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31話

 朝、町の門を出たところで全員が整列。先頭はホイッスルを咥えたニミだ。

 そしてニミは足を揃えて直立。背を反らすように胸を張り、手は腰に当てつま先立ちになり、かかとを上下させリズムをとる。


 ピイイィィィーッ ピッピィーピッ

 ダッダン ダッダン ダラララララララララララ ダッダン

 パッパパパー パァパーパーパー


 フィーの吹くメロフォンの音が響き、ピィのキーボードが旋律を奏で行進が始まる。ザッザッザと足並みがとてもよく揃っている。きみたちいつの間にそんなの練習したの!

 いやそんな時間なかったはず。よくわからないからこないだ応援レベルが上がったとき覚えた『行進』の能力だということにしておこう。


 だけどこの行進は凄い。互いに応援しなくても、この行進中は全員が応援の加護を得ることができる。応援の効果は、相手に頑張れという気持ちを持ち続けないといけない。対象が複数になると結構大変だという話だから、その欠点を補えるだけでかなり有能だ。


 そして移動速度だ。ゆっくり動いているようで、かなり速い。これなら馬車で数日かかる次の町までの道のりも半日くらいで到着する。

 次は隣の国の国境近くの町だっけな。そこで数日過ごし、仲間になってくれる人を探してから国を越えようと思っている。


 ピィーッピッ


 ニミがホイッスルを吹く。右から魔物が来るらしい。今の僕の力なら敵に接近することなく剣を振っただけで倒せる。


 ピッピッピッ


 おっと今度は左か。僕は列と無関係に遊撃する。


『うっちらーのGoodLove(グッラブ)ーの()い旦那ーっ ミツキマアス ミツキマアス ミツキミツキマアス♪』

「やめてマジで!」


 僕は慌ててみんなを止めた。

 なんだよその歌詞! どこで誰が聞いているかわからないんだぞ! 色々な意味で危なすぎる。ただでさえヤバい名前だって自覚あるんだし!


「ダメですか? 頑張って考えたのですが。ちなみにタイトルは『ミツキマアスグッラブマーチ』です」

「どう頑張ったらそうなるのか問いただしていい?」


 世の中にはシンクロニシティという現象がある。しかしあれは同時期に同様な環境で起こるものだから、完全に異なる文化帯で偶然発生するはずがない。


 ……いや、深く追求するのはやめよう。この件は触れないほうがいい。


 ピーピーピーピーピーッ


 危険の合図だ! 正面から大群の予感。


「チールさんっ」

「複数の人と獣の気配……馬だな。後は車輪……馬車を囲って────いや、追っている?」

「襲われてる感じ?」

「多分な」


 それはよろしくない。事情はわからないが助けておこう。


「よし、パレード続行! 突っ込むぞ!」



 ********



「くっ、こんなところで!」


 御者は鞭を振るい、馬を加速させようとする。後ろから野盗の馬が追い回している。

 だが御者はこの野盗が偽物だと気付いていた。

 野盗に見せかけるにはあまりにも酷い。馬は軍馬だし、武器も揃っており、なによりも統率がとれている。

 恐らくは軍隊、それも精鋭。その証拠に護衛の騎士たちは既に倒されていた。


 後ろに載せているのは帝国の姫。この国とは同盟を結んでいるため、襲っているのはこの国の兵ではないと思われる。そうなると第三国の仕業。

 犯人は察しがついている。だがそんな考え、今はどうでもいい。なんとかして生き延びなければ無意味だ。


 最悪でも姫だけは守らねばならない。しかしここで御者が戦慄する。

 この先は緩い下り坂で、しかも少しきついカーブがある。今の速度では曲がり切れない。だが速度を落とせば一気に襲われてしまう。

 馬単体のほうが馬車より速いのは当たり前。何故今まで追うだけだったのか理由がわかった。

 高い速度で馬車へ攻撃するのは危険が伴う。少しでも自分たちが安全に狩れるよう仕向けていたのだ。


 どうしたらいい? 御者は考える。彼は御者といえど、姫を載せて走れるだけの身分だ。とても高い教養と忠誠心を持っている。いかに姫を安全に運ぶか。今の状態で尚、それを考えていた。


 そんなとき、前方から風に乗って陽気な音楽が聞こえてくる。

 彼は一瞬パニックを起こす。町まではまだかなり遠い。こんなところで音楽が流れているのはおかしい。それでもすぐ我に返り前方を見る。そこにはパレードをしている隊がいた。


「う、うわああぁぁ!」


 このままでは轢き殺してしまうが、回避することはできない。

 そう思ったところ、パレード隊は道の左右へ分かれ馬車を通す。危機一髪と言いたいところだが、自分たちは追われている。

 そうだ、パレードの連中はどうなってしまうのか。そんなことが頭を過る。しかしそれもすぐ振り払われ、逃げようとする。だがこの先は先に述べた通り、下りがあり加速するのは危険だ。

