23話
「────もうこの部屋は使えんな」
「すみません……」
「よい。所詮は城の仮部屋よ。宮殿のワラワの部屋でなくてよかったわ」
今、城のメイドたちが総動員で悪魔の肉片を片付けている。
完全にオーバーキルだった。たかが37000の相手に54000のフルパワーで挑んでしまったのだ。力の加減がわからず、2秒で終わってしまった。
だけどさすが強い悪魔。レベルがまた一気に20も上がった。
僕の戦闘値も252まで上がり、ひとりでもゴブークをなんとか倒せるかもしれないくらいになった。
「それよりミツキよ。お主本当に凄いのだな!」
「ありがとうございます」
「それに比べチャーウィング、もっとしっかりせい!」
「……面目ございません……」
チャーウィングは膝をつき項垂れる。悪魔の強さが身に沁みたようだ。悔しいだろうなぁ。
「これは一体どういうことだ?」
「あっ、王様」
騒ぎを聞きつけ、安全が確認されたことでようやくやって来れたようだ。
「ミツキがな、ワラワに言い寄る悪魔の前へ立ち塞がり……もう凄かったのだぞ! 鬼神とはこのようなもののことを言うのであろうな!」
姫様が興奮気味に語る。
「それほど凄かったのか」
「もう一方的であったぞ! 草葉と戦っているようであった!」
そこまで弱かったとは思わないけど、まあ一切抵抗させず蹂躙したからね。
「それでチャーウィングは?」
「一撃で吹き飛び伸されておったわ」
「うぬ、ぐぬぅ……」
王様は顔をしかめる。
ごめんよチャーウィング。僕が先に戦っていればこんな思いさせずに済んだのに……。
とにかく城の悪魔騒ぎは終わり、僕らは客間を貸してもらえ一晩泊まることになった。
凄い豪華だった。もうここに住めたら……いや駄目だ。王族関係はこれっきりにしたい。
「……ちょっと、起きてよ」
「んー?」
誰かが呼んでいる。ニミ……じゃないな。ナルでもない。喋り方からしてローティ? でも声は紫電さんっぽいな……。
「──って紫電さん!?」
「しっ! 声が大きい!」
「ご、ごめん……」
暗い部屋でロウソクが薄っすらと照らすのは、僕の寝ているベッドの上で四つん這いになり僕を見ている紫電さん。……これはYOBYE!?
「あ……えーっと、ごめん。初めてはニミがいいんだ」
「は? ……死ね!」
「おぶぅっ」
腹に思い切り拳を突き立てられた。とんでもなく痛い。
「バカにしないでよ! 私だって初めてはチャー……そうじゃないわよ! ちょっと頼まれてよ」
「な、なんだよ……」
「私のレベル上げ、手伝って」
なんでも今、チャーウィングは危ない立場にいるようだ。自国の勇者なのに悪魔の一撃で使いものにならなくなるようなていたらくだったからだ。
いやチャーウィングは充分強いんだけどなぁ。
そして今、僕らを取り入れてしまおうと考えている人間もいるらしく、でも最初の取り決めで今回だけだとしていたから、色々画策しようかという話まで出ているそうだ。夜分遅くまでかなり言い合っていたらしい。
「だけどうーん、友達とはいえライバルでもあるからなぁ」
「わかってるわよ。それでもお願い! お願いします!」
紫電さんは四つん這いの状態のまま頭を下げた。これじゃ土下座だ。
さてどうするかな。
ニミと地球で共に暮す。この一点に限れば2人は完全に邪魔だ。手を貸すなんてとんでもない。
だけど2人とも悪いヤツじゃなく、むしろいいヤツだと思う。
ここで切り捨てるのは簡単だけど、できれば今後とも良好な関係でいたい。
でも……。
「悪いけど────」
「そこをなんとか! お願い!」
「────悪いけど、僕が手を貸すのはレベル20くらいまでだから」
「そ、それでもいい! ありがとう!」
このままだと、この国から僕らが目を付けられる可能性がある。そういう意味でも少しくらい手伝ってチャーウィングがまだ使えると思ってもらったほうがいい。
それに今後僕らがピンチになったとき、助けてもらえるかもしれない。
で、紫電さんは涙を浮かべた笑顔で抱きついてきた。
まあ喜んでもらえたし、いいか。
「充輝さん、なにかあったんですか……うわぁ」
「げっ、ナル!?」
なにやら騒がしいなと隣の部屋のナルが確認しに来てしまった。
「充輝さん酷いです!」
「誤解だナル! これは違うんだ!」
「どうしたの? ……あ」
「ニ、ニミいいぃぃ!」
ニミに見られた! 最悪だ! すぐにでも誤解を解かねば!
