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22話

「待て! 妖しい格好をした奴らめ!」


 城の前で衛兵に止められた。なんで!?

 妖しい格好……ああ、チア服のことだろう。やはり城へ入るドレスコード的なものに引っかかるのかな。


「ちょっと! この人たちは私のトモダチで、王様に呼ばれて来たんだよ!」

「れ、レイラ殿がどう言おうと、少し確認させていただきたい!」


 そう言いながらこの衛兵やろう、さっきからみんなのふとももをチラチラ見てやがる。鼻の下伸びてんぞ。紫電さんに告げ口してやろう。


「ちょっと紫電さん。耳を貸して」

「なに? ……スケベ!」

「なっ!? わ、私は任務を遂行しているだけで、決して足などを見ておりません!」

「……誰がどこを見てるなんてひとっことも言ってないんだけど?」

「ぐふっ」

「これ以上止めるつもりなら上に報告するよ?」

「そ、それだけはどうか!」


 こんなやりとりの後、僕たちは割りとすんなり城内へ通された。



 そしてやって来たのは謁見の間……ではなく、中庭のような場所。なんで?

 でも目の前にいるのは王様らしく、とても威厳を感じられる人だ。その周囲には兵がいて、あと僕らの周りを偉そうな人たちが囲っている。


「で、レイラよ。この者らがお主の他の神の使徒と勇者候補か」

「そうですよ。私のトモダチです」


 凄いな紫電さん。王様相手でも臆していない。


「ほう、ではチャーウィングを倒したのは?」

「はい僕です」

「なっ……こんな弱っちそうなのに……うーむ」


 はい弱っちいです。素なら5秒以内に死にます。


「おい、ジアラン」

「はっ、ここに」


 王様に呼ばれてとても強そうな騎士が跪いた。


「では少し見せてもらおうか」


 王様はにやりと笑う。

 そっか、謁見の間なんかで抜剣なんてさせるわけにはいかない。だからこの中庭へ通して僕の実力を見ようってわけか。

 じゃあま、遠慮なく行かせてもらいます!




「……参りました」


 騎士は2秒ももたず地面に這いつくばった。そりゃたったの3300じゃなぁ。


「き、騎士団長を一瞬で……話は本当であったのか」


 騎士団長だったのか。全盛期のチールさんより下だったけど……こうなるとチールさんの強さがどれだけ異常だったかよくわかるな。


「納得していただけたでしょうか」

「う、うむ。それでは本題に入るぞ。レイラから聞いておると思うが、娘を狙う悪魔がおってな、なんとかこれを倒したいのだ」


 この城下町へ来たのは、宮殿を戦場にするわけにはいかなかったからだそうだ。まあ城は戦うことを想定して造られているんだからここへ来るのは正しいんだろう。そしてチャーウィングは悪魔の動きを封じるのに使う魔法陣の素材としてグランド・ラゴンを倒していたと。


「わかりました。出来る限りやってみたいと思います」

「そうか! 助かるぞ!」


 悪魔は倒したことがあるけど、次も同じ強さとは思えない。前回は所詮村でくすぶっている程度の輩だが、今回は王族相手にやってくるような奴だ。気を引き締めないと。


「あと報酬の件なのですが……」

「ふん、神の使徒とて所詮は庶民。俗物め」


 わざと聞えるように言っただろ、えっと……大臣みたいなハゲ! 後で面白いことにしてやろうか。


「よい。申してみろ」

「えっと、ご存知の通り、僕らは魔王退治に向かいますので、手を貸せるのはこれっきりということにして下さい」

「なるほど、手切れを差し引いた分でいいという話だな」


 そう。報酬が多いと『前回多目に渡したのだから次も手を貸せ』とか色々言い出すことができる。だけど少ない報酬にすればそういったこともできない。僕らはあくまでも国とは別口でいたいのだ。


「さすがです。あと、他国の人間が倒したのではなく、自国内で収めたことにして下さい。ちょうど彼女がすぐ近くの村の娘です」


 そう言ってディージを押し出す。王の御前でメチャクチャ緊張しまくって涙が止まらないようだ。


「それはむしろ良い話だな。ではそのようにしよう」

「あと、できれば事前に姫とお会いしたいのですが……」


 と言うと、王はまたにやりと笑った。


「わかっておるわ。娘のうわさを聞き、是非ひと目見たいと申すのであろう。親の贔屓目を抜いても、あれはとても人の目を惹くからな。おい」

「うむ、父上」


 そうして柱の陰から現れた姫は……カワイイ!

 確かに言うだけのことはある。ちょっと生意気そうな目も愛らしさへ変換されるほどかわいい。

 でも僕はちょっと気弱そうなニミの表情のほうが好きだ。つまりニミのほうが僕にとってはかわいい。


「で、このモノらがワラワを守るというのかや? 揃いも揃って実に庶民らしい顔……お?」


 やばい、姫様がチールさんをロックオンしている。


「そこのもの、ここは城内なるぞ。しかも王族たるワラワを前にして帽子を取らぬとはなんたる無礼」

「申し訳ありません! この子、見たら減るんです!」

「そ、そうなの! 減ったら困るからお願い!」


 紫電さんもフォローしてくれた。しかし姫はにやりと笑う。


「減ったら減ったでよいではないか。それともワラワを侮辱しておるのかや?」

「そんな滅相もない……」

「だったら顔を出させい!」


 そう言って姫様はチールさんの帽子をはたき落とし、青ざめぷるぷると震えてへたりこんでしまった。


「ひっ、姫様! しっかりして!」

「……のうレイラ。ワラワは本当に美しいのか? 皆で謀っておるだけではないのか? 裏で馬鹿な道化だと笑いものにしているのではないか?」

「そ、そんなことないよ! 姫様は超カワイイんだって! あの子は天使か女神なんだよ! 一緒にしたらダメ!」


 姫様は泣きながら紫電さんに支えられ、中庭から去っていった。

 なんだろう、そろそろ様式美を越えてくどくなってきたぞ、このパターン。


「それで王様」

「……おっ? ぬ、そ、そうであった。よろしく頼むぞ」


 頼まれてしまった。




「イヤだ! ワラワはお前らが嫌いだ! 近付くではない!」

「そう言われても……」


 なんでか凄く嫌われてしまっている。僕らは悪くないよ!


