2話
神が選んだ勇者候補。それを表紙にした本を置き、買った人が召喚される。なるほど、必ず相手は好みになるわけだ。この場に女子がいるのはもちろんその対象が男だからなのだろう。
そして僕らの世界をを選んだ理由は、絶望的に魔力がない世界だからだそうだ。つまり余計なものが入っていないということになるらしい。
「そんな君たちだから得られる神の力を与えるよ」
すると地面からぽわぽわと光の玉みたいなものが浮上してくる。
「これが神の力だよ。それを捕まえられれば戦いに必要な力が手に入る」
「複数捕まえたら?」
「その数だけ手に入るよ」
みんな慌てて光の玉を捕まえようとしている。必死だ。しかしこいつらわた毛のように捕まらない。そっと手を近付けても、素早く出しても避けられてしまう。
「よっし、捕まえた!」
「私2個目!」
くぬぅ、みんなどんどん捕まえていく。僕はまだゼロだ。
そうしている間に光がどんどん上がっていく。もう手の届かないものまで出てきた。とりわけ背の高いわけでもない僕はかなり厳しい。
ラストチャンスにかける。よし! なんとか捕まえたぞ! これであの子の役に立てる!
光が吸収されるように僕の体へ入り込んでくる。そして目の前に謎の吹き出しが現れた。
『応援の力を与える能力を手に入れました』
……ってなんじゃこりゃああぁ!?
いや吹き出しくらいで驚いているわけじゃない。VRゲームでもよくあるし。そんなことよりもこの能力の意味がわからない。
すると頭で考えたことに反応したのか、説明文が現れた。親切機能だ。
どうやら『応援』という能力があり、それを使うことで対象の力が上がるそうだ。能力にはレベルがあって、今はレベル1。それで応援により得られる効果は戦闘値が1.2倍になるとのこと。
戦闘値?
疑問に思ったらまた吹き出しが。
戦闘値とは力や素早さ、反応速度、武器や素手による技術などから計算された総合値で、この数値で強いか弱いかがわかるらしい。パワーだけあっても振り回しているだけじゃ勝てないとかそういうものが全てこの数値に現れているそうだ。つまり、戦闘値が高い相手に勝てる可能性は低いと。
ふと周りを見たらみんな目の前に吹き出しが出ているんだろう、虚空を読むように眺めている。傍から見ているとおかしな光景だ。気をつけよう。
そして僕の戦闘値は103。これが高いのか低いのかよくわからないな。他人の数値も見れるのかな……おっ見える。
げっ、イケメン君は182もある。ギャルボーイは……124!? あんなに体力ないのに!?
……さっき泣き叫んでいた女の子、118もある。なに? 僕は女子より弱いの?
ま、まあいいさ。戦うのは僕らじゃない。きっとあの子は小さくても凄い力を持っていたりするんだ。なにせ神が選んだ勇者候補なんだからね。
「さてそれじゃあ一通りの説明を……って、しなくても平気そうだね。みんな色々と気付いているみたいだ。さすが現代っ子」
現代っ子って今でも使う言葉だったのか。それはさておき、こんなところでだらだらと話を聞いているつもりはなく、早く自分のパートナーと会いたいとわかりやすくみんなの顔に出ている。
「じゃあ早速行ってくるといいよ。後ろにあるトンネルを抜ければ本人の前に出るようにしてあるからね」
至れり尽くせりだ。こちらが協力してあげるというのだから当然ともいえるか。
そんなわけでみんなはいそいそと闇の続く道へそれぞれ歩いていった。
「さて、みんな行ったね」
「まだ僕が残ってるんだけど……」
僕の後ろにだけまだトンネルはなかった。まあもう少し話を聞きたかったからいいんだけど。
「うん、きみになら話をしてもいいだろうと思ってね。じつはこの戦い、人族の神と魔族の神との勝負なんだよ。どちらがより優れた種族であるかを決めるためのね。だから負けないで欲しい」
えっ、僕ら勝負の駒だったの?
ちょっと腹立たしくもあるが、それに対してのリターンに不満がないからいいか。
「そんなことに巻き込まれたのか……」
「やっぱりきみは変わってるね。でもそういうところが助かるよ。それときみは1つしか神の力を手に入れられなかったみたいだし、きみのことは気に入ったから餞別をあげるよ」
えっ、マジ? それはうれしい。みんな5、6個は手に入れていたから地味にがっかりしていたんだよ。友好的に接していてよかった。
「じゃあまずこれね。道具を腕時計に閉じ込められるんだ。時間ごとに封じられるし、何度でも使用できる。きみ専用にしてあるから取られる心配もないよ」
「それはうれしい! 今どき時計型っていうのはどうかと思うけどありがとう!」
「あはは、酷い言われ方したようなきがしたけど、どういたしまして。あと最後は能力だ。最適装備を出現させられる能力。これをうまく使ってね」
光をまた取り込んでいく。
これもまた能力レベルは1だ。きっとまだ大した装備は出せないだろう。それでもとてもありがたい。
「じゃあきみもすぐ向かうといいよ。早く彼女に会いたいでしょ」
「色々ありがとう。じゃあ行ってくる!」
僕は背後のトンネルを早足で進んだ。