27話
だが待てよ。勝敗に関係のないお願いだったら叶えてもらえる可能性がある。
「じゃあさ、誰が倒したとしても僕はここに残りたいっていうのはどうかなー?」
「帰りたくないんだ? いいよ。きみはお気に入りだしね。むしろいてくれると嬉しいよ」
言ってみるものだね!
さて、そうなるといよいよ僕は魔王を倒さなくてよくなるぞ。
……っと、それよりチャットだ。
「ちょっと待ってて」
「うん?」
>紫電さーん
紫電玲良:あれ!? チャットできるじゃん!
>今ここに神がいてさ、チャットだけはできるようにしてもらったよ。
紫電玲良:いいなぁ、って、使えた方が私もありがたいからいっか。んで何?
>神から詳しい話を色々聞いたからさ、紫電さんにも共有しておこうと思って。
紫電玲良:マジ!? ありがとう!!
>うん。それで誰が魔王を倒したとしても、みんな日本に帰れる……というかほぼ強制送還らしいんだ。
紫電玲良:へー。まあ帰れるんならいいんじゃん?
>いいの?
紫電玲良:逆に何が問題なの?
>いや、チャーウィングと別れることになるからさ。
紫電玲良:え!? なんで!?
>なんでってそりゃそうでしょ。魔王を倒したご褒美みたいなものなんだから。
紫電玲良:嫌よ! チャーウィングと離れるなんて絶対に嫌!
>じゃあ頑張らないとね
紫電玲良:なんであんたはそんな冷静なのよ! ニミちゃんと別れていいの!?
>僕は頼んだらなんか残れることになったから。
紫電玲良:なんでよ! だったら私のも頼んで! チャーウィングのいない日本になんか帰りたくない!
凄いな紫電さんは。愛に生きているって感じだ。
「ねえ、紫電さんも残りたいって」
「チャットしてたのかい? うーん、彼女のスキルは強力だからね。ここで彼女の思い通りにしたら安心して離脱しちゃうかもしれないよ。それは流石に困るな。勇者候補の彼自身も強いし……」
まるで僕らが弱いから、みそっかすみたいな扱いをしているようだ。
だけどそのおかげで色々優遇してもらえそうだ。これを利用しない手はない。
でもまだなにをどうしたいかは決まってないし、きっとまた来るだろうからそのときまで考えておこう。
それより紫電さんにどう伝えよう。
>なんかチャーウィングが強いから抜けて欲しくないんでダメだって。
紫電玲良:なんで!? キミのほうが強いじゃん!
>実はニミの戦闘値、97しかないんだよね。
紫電玲良:ぶっ!?
>でさ、やっぱ僕らじゃなくて勇者候補である人物が魔王を倒さないといけないっぽいし
>そうなるとニミはどうしても弱いわけなんだよ。
紫電玲良:そっか。私よりも弱いんだよね。もうチャーウィングはあのときの私より強いからなぁ。
>えっ、そうなの?
紫電玲良:ふっふっふ。今はデッキに3つまでセットできるようになったからね!
よくわからないけど、今まで1つずつ出していたものが3つ……3倍の力を得たと考えられる。
チャーさんの素の戦闘値が8000くらいだっけ? それが僕と戦ったとき24000くらいにまでなった。16000上がったとして……56000くらいかな。悪魔と戦ったときの僕を越えているじゃないか。
いや、SR+を召喚できるって言ってたし、あれから紫電さん個人でもレベル上げしていたとしたら、もう10万近く行っている可能性がある。
>こっちはニミをどうにか強化しないといけないからもうね……
紫電玲良:あー、じゃあ私たちの方が圧倒的に上ってことになるから仕方ないのかな。
うう、紫電さんに嘘をついてしまった。実際は別に僕が倒しても多分問題はないと思う。そんな説明最初からなかったからね。
でもどちらにせよ向こうはチャーさんしか魔王と戦わないだろうし、その他の情報はちゃんと伝えた。
これでいい。これでよかったんだ。
「話は済んだかな?」
「うん、まあ……」
「じゃあそろそろ行くよ。また楽しませてね」
好きで楽しませているわけじゃない。勝手に楽しんでるだけだよね。
まあでも色々有益だった。これならピエロになってもいいくらいだ。
「──そんなわけで魔王退治はナシとする」
「待て!」
割って入ったのはチールさんだった。
「どうしたの?」
「どうもこうも、ミツキが魔王を倒し、この剣を伝説の聖剣にするために余は同行していることを忘れたか!?」
やっべ、すっかり忘れてた。
「さっきのなし。魔王は退治します」
「よし」
チールさんを手放すのは色んな意味でダメだ。チールさんと別れるくらいなら魔王を倒したほうがマシだ。
「そんなわけで魔王の情報を魔王の情報を集めたいと思う。なにも知らずに突っ込んで全滅ってことは避けたいからね」
今の僕ならひょっとしてなんて慢心してはいけない。
だけどどうやって情報を得るか。どうにかして見ることができれば、戦闘値が見える。だがそこまで近寄って無事で済むかどうかだ。
「情報でありますか。以前各国の諜報部が調べに行こうとしたところ、魔王の済む場所へ辿り着く前に全滅したという話を聞いているであります」
「近寄るのも無理なのか。一瞬でも見ることさえできればなぁ……」
きっと周囲は強い魔物に守られているんだろう。できるだけ危険を冒したくはないから近付くのは却下と。
「だったらラッティの出番ね!」
「そうだねーっ」
「えー……でもー、あの力を使うとー」
「いいから使うの!」
「ふえー」
また姉妹喧嘩……というわけではなさそうだ。出番ってどういうことだろう。
「なんの話?」
「ふふーん!。実はね! ラッティには遠くを見る力があるのよ!」
えっ、アフリカンなの? 視力5.0くらい?