「わかっておるぞ! お前らは絶世の美姫とか言われ、自惚れておるワラワを笑いに来たのであろう!」

「そ、そんなことはありません! ほらチールさんも謝って!」

「何故余が……」

「いいから謝って!」

「う、ぬう。すまん……」

「ほら姫様、チールさんも謝りましたよ! だから機嫌を直してください」

「貴様、ワラワをバカにしておるのか! そのものが謝ってなんになる!」


 だよね、知ってた。でも一応試してみないと。


 じゃあもう仕方ないなぁ。ちゃんと説明しよう。


「姫様」

「な、なんだ?」

「姫様は美の女神をご存知でしょうか」

「当たり前だ。王族たるもの神学にも精通する必要がある。絵にも描けぬほど美しいそうだ」

「ではかわいいの女神はご存知で?」

「か、かわいいの女神?」


 そう、歴史の闇に葬られてしまった、この世の全てのかわいいを司る女神。それが彼女なんだ。


「う、ぬ……あれを見てしまったら言い返せぬ……」

「神と人間を比べるなんて傲慢で愚かなことです。だから姫様、あなたはかわいいんです!」

「ほ、本当か!? 本当にワラワはかわいいのだな!?」

「ええ、人間の中であれば間違いなくトップクラスです」


 よし姫様に自信が戻ってきたぞ。いい感じだ。


「ミツキよ。毎度余が引き合いに出されるのは何故だ?」

「……ひょっとしてチールさん、自分のかわいさを理解していない?」

「昔からそうやって散々おちょくられてきたからな。慣れたわ」


 もうこの件に深く関わるのはやめよう。押し問答になりそうだ。



「そうであったか、やはりワラワはかわいいのであるな。やい貴様、名をなんという」

「はっ。充輝と申します」

「ミツキか、覚えてやろう。それにしてもお主ら、なにやら珍妙な格好をしておるな」


 お? 落ち着いたところで態度が軟化したぞ。これで多少話しやすくなればいいな。


「彼女らが着ているのは神から送られた衣で、着用することにより僕の力を上げてくれるのです」

「ほう、ほう。神から。ほう」


 とても興味ありそうだ。それもマーチングの方ではなくチアの方に。


「よろしければ着てみますか?」

「よいのか!? ……しかし、むう……」


 もじもじしている。この世界ではエロティックな感じらしいからなぁ。

 だが神の衣である。神聖なものなんだから問題はない。

 天女なんて羽衣しか纏ってないとか、ビーナスなんて全裸だとかそんな感じで受け取ってもらおう。



「ど、どうだ?」


 暫しカーテンの裏でごそごそしていた姫様はチア服を着ていた。

 まだ恥ずかしいのだろう、赤い顔をうつむかせて体をくねらせている姿はなんとも言えないかわいさがある。


「凄い! 姫様! かわいい!」

「そ、そうか?」

「姫様ステキ!」


 みんなで大絶賛。いやまじホントかわいい。気をよくしていろんなポーズを取り出す姫様マジカワ。


「ちょっとキミたちうるさい……ヤダ姫様! 超かわいい!」


 僕たちが騒いでいたせいで外にいた紫電さんが怒鳴り込んできて一緒に騒いだ。


「ねっ、ねっ、こっちのパレードのも着せてみたい!」

「姫様は着せ替え人形じゃない──」

「……悪魔!」


 ニミが鋭く反応した。皆に緊張が走る。


「ちょっと行ってくる!」


 紫電さんが部屋から飛び出し、チャーウィングと合流した。


「コスト18を消費し、中代の勇者SR! 力を貸して!」


 僕らのときよりも数字が上だ。こないだは多分その前に使っていたせいでコストとやらが足りなかったんだろう。つまりこれが今の本気というわけだ。


「ぐあぁっ」

「チャーウィング!!」


 チャーウィングが吹き飛んでいってしまった。やばい、これなんとかなるのか!?


「フン、なかなかの歓迎だな。チャチな封印まで施して……ワシの力の前では無意味だったがな」


 こいつが悪魔か! くっ、余裕そうだ。チャーウィングのコスト18SRの力がどの程度かわからなかったが、あんな簡単に負けるなんて……。


「気をつけて! そいつの戦闘値、37000もある!」


 げっ!? 紫電さんの叫びに驚愕してしまった。37000とかどう逆立ちしても……あっ!


「さあ姫よ。選ぶがいい。ワシと共に来るか、国を滅ぼさせるかを」

「ぬぐぐぅ……」

「姫様、僕が絶対に守るんで、この場で応援して下さい!」

「おっ? う、が、頑張ってくれ」


 『あなたへの応援が届きました────』


 よっしゃ来たぞおおぉぉ!!

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