24話
「ここ、こないだの場所じゃん」
「そうだよ」
僕らが来たのは先日紫電さんたちと会った場所だ。
「私もちょっと調べたんだけどさ、グランド・ラゴンってナワバリがあって、他のグランド・ラゴンとぶつからないようにしてるんだって」
「それくらいは知っている。だがこれほどの好立地だ。空いたのであればすぐさま入り込もうとするヤツがいるはずだ」
百戦錬磨のチールさんが言うんだから間違いない。僕らも信頼しているんだ。
「んっ、魔物!」
そしてニミセンサーだ。ニミが見ている先を暫く見ていると、陰からグランド・ラゴンが現れた。
「……その2人いいなぁ。うちに来ない?」
「こらこらこら」
ニミは勇者候補のひとりなんだぞ。
そして僕らを発見したグランド・ラゴンは突進してきた。
「みんな、紫電さんに応援よろしく!」
「えっ、ちょ……なにこのウインドウ。えーっと、『あなたへの……』」
「読んでるヒマないから! 全部『Y』で!」
「う、うん。『Y』『Y』『Y』っと……はあ!?」
いきなり戦闘値が跳ね上がる感覚はなんとも言えないものがある。
急激に自分が大きくなっていくような……外が見えるエレベーターに乗って上昇している気分。体はその逆にどんどん軽くなっていくんだ。
「戦闘値31000!? うっそぉ!!」
「ほらがんばれよー」
「うん! これならグランド・ラゴンなんてナメクジみたいなものね!」
「────まだ終わらないよー」
「スキルレベルも上がってるから仕方ないよ」
紫電さんは次々に現れるレベルアップのウインドウ表示潰しに四苦八苦している。羨ましい。
全部で6つあるって言ってたもんな。まだまだ時間がかかりそうだ。
「あっ、コストのストック上限が増えた! それとSR+が使えるように! 回復量も上がった! 凄い、凄いよ!」
紫電さんは自分の能力が上がっていくことに喜びの叫びをあげた。これでチャーさんも強くなるだろう。
「じゃあ帰ろうか」
「うん! 早くチャーウィングに教えてあげたい!」
凄く嬉しそうだ。チャーさん愛されてるな。
「────ねえ、私たちと一緒に動かない?」
「ん?」
帰り道、紫電さんが突然こんなことを言ってきた。
「ほら、あの応援があればチャーウィングはとんでもなく強くなれるから、きっとどんな敵でも倒せると思うんだ」
「だけどそれじゃあ僕のレベル上げができないし、なによりニミが魔王を倒せない」
「……そっか……」
残念そうに空を仰ぐ紫電さん。結局、誰かひとりしか成し遂げられないんだ。だからいつか敵対するのは仕方がない。
「私はいいと思いますよ」
「えっ? ナルの意見を聞かせてよ」
「充輝さんは魔王を倒した後、どうするのですか?」
「そりゃあニミと一緒に元の世界へ──」
「つまり魔王を倒せなければそれが叶わないわけですよね」
「まあ、そうなるのかな」
「だったらいいじゃないですか。魔王を倒さず私たちと一緒に暮せば」
最後のは自分の望みのようだった。
そうだ、僕がいなくなったら、この子らは今までの日常に戻ると思っていたけれど、そんなわけがない。
それに僕が元の世界へ戻ったとしても……。
僕は両親がいなく、父の従兄弟の人の家で世話になっている。でもやはり他人の子だろうし、その人の娘……僕のハトコに当たる子が、僕のことを疎ましく思っているのが態度でわかる。
だからいっそ、僕がいなくなってしまった方が幸せになれるのかもしれない。
よし帰るのはやめだ。しかし今は……。
「でもやっぱだめだ」
「そうですか……」
ナルは気落ちしてしまった。だけどこれはちょっと言えない。もちろん目の前に紫電さんがいるからだ。彼女に聞かれたら凄く怒るだろうし、最悪敵対する可能性がある。
理由はもちろんニミと地球へ帰るわけじゃないのに魔王を倒そうとしているからだ。
今はお互い同じ望みであるライバルという立場だから、相手に対して文句は言えない。でも僕が地球へ帰るつもりはないよなんて言ったらどう思うかわからない。紫電さんは感情的になりすぎる気がするから特に。
あとこのことは早いうちにみんなへ話さないといけない。震える手で僕のシャツを握り、うつむくナルを見てそう思った。
「第一回、秘密暴露大会ー!」
城の僕が寝泊まりさせてもらっている客室にみんなを集め、話すことにした。もちろん紫電さんはいない。
「えっ、なにそれ」
「ミツキはようわからんな」
「まあ今更なことですよ」
酷い……でも負けない!
