという考えであります」
なるほど、戦争の誘発か。
犯人がこの国の人間でなくとも、この国で起きた事件だ。そのような賊を入れてしまった責任や、セキュリティの甘さなどを問われてしまう。帝国としても攻め入るのに正義を以て行えるため、この国は他の同盟国に援助してもらうこともできない。
だけど僕らには関係のない話だ。
「うぬぬ、やはりシーンストンか」
「姫様、もうあっちはいいの?」
「うむ、もう済んだ」
満足げに頷く姫様と、へたりこんでいる帝国の姫様。
「ふふ……ふふふ……チール様ステキ、チール様サイコー……」
洗脳完了か。さすが姫様。
「それでミツキよ。ワラワはシーンストン王国を潰したいのだが」
「姫様────てか、この国にはメリットがあるかもしれないけど、僕にはないと思うんだ」
「そこをなんとか! ミツキはこの国というか、この世界の人間ではない! つまり戦争を起こしてもワラワの国とは無関係でいられるのだ!」
要するに、討ち逃したときの報復先がないってことだね。
うーん、一応姫様も僕の妻になるんだし、なんとかしてあげたいところだけど、流石に国が絡む話ではあまり動きたくないっていうのが本音だ。
「ニミはどう……」
ニミがいいよと言えばやってもいい。だけど問おうとしたニミは震えていた。
「……シーンストン王国が、私の村を襲った……」
「よし行こう! 王族と兵を根絶やしにしてやる!」
ニミを不幸にした元凶だと!? そんなもの許せるはずがない!
全力だ。全力をもって滅ぼしてやる!
でもそのおかげでニミと出会えた? バカなこと言ってんじゃない!
僕はニミと出会う必要がなかった。それでニミが幸せであったのなら。僕の幸せよりニミの幸せだ。それをぶち壊した奴はぶち壊し返す!
「く、くぬぅ。やはり第一妻か……」
だから違うからね。ニミの力だよ。
「パレード隊、進路変更! シーンストン王国!」
僕らは速度を上げ、シーンストン王国へ進むことにした。
「……私の住んでいた村が襲われてね」
「……うん」
道すがら、ニミが昔の話をし始めた。
ニミは大きな村に住んでいたそうだ。そこはシーンストン王国との国境が近い場所だったが、豊富な資源が発見されたため人が増え続け、いずれ町になると言われていたらしい。
そこへ当然目を付けたシーンストン王国は、どのような経緯かわからぬが侵攻してきたそうだ。
抵抗する人たちもいたが、ニミたちは必死に逃げた。その途中、魔物から襲われ、ひとり、またひとりと殺され続け、100人くらい一緒に逃げた村人は、ニミを含む数人だけになってしまった。
なるほど、そのせいで人の感情と魔物の気配を敏感に察知できるようになってしまったのか。
「シーンストン王国の話はワラワも知っておる。前王はそれなりに平和主義であったが、魔王軍との戦で命を落としたらしく……まあ、うわさでは現王による暗殺とも言われておる。それで魔物が跋扈しているのをいいことに、便乗して周辺の小国の土地を食いものにしているのだ」
魔王さえいなければ、そもそもの事態は起こらなかったと。だからニミは魔王を憎んでいるんだな。
だが直接の原因はシーンストン王国だ。許すまじ。
でもなんか、この機に漁夫の利を得ようとしている人がいそうだ。
「ニミの家族や知人たちの仇を取るのは当然だけどさ、こうなると姫様の国が利益をかっさらうことにならないの?」
「それはない。飛び地の運用は難しいのでな、手は出さん。まあそれでも周辺の小国が食い散らかすだろう。そこで小国同士の小競り合いが始まるかもしれんし、どこぞが台頭して力をつけるかもしれん。だがそのときはそのときだ。流石にワラワもその先は面倒見きれん」
とりあえず潰すだけ潰すけど後はどうなろうと知らないよってスタンスか。いいね。
なにがいいって、僕らをそれ以上巻き込もうとしないのと、利益を得ようとしないところだ。
もしこれで僕をけしかけて美味いところを持っていこうとしていたのなら、僕は姫様といえど咎めていた。だけどそもそも国とは別でやりたいと言っているのだからそういうわけにはいかないだろうし、なにより多分だけど姫様は仲間とかを踏み台にする人物じゃない。
その証拠に飛び地だからといって放棄するのはおかしい。例えば今の国内の生産を10として、シーンストンが……わからないけど周辺のおいしいところをかっさらっているみたいだし、まあ同じ10としておこう。シーンストン側で5を回し、残りの5を自国に送る。途中他国を跨ぐため関税や輸送で……5分の3を消費したとしても、2残る。国内の生産高が20%も増えるのに、難しいという理由で普通ならば放棄なんかしないだろう。
そんなことはどうでもいいか。やはり僕らには関係ない話だ。
あくまでも個人的な恨みでの襲撃。後は野となれ山となれ。ケセラセラ。
こんな感じでようやくやって来たシーンストン王国領。国境の関は特になかった。
街道沿いに門らしきものはあったが、ぶつかったら壊れた。あんなところに変なもの置かないで欲しい。
「現在地が第9国境だから……宮殿は北西だな」
「姫様は行ったことあるの?」
「一度だけな。思い出したくもない、最悪な場所だ」
心底嫌そうな顔をしている。よっぽど酷い目にあったのだろう。
そのことも含めての戦争……いやこれは戦争なんかじゃない。粛清だ。
しかしまさかこんなところで一国を滅ぼすことになるなんて思いもしなかった。
「のうミツキよ、シーンストンを潰したあと、国を乗っ取るというのはどうだ?」
「それは……大変そうだからパス」
国の統治なんてどれだけ大変なことか想像もできない。お飾りとしての国王だとしても外交の場には出ないといけないだろうし、今までちょっかいを出していた国が報復をしてくるかもしれない。
国王が変わったとかは関係ない。やられたことをやり返さないと国民に示しがつかないだろうからだ。
できれば政治的な要素が全くないところで暮らしたい。金持ちとかに興味はないし。
今回はこの国をパレードが通過するだけ。ただそれだけのことだ。




