20話
「────参った」
ボロボロのチャーウィングは息も絶え絶えで片膝をつき、負けを認めた。
僕の戦闘値は27000を越えているからね。5000も差があるんだからこの結果は仕方ない。加減がわからなかったせいで8秒もかかってしまった。
「な、なんでキミ、そんな強いのよ!」
「まあ、かなりレベル上がったからね」
「い……いくつなんだい?」
「んー、38」
「「は?」」
ふたりはハモった。そしてチャーウィングは項垂れた。
「たった……たったレベル38に負けたのか……俺は……」
「えっ? チャーウィングのレベルっていくつ?」
「……174だよ」
「ぶっ!?」
99か100でカンストじゃないの!?
「教えてよ! なんでキミはそんなに強いのよ!」
「えーっと、企業秘密?」
「お願い……お願いします! キミの障害になるのはわかってるけど、私だって必死なの! チャーウィングと帰りたいの!」
紫電さんは深々と頭を下げる。よっぽど彼のことが好きなんだろう。その気持ち、よくわかる。
「仕方ないなぁ」
僕が逆の立場だったら是が非でも教えてもらいたいもんな。せっかく出会えたんだし、ここは塩を送ろう。
「──私のレベルを上げる?」
「そう。戦ってレベルを上げるんだ。そうすればもっと力を引き出せるはずだよ」
少なくとも僕はそうだった。というか僕が戦わなければいけない状況と能力だったから仕方ない。
ちなみに戦ってないせいか、ニミのレベルは2だ。
「えーっ、私、戦えないよー」
「じゃあ諦めてよ」
紫電さんはがっくりとした。そこまでしないと頂きには届かないんだよ。
「ところできみ、ミツキ君といったか? ひょっとして彼女らには応援の力があるんじゃないか?」
チャーウィングが核心をついてきた。僕の能力を知っているようだ。
「あっ、うん。よく知ってるね」
「一回だけ受けたことがあるんだよ。あれはなかなかよかったよ」
「ねえ応援の力ってなに?」
紫電さんが不思議そうな顔をした。
「応援の力を持つ人に応援してもらうと、ちょっと力が上がるんだよ」
「ふーん……あ、わかった! だからチアなんだ!」
だからと言われてもわからないが、応援だからチアってわかりやすすぎるよね。
「とりあえずこれを着ると応援の力が上がるんだ」
「へー、どれくらい?」
「フルセット着れば2倍になるよ」
「2倍!? じゃあえーっと……7人いるから……えっと、14倍なわけ!?」
「ううん、2の7乗だよ」
「ななじょーてなに?」
「……紫電さん高校生だよね?」
「当たり前じゃん! 馬鹿にしないでよ!」
いや累乗を知らない高校生なんていないでしょ。中学生だって知ってるよ。
「えっと……2を7回掛けるんだよ……」
「ああそういうの7乗って言うんだっけ。聞いたことあるよ。えっとー、2、4、8……。はち、きゅー、じゅっ。じゅういち……16!」
指を使い始めたぞ。大丈夫なのかな。
「これで何回目だっけ? えっとえっと……64。そして128だ! ……128!?」
それを聞いた途端、チャーウィングは僕に跪いた。
「た、頼む! 2、3人貸してくれ!」
「彼女らは物じゃないんだからそんなこと言われても……」
「そ、そうだな。……すまない」
「あと僕がいないと意味がないから」
「どゆこと?」
「僕の力が、応援の力を相手が使えるようにする能力だからだよ」
「なっ、なんてものを持っているんだ」
チャーウィングはがっくりと項垂れた。
話によると、応援の力を持っている人なんて滅多にいないらしい。それも絶大な力が手に入るわけでもないし、レベルが上がったからといって倍率は上がらない。そして数が少ないから何人も用意できるものではないため、それほど重要視されていないそうだ。
だがその力を他人へ与えられるとしたら……たくさんの人が使えるようにさせれば、一瞬でパワーバランスが崩壊する。
でもまだまだ謎の多い能力だ。早めに詳しいことを知っておかないと、自分の首を絞める可能性がある。気を付けよう。
「ところでそちら──紫電さんは自分の能力をどうやって調べたの?」
「え? もらった能力だったら詳細出るでしょ?」
「えっ?」
「えって、ウインドウスクリーンモードにして、能力を表示させて、んでもって────」
「ちょっと待って! ウインドウスクリーンモードってなに!?」
「えっ?」
…………色々話し合った結果、彼女が取得した能力のひとつだということが判明。紫電さんは6つも手に入れていたとのことだ。
そりゃ神が僕に同情して2つも追加してくれるわけだ。
で、ウインドウスクリーンモードというのは、僕の見えている吹き出しの強化版みたいなもので、自分の取得している能力とかに対してコマンド表示があるらしい。RPGで言うところの「たたかう」とか「しらべる」的なやつだ。
一応僕の見える吹き出しも右上に『?』だけはある。だけどこれじゃ説明不足過ぎる。ウインドウスクリーンモードで詳細を選んで初めて細かいところまでわかる。
「他にもその能力持ってる人いるのかな」
「さあ? 他の人に会ったことないから。キミが初めてだし」
「そっか。僕もだよ。できればこんな風に話をしたいな」
「そだねっ。情報交換とか! ちょっと前まで毎日見かけてたんだし、仲良くはなれるよねっ」
だけどいつも電車が同じというだけで、みんなのことを知っているわけじゃないからな。急に仲良くやろうというのも難しいだろう。
でも目の前の紫電さんだって今日初めて話をしたくらいだけど、なんか馴染んでる。これは彼女のコミュ力なのかもしれない。
で、あのイケメンの彼やギャル……なんだっけ? ギャル介でいいか。元気でやってるかな。
「でさでさ! せっかく会ったんだし、フレ録しようよ! 情報とか話できるっぽいし!」
「えっ、なにその機能」
「えっ? ないの?」
すると紫電さんは虚空を見つめ、ぶつぶつ言う危ない子になった。
『紫電玲良さんからフレンド登録が届きました』
おっ? なんか吹き出しが出た! よし『Y』だ!
『紫電玲良さんとお友達になりました。やったね!』
ん! お、おう……、おう……。なんだこの切ない気持ち。
やったね! じゃないよ。全く……。
紫電玲良:テステス
紫電玲良:どう? 見える?
おー、なんかチャット来た! えーっと……
紫電玲良:おーい、見えてんのー?
紫電玲良:返事してよ!
ど、どうすればいいのこれ。
「ちょっと! ガン無視してんじゃないわよ!」
「ご、ごめん! どうやって返せばいいのかわからなくて」
「ウインドウの下に入力ボックスが出てるでしょ。そこに言葉を────」
「いやだからウインドウがないんだって」
「……それもないの?」
フレンド登録したはいいけど一方通行だった。
「……なんかムカつく」
「えっ、なんで!?」
「これじゃあ私が一方的に友達だと思い込んでて、無視されてるのに話しかけてるようなかわいそうな子みたいじゃない!」
「う、うん。なんかごめん」
仕方ないじゃないか。僕のせいじゃない。
「────じゃあそろそろ僕らは帰るよ」
「ああ。俺たちは兵士が来るのを待つから」
「兵士?」
「グランド・ラゴン討伐は国の依頼でね。どうやら欲しい素材があるらしくて運んでもらわないといけないんだ」
国ねぇ。まあ僕らには関係ないからいいや。
「それじゃまたね」
「うん。縁があったら」
結局狩れなかった。無駄足……じゃないよね。この出会いは無駄なんかじゃない。