と、くだらないボケはさておき、きっと念写的なものなのだろう。
「凄い力じゃないか。もっと早く知っていれば……」
「でもー、この力をー、使うとー」
「だから早く喋りなさいよ! その力には欠点と副作用があるから使いづらいのよ!」
「欠点と副作用?」
詳しく話を聞くと、ラッティはこの星にある場所ならば数秒間見ることができるらしい。しかも額をつければ他人でもそれを共有できるそうだ。
だけど誰かを見たとき、その相手にどこで見ているかバレてしまう欠点があるらしい。そして副作用が──
「そのー、ねー。こうー、ムニッってー……」
ラッティはなんか顔を赤くしているが、なにがどうなるのか全然わからん。
「あたしが教えてあげるーっ。えっとねーっ、使えば使うほど胸がおっきくなるのーっ」
その言葉に皆が戦慄した。
「恥ずかしいからー、言わないでよー」
なんて……なんて素晴らしい力なんだ。そっかぁ、だからおっきいのかぁ。
そして女性陣は歯ぎしりをしている。気持ちはわからんでもない。
「悪いけど、その力を使わせて欲しい」
「でもー、居場所がー」
「それも大丈夫だ。バレても問題ない」
人里離れた山奥などでやり、ダッシュで逃げる。互いに応援することによる高速離脱だ。
それにラッティの胸は……ちょっと大きいくらいで、まだ大きくなっても問題ない。むしろもう少し大きい胸を見てみた……じゃなくて、女にあって男にないものだ。もっと誇っていいと思う。
「よし、じゃあ姫様が復活するであろう2日後にやろう」
「────そんなわけでラッティ、頼むよ」
僕らの高速移動の歩行速度は大体時速30キロ。それで6時間かけやってきた山奥だ。ここなら場所がバレてもどこの町にも迷惑はかからない。
「はいー。任されましたー」
ラッティは前髪を持ち上げ、ぼくもおでこを出してくっつけ……当たり前だけど顔近っ! やばいドキドキしてきた。それでもがんばって堪え、くっつけ……なぁう!
おでこよりも先に胸がくっついてきた! やばい、柔らかい!
駄目だ理性がかき氷くらい暴力的に削られていく。
「んー、見えましたー。魔王ですー」
「えっ、マジ!?」
なんとか削れた理性をかき集め体裁を整え、ラッティの額へ自分の額をくっつける。どれどれ。
「ふーん、これが魔王……ぶっ!?」
びっくりして額を離してしまった。それで驚いたのか、ラッティの力も解けたようだ。
「どうかしましたか?」
「……魔王、ムリ。ダメ、絶対」
「ミツキ、貴様──」
「ままま待ってチールさん! 僕の話を聞いて!」
「ふむ、では言ってみろ」
「現在、僕の最大戦闘値は51万です」
『はあ!?』
みんなが凄い顔をして僕を見ている。51万なんてとてつもない数字だもんな。完全に人間の域を越えている。というかもはや軍の域ですら越えていそうだ。
「そして魔王の戦闘値は……1億」
みんな一瞬でお葬式ムードだ。どう足掻いたところで勝ち目なんてない。
「どどどどうすんのよ! てかどうにもならないじゃない!」
「余はミツキに騙されたのか!? 夢を見ている間に体を井戸に捨てられた気分だぞ!」
「えーん、行ったら絶対死んじゃうよぅ!」
わかっている。今のままでは全く勝ち目なんてない。だけどこれで色々と余裕ができたのも確かだ。
「とにかくここから離れよう。僕に考えがある」




