21話
紫電玲良:おーい、見えてるでしょー
紫電玲良:そっか、返事できないんだっけ。
紫電玲良:王様がキミたちに用があるって呼んでるから来てよー
……朝っぱらから嫌なものが来ていた。なんて酷い目覚めだ。
王様が僕らを? 冗談じゃない。
とりあえず朝のひと伸びっと。んーーーーーっ。
よし決めた。この国から逃げよう。
「みんな、大事な話がある。僕らは急いでこの国をでないといけなくなった」
『ええっ!?』
朝食のとき、食べる前に報告。
みんなうろたえてる。そりゃそうだろう。
「な、な、な、なにをやららりらろれすか充輝さん!」
「わ、私、充輝さんを信じていいの?」
あぅ、ニミにまで疑いの言葉をかけられた! しかも久々にナルの舌が彷徨ってる!
「ちょ、ちょーっと話を聞いてくださりやがって!」
変な誤解を受けるのは嫌だ。ちゃんと説明しよう。
「──つまり、理由はよくわからないですが先日会った紫電さん伝いに王様が充輝さんを呼んでいて、それで面倒なことに巻き込まれぬようこの国から離れたいという話ですね」
「ナルはいつも僕の話を簡潔にまとめてくれてありがとう。とても助かるよ。まあそんなわけなんで、いろんなところへ伝達される前にどこかへ行こうってわけなんだ」
「えーん、仲間になった早々国外逃亡……酷いよぅ、酷いよぅ」
「だ、大丈夫だディージ。別に犯罪者とかそういうのじゃないから」
「でも王様直々のお呼び出しに応じなかったわけですから、なにかしらの罪に問われる可能性も否定できないのではないでしょうか……」
ぬぅぅ、それはまずい。ここはみんなの母国であり、もう戻れないかもしれないとか……あれ?
「ニミってこの国の子?」
「違うよ」
そういえば僕はニミの出生とか全然知らなかった。
でもこんな異世の中だと色々聞きにくいことがある。特にニミは大変な生き方をしてたっぽいし。
「ナルは?」
「私も違います」
「3姉妹は?」
「ちょっと! そういう略しないでよ!」
「ごめんごめん。それで?」
「私たちはー、おばさんのー、つてでー、ギルドにー……」
「まどろっこしいわね! おばさんに頼まれてギルドの手伝いをしに来ただけで、この国の住人じゃないから!」
そういやナルの母親がギルド長で、3姉妹はギルド長と会ってるんだよな。てことは魔法ギルドの本部的なところが別の国にあるんだろう。
「チールさんは?」
「余は流浪であるから国は持たんぞ」
「なんだ。じゃあ別にこの国を離れたところで全く問題は──」
「私思い切り地元なんだよぅ!」
ディージが半泣きで訴える。
「そ、そうだったね。ごめんよディージ」
「ええん。忘れられてるよぅ、忘れられてるよぅ」
さて、こうなってしまうと無視しきれないのか。困った────
「ちょっと! 呼んだでしょ! なんで来ないのよ!」
紫電さんが来てしまったー!
やばい、これで逃げられなくなった。
「よ、よくここがわかったね」
「フレ録したでしょ。同じ町にいればマップに表示され──」
「えっ!? なにそれ!?」
「え?」
その機能もないよ! チクショウ! なにマップとかっていう素敵便利機能! しかも僕は居場所わからないのに紫電さんからはわかるとか、あまりにも一方的過ぎてつらい。
「それはいいや。呼んだんだから来てよ」
「どこに?」
「どこにって……そっか、マップ出ないからわからないよね。ごめん」
なんとか僕が行かなかった理由がたてられた。
「でもさ、王様が僕らになんの用なの?」
「えーっとね、チャーウィングはこの国で育成している、ようするに国産勇者なわけ。実際国内じゃ勝てる人なんていないんだから」
国産黒毛和勇者……いやチャーウィングは金髪だし和っぽくない。
「なるほど」
「そんなチャーウィングが本気で戦ったのにボロボロなんだよ。最初王様はおこだったけど、私のトモダチってことを話したら今度は興味持っちゃってね」
「んー、断れないかな」
「なんでー? 王様ちょっとワガママだけど気前いーからお金とかくれるよ?」
「確かにお金は欲しいけど、それを受け取っちゃうと囲われそうなんだよね。他での活動に制限ができそうだから遠慮したいんだ」
勝手に自国の勇者扱いとかされたらたまらない。メリットはあるだろうが、デメリットもあるはずだ。どんなデメリットがあるかわからない以上、メリットも手放したほうがいい。ただでさえハイリスクハイリターンな戦闘を何度もやっていたんだから戦闘以外は平和に暮らしたい。
ニミの場合だって、本当なら僕は戦わなくてよかったはずなんだし……。
「その点なら大丈夫。それどころか逆に王様に借りを作ることができるよ」
「貸しを作るじゃなくて?」
「どう違うの?」
ちょっと目眩がした。この子ロクに考えず生きていたのだろうか。
「ま、まあいい。貸しを作れると仮定して、その根拠は?」
「えっとね、なんか悪魔がお姫様を奪う的な? みたいな話でさー。護衛を増やしたいっぽいんだよね」
なるほど。それを守りきれば王様に貸しが作れると。んで貸しではなく金で片付ける。悪くない話だ。
「その姫様って悪魔が狙うほどなの?」
「そりゃもう絶世の美少女! って感じ。あれほどかわいい子なんて……あっ、人間の話でね!」
チールさんをちらりと見てから慌てたように取り繕う。そうだ、世には美の女神がいるように、かわいいの女神もいる。それがチールさんだ。決して人間には届かない頂きにいる存在だ。
ニミはかわいいの化身だけどね!
「んでまあ一見の価値はあると思うよ! 人間の限界値はここって感じがするから!」
ほう、ニミをさしおいて人間の極みを語るか。
「よしじゃあ方針変更。まず王様のところへ行って姫様を助ける。そして褒美をもらいつつディージの家のことをなんとなくアピールする」
「わ、私んちアピールしてどうすんですか!?」
「国としては他国の人より自国民が救ったっていうほうがいいでしょ。うまくいけば生活とか支援してもらえたりするんじゃないかなって。そうすればディージだって心置きなく旅に出られるよね」
「……えーん、うれしいよぅ。ちゃんと私のことかんがえてくれるんだぁ」
ディージはよく泣くなぁ。最初会ったときなんか号泣してたもんな。
「じゃあ早速行こうか。紫電さん、案内して」
「おっけ! キミたちが来てくれるとほんと心強いよ」
さてどうなることやら。




