29話
色々話を聞きたいところだが、なんか今は女子会の最中みたいだ。
みんなの前で話すのも恥ずかしいなぁ……。でも後回しにしたら忘れそうだし、とりあえず予定だけでも入れさせてもらおう。
「ナル、ちょっといいかな?」
「えっ? あ、なんでしょうか」
「後で僕の部屋に来てくれないかな。ちょっと恋愛のことで話があるんだ」
そう言った途端、みんなが思い切り吹き出した。ナルなんか間欠泉くらい頭から湯気を放っている。
やばっ、またやっちゃった!?
「……バカ!」
「えぐっ」
顔を赤くし涙目のニミが僕のスネを蹴って走り出してしまった。
「僕がなにをしたんだ……」
「事情は知っていますが、やなり常識の違いは難しいですよね……」
取り乱したニミを見て正気を取り戻したのか、ナルが顔をしかめていた。
「うん、痛感している。それでなにが悪かったの?」
「異性を部屋に招き、恋愛の話をしたいとというのは、『今夜きみを抱きたい』と言ってるのですよ」
「ぐ……。そう、そういった知識をなんとかしたくて、ナルから恋愛のことを教わりたかったんだ」
「あうっ。……あ、そ、そうですね。わかってます。わかってますが……とにかく今はニミを追って下さい」
「あっ! そうだった! ごめんっ」
僕はニミは向かった方へ全力で走った。
これも後から聞いたことだが、男が女に『恋愛のことを教えて』と言うのは、『僕の初めてを奪って』という意味になるらしい。
……なんとなくわかる気がするけど、わからなくはないけどわかりたくない!
「ニミ!」
とぼとぼ歩くニミになんとか追いつき、手をつかむ。ニミはそれを振りほどこうとするが力の差は歴然。それに逃がすつもりはない。
「ニミ、僕の話を聞いて!」
「なんで!?」
「僕の世界とこの世界の常識が異なっているせいで色々誤解されてるんだよ。僕の発言にはみんなが思っているような裏の意味なんてない」
「う……ん……」
「だからそれを学ぼうとナルに話しかけただけで、他意はない」
「ほんと?」
「本当だよ。それにもしなにかするなら必ずニミが最初。これだけは絶対だから」
「……ごめん。私、嫌な態度した……」
「いいんだよ、ニミがわかってくれればそれで」
僕は掴んでいたニミの腕から手を離した。すると今度はニミが僕の手を掴んできた。ちっちゃくてあたたかい。
僕らは手を繋いだまま、宿へ戻った。
「第一回、充輝さんにこの世界の常識を教えよう大会ーっ」
『ワァー!!』
大喝采だ。どうしてこうなった。
だけどある意味悪くないかも。ナルだってなんでも知っているわけではないだろうし、みんなからの意見を聞けることでバランスをとることができる。
「まずは挨拶を。進行は私、ナル・ドダック。補佐として百戦錬磨代表チールさん、王族代表の姫様を迎え、進めさせていただきます」
『ワァー!』
みんなノリがいいな。僕のときはこんなことないのに。
「こほん。ではまず、新しい婚約者2名を加え────」
「ちょいちょいちょい待った待った!」
僕は慌てて止めた。そんな話はない。
「どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたも、彼女らはお金で雇われた傭兵だよ! 勝手に婚約者扱いはダメだよ」
「私、傭兵を雇ったなんて言ってないよ」
「えっ!?」
そういえば僕もお金を払っていない。
「ニミ、一体どうやって誘ったの?」
「神の使徒が魔王を倒したいんだけどひとりじゃ無理。だから仲間を集めてるって言ったよ」
「本当に?」
「嘘だよ」
「……なんで嘘ついたの?」
「充輝さんなら騙されてくれるよ。私のこと信じてくれるから」
「く……、仕方ないなぁ。そっかぁ、ちゃんと集めたのかぁ」
僕のニミが嘘をつくはずないじゃないか。おかしな僕だなぁ。
「話、進めさせて頂いてもいいですか?」
「ああもちろん。お願いするよ」
「ではまず、充輝さんの無節操なコマシ具合についてですが──」
「そういう誤解を招くような言い回しやめて!」
「……続けても?」
「……スミマセン」
「充輝さんの無節操なコマシ具合についてですが、これを充輝さんは意識していません。つまり天然のスケコマシと思われそうですが、これはご存知の通り、世界が異なるせいで常識も異なり、そのため私たちは言動に混乱をおこしているのです」
なんだ、ちゃんと把握して説明してくれるじゃないか。さすがナルだ。
「つまり、あなた方に対して言っている『守る』などは、言葉の意味通りのことであり、そこに恋愛感情はありません」
そうそう、そういうことなんだよ。流石だなぁ。
「ということは、充輝さんにあなた方への恋愛感情はなく、ようするにみんなは勘違いでついて来たわけです」
……なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。
「御託はいい。なにが言いたいのだ」
「簡単に言うと、充輝さんの妻はニミと私だけであり、みんなはただのナデポチョロインというわけです」
敵対宣言キター!
その昔、ナディア・ポーという女性は、道ですれ違うような相手でも、自分に気があるからわざと近くを通ったなどと勘違いをするような超恋愛脳だったそうだ。それが世代を繰り返すうちナデポと呼ばれるようになったとかなんとか。
「ナル」
「なんですか?」
「降格」
「はいいいぃぃぃい!?」
ナルは声をひっくり返した。
「ななななんでですか!」
「当たり前でしょ。僕だって最初はかなり戸惑ったけどさ、みんな僕を慕ってくれているんだ。しかもこんなカワイイ子たちから好かれて嫌な気分になるわけないでしょ。今ではみんな僕が守るべき大切な子たちだ」
「わ、私は?」
「ナルは降格したので自分で守って下さい」
「えぐっ……えぐっ……」
「なんてことはないからね! ナルのことだってしっかり守るよ!」
ナルは顔を上げてちろっと舌を出した。嘘泣きかよ! くそぉ、かわいいから許したい。だけどここで許したら僕がチョロイン……いや男だからチョーローかな。なんか長老みたいで嫌だな。とにかくそんな感じのものになってしまう。
「……ドダックさん。そういう行為はあまりよろしくありませんよ」
「ごめんなさい!!」
さすがに他人行儀な態度をされるのは堪えるらしく、ナルは平謝りした。でも暫くはこのままにしておこう。
「それじゃ続けようか。えっと、第一回ナル・ドダック裁判だっけ」
「違います!」
「被告人ナル・ドダックは自らを特別としたいがために、他者をないがしろにしようと企てており、その罪は決して軽くなく……」
「ごめんなさい! もう二度としません! 許して下さい!」
「裁判長、どのように致しますか?」
「えーっと、どうすればいいの?」
ううむ、元々村娘らしきニミが裁判なんてわからないか。
「ならば第13妻の刑、執行猶予一月くらいが妥当ではないか?」
流石は姫様。その案乗った!
「ニミ、それでどう?」
「いいんじゃないかな」
「というわけでナル・ドダックには第13妻の刑、執行猶予一月とする。これにて閉廷!」
いやあ、いい裁判だった。しかし第13妻が刑になるのか。つくづく不思議な世界だ。
「……って、そうじゃないです! 充輝さんにこの世界の常識を教えるための会です!」
ああそうだった。忘れてた。