「紫電さん! 離れて!」
「えぐっ、えぐっ」
ダメだ! 感極まってる! ああもうどうすれば!
「ナル、助けてくれ!」
「言い訳ですか?」
「言い訳でもなんでもいい! 助けて!」
「「ごめんなさい」」
「いや、いい……」
誤解が解け、紫電さんとナルは謝罪してきた。ニミはまだなんか怒ってる。
「それでどうするんですか?」
「みんなの応援で紫電さんを強化して強い魔物にぶつける」
かなりのゴリ押しになるが、これが一番手っ取り早い。朝ここを出て帰るころにはレベル20くらい可能だ。
「てなわけで朝、ラゴン退治に行こう」
「い、いきなり!?」
異世界に来て初めて倒した魔物がグランド・ラゴン。やがて彼女はラゴン系女子として有名に。
「も、もちょーっと弱そうなのからやらない?」
「やだよ時間かけたくないし」
そんなわけで、げんなりしている紫電さんは明日早朝、ラゴン狩りへ行くことになった。
「……それはいいんだけど……」
「どうしました?」
「……なんで姫様までいるの?」
「なにがおかしい?」
そう、早朝集まった中には姫様がちゃっかりと紛れていた。ひとりだけ馬に乗ってるからとても目立つ。
「いや、だって……」
「ワラワもミツキーズの一員ではないか。見てみぃ、お揃いだぞ」
ああ昨日チア服貸したままだった。てかミツキーズってなに!?
「あのね姫様、僕らはこれから危ないところへ行くんです。姫様にもしものことがあったら……」
「そのときはミツキが守ってくれるのであろう? 約束したはずだ」
「えっ……えええーっ」
なんでそうなるの? あの場だけでの話でしょ!
「ねえナル。守るってそんな大層な言葉なの?」
「当然じゃないですか。男性が女性に守ると言うことは、これからの生涯、あなたを全てからの困難から守り抜きますって意味なんですから」
「……マジで?」
「頑張って下さいね。私、自分の子が3人は生まれないと困難になってしまいますから」
ニコリと笑顔で言わないでよ!
「で、でも姫様はほら! 王族だよ! 僕みたいな庶民に守られるのなんか当然でしょ!」
「なにを言うておる。庶民を守るのが王族の役目ぞ。だというのにワラワは……その……告白までされてしまったのだぞ! もう嫁ぐしかあるまい!」
「他にもいっぱいやることあるよ! もっと国を大事にして!」
くっそぉ、真っ赤な顔でモジモジされたらムチャクチャかわいいじゃないか。やめてよ、僕は誘惑にとても弱いんだから!
「姫様、庶民には庶民の暮らしというものがあり、様々な決まりごとがあるのです。そういうのを蔑ろにされては困ります」
さすがナル。王族だからといって庶民の生活に対し、口を出していい面と悪い面があるという話だよね。
「具体的には?」
「一番嫁はニミで、2番が私。あとはローティさん、ラッティさん、パティ、そしてチールさんという順です」
いつの間に!? てかローティそれでいいの!? てかチールさんは違うでしょ!
「えっ!? 私は!?」
「ディージさんも充輝さんの妻になりたかったんですか?」
「う、うん……」
「ではその次がディージさんです。いくら姫様といえど、これを覆してはいけません」
「えーん、忘れられてたのかと思ったぁ」
「そ、それではワラワが8番になってしまうではないか!」
「問題ありますか?」
「当然であ……ちと待てい! チール様が6番とな!?」
「そうですね」
「チール様! チール様はそれでよいのか!?」
「ん? 余は別に構わんぞ」
構わないの!? てかチール様ってなに!?
「ぐ、ぐにににに……。だ、だがせめて! せめてチール様と並べてはくれぬか!?」
「それはディージさんに聞いてください」
「えっ、私!?」
突然振られたディージは驚く。そりゃそうだろうね。
そして僕は驚きっぱなしだ。僕がいない間の女子トークが恐ろしくて聞けない。
「お、お主は確か、我が国民だと申しておったな!」
「え……えーん、8番になりますぅ」
「そうか! すまんな! 後で褒美を取らすからな!」
「えーん、それはそれで嬉しい私がいるよぅ」
僕を完全に無視した僕の嫁会議は終了したようだ。
「……異世界だからってハーレムとか引くわー……」
「違うからね! 不本意だからね!」
おぞましいものを見るような目で紫電さんが僕を見ている。
「じゃあなんでこんなことになってるのよ!」
「僕は頑張ってみんなを守ってただけだよ!」
ほんとなんでこんなことになってしまったのか理解に苦しむ。これは日本と根本的に考え方が異なるからとしか言えない。
出かける前から疲れてしまった。まあいいや、行こう。