 減速させなければいけない。そう思いつつ、追ってくる馬との距離を測るため、身を乗り出し後方を確認。

 そこにはパレード隊により壊滅させられている野盗の姿があった。



 ********



「ふぅ、間に合ってよかったよ」

「あ……ありがとうございます!」


 御者さんはペコペコと頭を下げる。倒した連中はいかにも悪人っぽい感じだったから容赦はしなかった。だけどチールさんの助言でひとりだけ偉そうな奴は生かしておいた。そいつが逃げられないよう、チールさんは膝を砕く。酷い。


「とにかく無事でなにより。危なかったですね」

「待てミツキ。この先はワラワに任せい」


 突然姫様が割り込んできた。そして顔をしかめている。


「どうしたの?」

「この馬車、帝国の帝王家のものだな」


 姫様が言うのだから間違いないだろう。ということは、中にいるのはかなり偉い人だ。だったら全て姫様に任せたほうがいい。

 すると馬車の扉が開き、中から人が出てきた。なんというか、綺麗で且つかわいい、キレカワ系と言おうか、そんな金髪縦ロールの、豪盛なドレスを纏った少女が出てきた。


「オーホホホッ。我が騎士団を倒した賊を容易く屠るその腕、実に見事! 音楽はイマイティーでしたが、聞いたことのない音色、真に愉快! 褒美でも取らせてやりましょうか!」


 高飛車姫様キター!


「お主、相変わらずのようだな」

「オホホ、このアタクシにそんな口を聞くとは……え……エリアル姫!?」


 え!? 姫様の名前、エリアルっていうの!? ほんと今更だけど初めて知った!


「そうだ、久しいな」

「え、ええ。そうですわね。それよりもその……あっ、かわいいかも……ではなく! なんてハレンティーな格好を! それでも私のライバルですか!」

「ライバルのう……。悪いがワラワはそのような幼く下らない張り合いはやめたのだ」

「くだら……っ。で、ではアタクシこそがベスティーな美姫、ということでよろしいのですわね!」

「ああ構わん。好きにしろ」

「……一体なにがあったというのですの!? あれほど自らのビューティーに拘っていたあなたが!」

「ワラワなど大したものではない。それに気付いたからだ」

「じょ、冗談じゃありませんわ! アタクシとあなたは1、2を争う間柄。そのあなたが大したことでなければアタクシはどうなるのですか!」


 ────スーパーチールタイムの為、略────


「──わかったか、これが世界だ」

「……ふひぃ、ふひぃ……」


 まあ、あっちは放っておこう。それよりもこちらはこちらでやることがある。


「チールさ……は、あっちで布教活動に利用されてるか。ナル、拷問できる?」

「さ、流石にそれは分野外です」

「……だよね、ごめん。他にできそうな……あっ、メイド伍長!」

「尋問でありますね! お任せください!」

「そ、そうそう尋問ね。頼むよ」


 ちょっと間違えただけで酷いことになる。まあやることは一緒だけど。



「ぐごああぁぁっ」

「さあどこの兵なのか吐くでありますよ!」


 ルーミーはチールさんによって砕かれた賊の膝を踏み躙りながら問い詰める。さすがメイド軍人。


「ぐっがあぁぁっ」

「ぐっがぁ? そんな国はありませんな。自分に嘘をついたでありますな?」


 ガスッガスッと踵で踏みつける。なんて恐ろしい。


「わ、わかった……話す……」

「ワカッタハナス? そのような国もないことくらい知っているであります! どれだけ自分をおちょくるでありますか!」

「ぐぎゃああぁぅぅううおおぉぉ!!」

「ふひーひひひ。早く、早く話すでありますよ!」


 やばい、完全に楽しんでいる。ど、どのタイミングで止めればいいんだ?


「……おや、気を失ったでありますな。根性のない兵でありますね」


 これってどっちが怖いの!? メイド軍人!? ルーミー!?


「旦那様、お水を少々頂きたいであります」

「み、水……水ね。は、はい」


 よく水をざばぁってかけて目を覚まさせるシーンが映画とかで見るけど、あんな感じかな。

 と思ったら、ルーミーは針のない注射器に水を入れ、それを賊の耳に差し込み注射器を思い切り注入した。


「ぶぎゅああぉぉぉああああ!」

「気絶した相手にはやはり『寝耳に水注射』でありますな。大丈夫、もう一方の耳で聞えるであります」


 高圧の水で鼓膜をぶち抜いたのか……。やばいこの子、エキスパートじゃん。


「目覚めたようでありますな。まず自分を煩わせた責任として、一玉潰すであります。その後また同じ質問をするでありますよ」

「ままま待て! シーンストンだ! シーンストン王国の兵だ!」

「シーンストン王国がどうしたでありますか? 自分はまだ質問していないでありますよ。さあ『男奪』を始めるであります!」

「ややややめてくれ! それだけは! それだけはあぁぁ!!」


 男の絶叫が響く。僕は目を背け耳を塞いだ。

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