「実は僕、神の使徒なんだ」
「「「知ってる」」」
「……最後まで聞いて。神の使徒なんてやっているわけなんだけど、本当はこの世界の人間じゃないんだ」
「えええーっ!?」
凄い声で驚いたのはディージだけだった。あれ?
「ニミやナルたちには話したけど、なんで姫様やチールさんは驚かないの?」
「神の使徒は異世界人。神学を学んでいれば知っていて当然なこと」
「うぬ、余もその程度の知識はある」
えっ、えっ。そんなメジャーなことなの?
「ディージは知らなかったみたいだけど」
「えーん、私は教会の会員じゃないよぅ」
会員ってなんか違わない? 信者とか教徒じゃないのかな。
いやでも会なんだから会員と言ってもいいのかも……。
「まあとにかく、僕の目的はニミと魔王を倒し、ニミを僕の世界へ連れて帰ることだったわけだ」
「……それ、ニミだけなんですか? 私……たちは、どうなるのですか?」
ナルが寂しげな声で聞いてくる。
「私、連れて行かれるの?」
「もちろんニミが嫌というのなら連れて行かない。まあぶっちゃけた話、神との約束は『魔王を倒したらなんでも願いを叶える』といったもので、ニミにこだわったものじゃないんだ」
「でもなんでニミなんですか?」
「なんでって言われても……。僕がこの世界へ呼ばれたきっかけは、元の世界マンガ──ニミの絵が描かれた書物を見つけたからなんだ。その本の絵に惹かれて買ったわけだし、僕が神から付くようにされた相手もニミだ。つまりこの世界と僕の間には、ニミしか繋がりがないと言える」
「そうだったんですか……。充輝さんがニミにこだわる理由がわかりました」
「うん。だけど魔王を倒したから僕はニミと元の世界へ戻るよバイバイっていうのはしたくない」
「じゃあどうするんですか?」
「なんとかいい方法を考えるよ。場合によってはこの世界へ留まるし、そのときは一生遊んで暮らせるだけの金品でももらうさ」
「それ、それを採用でお願いします!」
「そうよ! そうじゃなかったら……ずるいじゃない!」
ナルたちが懇願するようにかぶりついてくる。一応今のところはこれが第一候補だ。
「余も……まあミツキといれば退屈せんからな」
「あたしは旦那様のこと信じてるよーっ」
「ワラワも婚約直後に未亡人なんぞなりとうないわ」
みんな僕に残ってもらいたいんだ。ちょっとうるっときた。日本に戻ったところでここまで必要としてもらえるなんて思えない。僕の本当の居場所はこの世界なのだろう。
「……って、姫様! いつの間に婚約してたの!?」
「私が以前教えたじゃないですか。守るというのはプロポーズなのですよ」
「そ、それは聞いたけど……」
「それに対し、女性がその場から逃げた場合、あなたを信用しませんという意味になり、居続けたらあなたに全てを任せますという意味になるんです」
「マジで!?」
てか僕の場合、範囲外へ行かれたら本気で困るどころじゃなくなるからなんだが……。
「ミツキ殿! おられるか!? ミツキ殿!」
突然扉が激しく叩かれ、返事をする間もなく勢い良く扉が開かれた。げっ、王様!




